世界でも有数の過酷な耐久レースになぜ参戦?
トーヨータイヤのレース活動の歴史は古く、1980年代から1990年代にかけては国内の「全日本ツーリングカー選手権(JTC、のちJTCC)」のグループAに参戦し活躍。JTCCが98年に終了したのちは欧州に舞台を移し、ドイツやオランダのツーリングカー選手権で、2010年代なかばまで活動を継続しました。
そして2020年、「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」で、欧州、およびサーキットでのレース活動を再開しました。
ドイツ北西にあるサーキット「ニュルブルクリンク」。別名「グリーン・ヘル(緑の地獄)」と呼ばれるこのサーキットは、グランプリコースとノルドシュライフェ(北コース)があり、ニュルブルクリンク24時間耐久レース(以下ニュル24時間)とNLS耐久シリーズ(以下NLS)はそのふたつを合体させたコースで争われます。
ノルドシュライフェは標高差がおよそ300mあり、大小さまざまな170以上のコーナーで構成された一周20.832kmの世界最長コース。170以上のコーナーは、ジャンピングスポットや高速のブラインドコーナーなどもあり、過酷なコースとなっています。
同社技術開発本部OEタイヤ開発部でこの参戦プロジェクトの開発リーダーを務める富高 祐氏は、この参戦には、大きくふたつの目的があると言います。
「欧州でのブランド認知の向上と技術力の研鑽(けんさん)です。ニュル24時間、そしてNLSが行われるニュルブルクリンクの北コースは、通常のクローズドのサーキットとは異なり、大きな高低差があるコースを、急加速と急減速を繰り返しながら走るという、タイヤにはとても厳しい条件です。路面の状態は一般道のコンディションに近く、ここで結果を残すことが、市販タイヤを含めたトーヨータイヤの技術力の高さをアピールする絶好の機会になると考えています」(富高氏)
では同社およびチームは、どのような体制でこの厳しい舞台に臨み、タイヤ開発を進めているのでしょうか。
同じくOEタイヤ開発部でタイヤ開発を担当する光延裕紀氏は、以下のように語ります。
「ドイツ人ドライバーAndreas Gülden(アンドレアス ギュルデン)、Michael Tischner(ミヒャエル ティシュナー)とHeiko Tönges(ハイコ テンゲス)の3名、そして2台体制での参戦時にはスポット参戦する、『PROXESブランドアンバサダー』の木下隆之選手とドイツ人ドライバーTim Sandtler(ティム サンドラー)とMarc Hennerici(マーク ヘンネリッチ)の2名で、シリーズを戦っています。ドイツ人ドライバーはニュルブルクリンクで十分な経験を積み、コースを熟知しているという強みがあります。また木下選手は、日本人レーサーとしてはニュルブルクリンクの第一人者とも言える存在で、さまざまなクルマとタイヤの組み合わせでニュルブルクリンクを走った経験があり、クルマの特性とタイヤの特性をきちんと切り分けた上で、開発に役立つ情報をわかりやすく伝えてくれます。彼らのコメントをもとに、“勝てるタイヤ”づくりを進めています」(光延氏)
さらに英語でのコミュニケーションが基本となるドイツ人ドライバーのコメントについても、木下選手という“フィルター”を通すことで、いっそう明確になると言います。
「ドイツ人ドライバーからは、さまざまな有益なフィードバックが得られます。しかし私たちとのコミュニケーションは英語を介するため、クルマの挙動やタイヤのフィーリングなど数値に表れない微妙なニュアンスの理解に、やや難しさを感じる部分が稀にあります。その際に木下選手のコメントと照らし合わせ、理解をさらにクリアにすることが出来ます。こうしたコミュニケーションが、ドライバーの意見を採り入れたタイヤ開発の進捗(しんちょく)に大きな力となりました」(富高氏)
では、ニュル24時間、そしてNLSを走るタイヤには、どのような性能が求められるのでしょうか。
「ニュルブルクリンクは1周約25kmと、他のサーキットにはない長さが特徴です。ニュル24時間、NLSとも、1スティント(クルマがピットアウトしてピットインするまでの区切り)は8周、約1時間ですが、この間、タイヤの摩耗や発熱による性能低下を起こさず、性能を維持し続けることが重要となります」(光延氏)
「コースの半分は完全ドライ、もう半分はヘビーウエットといったコンディションも珍しくありません。そのためウエットタイヤも『ウエット路面でのグリップとドライ路面での耐久性』という、難しい性能の両立を迫られることになります」(富高氏)
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