BMW初代「M3」はなぜ神格化されている? 軽くてシンプル さらに「レースマシン直系」というストーリーで価値は衰え知らず【今こそ乗っておきたい名車たち】
クルマの価値は“速さ”で決まるものではない
ツーリングカーレースのグループAカテゴリーに参戦すべく開発された、BMWの初代「M3」(E30型)。そのレーシングモデルがDTM(ドイツツーリングカー選手権)やWTC(世界ツーリングカー選手権)などで残した華々しい戦績の数々はご存じのとおりですが、グループAマシンとして公認を取得するために発売された市販バージョンの初代「M3」は今、きわめて入手困難な状況となっています。

その昔、大手の中古車情報サイトに十数台、あるいはそれ以上の数の初代「M3」が並んでいたものですが、直近の掲載台数はわずか6台。そしてその価格は「総額900万円以上」というのが相場となっており、2.5リッターエンジンを搭載する後期型の進化モデル「M3 スポーツエボリューション」に至っては、2000万円以上のプライスタグがつく場合が多くなっています。
記憶をたどってみれば、筆者(伊達軍曹)は今から20年ほど前、当時、編集を担当していた雑誌内の企画で、初代「M3」に何度か試乗したことがあります。細かいことはすべて忘却の川へ流れてしまいましたが、「当時の車両価格は200万円~300万円くらいだった」ということと、「気持ちのいいクルマではあるが、決して速くはなかった」ということだけはよく覚えています。
もし速さだけで物事を評価するのであれば、筆者が今、自家用車として愛用している2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジンを搭載する2024年式の日本車の方が、率直にいって数段上でしょう。
しかし、筆者の自家用車は今から20年後、900万円やら2000万円やらの価格で売買されていることは決してありません。総額30万円くらいで取引されていたならまだマシな方で、実際には十中八九、誰からも求められなくなった結果、「流通台数0台(相場は測定不能)」ということになるはず。
要するに、クルマの価値は“速さ”で決まるものではない、という話です。
ならば、BMWの初代「M3」の価値とはなんなのでしょう? 人は初代「M3」の何に、900万円なり2000万円なりの価値を感じるのでしょうか?
●グループAマシンの“直系”モデルというストーリー
ひとつには、そこには現代のクルマが失ってしまった“軽さ”あるから……という理由があるはずです。
全長4360mm、全幅1675mm、全高1365mm、および車両重量1200kgという数値がもたらす軽さと軽快感は、現代のクルマではほぼ絶対に得られないものであり、さらに加えて、2.3リッター直列4気筒DOHCユニット自体の軽さも効いています。
ご承知のとおり、初代「M3」が搭載する“S14”ユニットは、BMW「M1」に搭載された超絶レーシングユニット3.5リッターの“M88”型直列6気筒DOHCエンジンと全く同一の、93.4×84.0mmというボア×ストロークを持つ自然吸気エンジン。端的にいうのであれば、“M88”の2気筒分をカットして4気筒にし、排気量を2302ccとしたユニットです。
つまり、レーシングユニットの切れ味と4気筒ゆえの軽さを併せ持っているのが、初代「M3」に搭載された直4DOHCエンジンであり、その鼻先の軽さと切れ味ゆえに、今となっては「たかが」といえる最高出力200ps/6750rpmであっても、ある種の大いなる価値を感じられるのです。
加えて、つくりがシンプルであるというのも、初代「M3」のバリューが半永久的であることの要因でもあるはず。
筆者の自家用車などは、20年後、コンピュータ関係の部品が全く使い物にならなくなり、なおかつ、代替部品も(たぶん)入手不可能となるため、どこかが逝ったとしたら修理しようがなく、そのまま土に還らせるほかなくなります。
しかし、コンピュータ仕掛けではなく、機械仕掛けのクルマである初代「M3」であれば、部品さえ入手できればいくらでも直し続けることができます。
もちろん、純正部品の供給ストップやフレームのサビなど、いかんともしがたい問題はあります。ですが、専門店がストックしている中古部品と知見をフル活用すれば、ある程度、解決できる問題ではあるのです。
このように、軽さとシンプルさはもちろん初代「M3」の価値を決定づける重要な要素ですが、それ以上に重要なのは“ストーリー”なのでしょう。
公認取得用車両として、比較的わずかな台数しかつくられなかったこと。そのグループAマシンは世界中の優秀なライバルたちを向こうに回し、連戦連勝を記録したこと。そんなグループAマシンの“直系”が、今ここにある市販バージョンの「M3」なのだ……そんなストーリーにこそ人は燃え、あるいは萌えるのです。
もしも初代「M3」が、単に“軽量かつシンプルで、非常に優秀なエンジンを搭載したスポーツクーペ”というだけの存在で、なんのレースにも挑戦していなかったとしたら……。
それでも、新車として販売されていた期間と、終売から5年間くらいはけっこうな人気を誇ったはずですが、その後は次第に忘却の方向へと向かい、終売から10年も経った頃には「そういえば『M3』なんてクルマがあったね。カッコよかったよね」で話が終わる存在になっていたでしょう。
“ストーリー”あるいは“神話”の主役となったことで、BMW初代「M3」は半ば永遠の命を得るに至ったわけですが、神話の効力には限界もあります。ディープな好事家が手元の初代「M3」を廃棄処分にすることは未来永劫ないはずですが、一般市場で流通する初代「M3」の数は、冒頭で申し上げたとおり激減中です。
それゆえ、もし貴方がこれから「神話の世界の一員」になりたいと思うのであれば、つまり、BMW初代「M3」を購入したいと考えるのであれば……変にあおるわけではなく、あくまでも事実として、急いだ方がいいでしょう。
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