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カーデザインの巨匠が描いたルックスも魅力的! 乗るだけで「豊かな気分」になれるフィアット初代「パンダ」はなぜ人気?【今こそ乗っておきたい名車たち】

シンプルだからこそ「豊かな気分になれる」

「いつも、いつまでも、そこに当たり前に存在する」と思い込んでいたものが、ふと気づけばなくなっていたり、その数や量が著しく減じていたりすることが分かったとき、人はなんともいえない気持ちになるものです。

 例えば、里山の美しい風景も近ごろはずいぶん減ってしまいましたし、個人的には“若さ”や“体力”みたいなものも、失いかけている気がしています。

 そして我々は今、「シンプルだからこそ美しく、貴重でもある」というタイプのクルマの筆頭格、フィアットの初代「パンダ」を失おうとしています。

フィアット初代「パンダ」
フィアット初代「パンダ」

 初代「パンダ」は、イタリアのフィアットが1980年から2003年まで製造・販売していたコンパクトカー。しかし、開発を担当したのはフィアットではなく、工業デザインの世界的巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインでした。

 ジウジアーロは開発と製造のコストを抑えて「誰もが買える価格の小型実用車」とすべく、ボディ外板にはひたすら直線と平面を採用。そしてウインドウにもややこしい曲率はいっさい与えず、真っ平らな板ガラスとしました。

 この辺りが、初代「パンダ」が今になって「レトロでカワイイ!」といわれる理由のひとつなわけですが、その出発点はレトロうんぬんではなく、「誰もが買える価格で良質な小型実用車をつくる」という思想および決意だったのです。

 初代「パンダ」は、インテリアも徹底的に簡素化されていました。普通のクルマでは樹脂製のダッシュボードとなる部分には、棒とキャンバスで構成された“ダッシュポケット”を採用。そして“セリエ1”と呼ばれる前期型のフロントシートは、簡素なパイプフレームに伸縮性のあるキャンバスを張っただけの“ハンモック式”でした。

 とはいえ初代「パンダ」は、決して貧乏くさいクルマではありませんでした。事実はむしろその真逆で、どちらかといえば豊かなクルマ」だったのです。より正確にいうのであれば、「豊かな気分になれるクルマだった」ということになるでしょうか。

 後期型である“セリエ2”になっても排気量が1リッターしかなかったエンジンは、もちろんローパワーですが、マニュアルトランスミッションを適切に操作すれば、なかなか小気味よく走ることができます。

 そしてインテリアも、前述のとおりひたすら簡素なのですが、簡素ゆえに、車内は意外と広くて使える空間なのでした。

●現代人には「これくらいがちょうどいい」

 もちろん、もっともっと強力なパワーユニットを備え、なおかつ至れり尽くせりのデジタル装備が全部盛りになっているコンパクトカーに乗る方が何かと便利かつ快適であることは間違いないでしょう。

 しかし、クルマに限らず何もかもがひたすら便利になった世の中に暮らしているからこそ、その便利さ自体に飽き飽きする瞬間があるのも人間というものです。特に都市部に住んでいる人は、そう感じることが多いのではないでしょうか。

 そんなときこそ、人は初代「パンダ」のようにシンプルな小型車に乗ってみたくなるのです。料理でもなんでもそうですが、「シンプルだからこそ、逆に豊穣である」という境地を味わいたくなるのです。

 単なるローテクおよびレトロ趣味の結果ではなく、小型大衆車としての本質を追求した結果として生まれた初代「パンダ」の“贅肉のなさ”は、ある意味、“ぜいにく”だらけの物々に囲まれている現代人の心と身体に、とってもよく効きます。そしてその結果、「人間の生活って、実はこれくらいがちょうどいいのかも……」と、思い至ることになるのです。

 しかし、それもこれも筆者が勝手にいっている戯言にすぎないのかもしれません。

 筆者の戯言をよそに、世の中の実用車はどんどん重厚長大かつデジタル装備満載の方向にシフトしていますし、スーパーカーの世界に至っては、もはや生身の人間では制御できないほど超絶高性能&高機能になっています。

 そして、肝心の初代「パンダ」の中古車も、“絶滅”とまではいかないものの、その方向へと向かっていることは確かです。

 10年ほど前まで、中古車情報サイトの画面をクリックすれば、当たり前のように数十台の初代「パンダ」を見ることができました。

 しかし、2025年7月上旬現在、最大手のサイトを見てみても、初代「パンダ」は全国で20台ほどしか販売されていません。この数字が早晩、ゼロになることはないと思われますが、ひとケタ台になってしまう時期は、意外と早期に訪れるのかもしれません。

 その辺りはなんとも断言できませんが「今のうちに乗っといた方がいいクルマ」であることだけは確かです。

 なぜなら、初代「パンダ」が入手困難となり、ついでにシトロエン「2CV」みたいなクルマも絶滅してしまった後は、車輪を通じて「シンプルだからこそ、逆に豊穣である」という世界観を味わいたいと思ったとしても、我々には「自転車に乗る」くらいの選択肢しか残されていないからです。

Gallery 【画像】「えっ…!」中古車の販売台数が激減中! これが乗ると「豊かな気分」になれるフィアットの初代「パンダ」です(12枚)

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