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Watches&Wonders2023で見えた「グランドセイコー」の現在地――ブランド史上初の機械式クロノグラフをどう見る?

 かつてのスイスには「時計販売ギルド」というものがあり、同じスイス国内であってもドイツ語圏に位置する時計店には、フランス語圏であるジュネーブの時計ブランドは卸さないというようなルールを設けていた。それくらい身内びいきが激しいスイス時計業界において、外国ブランドは完全に外様であった。

 いわんや、日本発の“クオーツ革命”によってスイス時計産業は壊滅的なダメージを受け、産業の規模が1/3にまで急落してしまったという過去があるため、日本ブランドに対する警戒感は強かった。

グランドセイコーのブースは、木材を使って暖かみのある雰囲気に。テンタグラフのほかに、ジュエリーモデルなども展示され、多くのジャーナリストが足を運んだ。
グランドセイコーのブースは、木材を使って暖かみのある雰囲気に。テンタグラフのほかに、ジュエリーモデルなども展示され、多くのジャーナリストが足を運んだ。

 事実、“世界最大の時計と宝飾の見本市”であった「BASELWORLD(バーゼルワールド)」(2020年に終了)では、メインホールの1階はスイスメイドの時計のみで占められ、どれだけブランド規模が大きく知名度が高くても、セイコーはメインホールの2階に入るのが精一杯だった。

 しかし、その風向きは完全に変わった。今や世界最大の高級時計サロンとなった「Watches&Wonders」に、グランドセイコーは2022年から参加している。もちろん非欧州系時計ブランドとしては唯一無二であり、しかもタグ・ホイヤーやゼニス、パテック フィリップといったスイス時計のメインストリームにあるブランドたちと肩を並べるようにブースを構えているのだ。

 グランドセイコーは1960年に世界に挑戦する国産最高級の腕時計を目指して誕生し、時代の変化に合わせて切磋琢磨し、技術力と独自性を磨くだけでなく、パリのヴァンドーム広場にブティックを作ったり、インテリアイベント「MILANO SALONE(ミラノサローネ)」に参加したりと、ブランドイメージの浸透にも力を入れてきた。その結果がついに実を結んだのだ。

 もちろん製品に魅力がなければ、イメージに傷が付いてしまうだろう。しかし今年のグランドセイコーには、そんな心配は無用だった。昨年はコンスタントフォース・トゥールビヨンの「Kodo」で話題をさらったが、今年はグランドセイコー史上初の機械式のクロノグラフを発表し、しっかり存在感をアピールしていた。

 そもそもセイコーとしては1969年に自動巻きクロノグラフを製作しており、グランドセイコーとしてもスプリングドライブ式のクロノグラフは存在していた。

 しかし、機械式クロノグラフはパーツが多くなるため、ムーブメントの薄型化が必須であり、実現するのが難しかった。この難問解決へのブレイクスルーとなったのが、2020年に誕生したムーブメント「Cal.9SA5」である。

 ハイビートかつロングパワーリザーブという基本能力に加えて、薄型設計でもある「Cal.9SA5」は、ベースムーブメントとしても非常に優秀であった。そこでこのムーブメントの文字板側に厚さ約3㎜のモジュールを組み込むことで、薄型の機械式クロノグラフムーブメント「Cal.9SC5」を完成させたのだった。

クロノグラフ秒針をギリギリまで伸ばすことで、精密な計測機器であることをアピール
クロノグラフ秒針をギリギリまで伸ばすことで、精密な計測機器であることをアピール

 このムーブメントを搭載したグランドセイコー初の機械式クロノグラフ「グランドセイコー エボリューション9 コレクション テンタグラフ SLGC001」は、その名前にも強いメッセージが込められている。

「TENTAGRAPH(テンタグラフ)」とは、TEN BEATS PER SECOND, THREE DAYS, AUTOMATIC, CHRONOGRAPHから作られた造語であり、毎秒10振動という高振動ムーブメントであるため、精度が安定するだけでなく1/10秒の計測も可能になる。また3日間のロングパワーリザーブを保持しているので、金曜日の夜に帰宅して時計を外しても、月曜日の朝まで時計はしっかり動き続ける。

 必要にして十分なスペックを持つテンタグラフは、“グランドセイコー初の機械式クロノグラフ”ではあるが、だからといって気負わずに、デザインはベーシックにまとめた。インダイヤルの配置は王道の横三つ目式で、カレンダーは4ー5時位置にセット。タキメーターはセラミックベゼルに配置している。すらりと長く伸びたクロノグラフ秒針は美しく、ダイヤルの岩手山パターンはグランドセイコーらしい表現になっている。

 堅牢性やメンテナンス性を高めるためもケースの厚みは15.3mmとややボリュームがあるが、ムーブメント自体の重心が低いため、フィット感が損なわれることはない。またデザインコードは、エボリューション9スタイルを用い、ヘアライン仕上げを巧みに使うことで、上質な雰囲気にまとまっている。

 Watches&Wondersにも参加し、ゆるぎない地位を確立したグランドセイコーだが、時計愛好家が好む高性能機械式クロノグラフ「テンタグラフ」の誕生によって、さらに注目度を高めるだろう。今グランドセイコーは、高級時計の世界の中心に位置しているのだ。

グランドセイコー公式サイト

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