「スイカゲーム」「ポップインアラジン」など、アイデアを次々と形にする起業家は“懐かしのインフォバー”×スマートリングで何を狙うのか【家電で読み解く新時代|Case.30】
ヘルスケアは、なぜ続かないのか──起業家が突き当たった根源的な違和感
今回、天井照明一体型プロジェクター「popIn Aladdin」や、社会現象となったゲームを生み出した起業家・程 涛氏に、新事業となるヘルスケア分野へのインタビューを行った。
そもそもヘルスケア製品ほど、「正しい方法がわかっているのに続かない」ジャンルはない。体重計、活動量計、食事管理アプリ──どれも理屈は正しい。しかし、使われ続ける製品は驚くほど少ない。この“違和感”こそが、程氏がissinを立ち上げた出発点だった。
「多くのヘルスケアは、努力のできる人を前提に設計されています。でも、世の中の大半はそうじゃない。必要だと分かっていても、続かない人のほうが圧倒的に多い」
ここで重要なのは、「怠けているから続かない」のではない、という視点だ。程氏は、ヘルスケアには少なくとも4つの“コスト”が存在すると整理する。
1つ目は、測るコスト。
2つ目は、データを理解するコスト。
3つ目は、何をすべきか判断するコスト。
そして4つ目が、行動を継続するための心理的コストだ。
これらコストが積み重なることで、健康管理は次第に「正しいけれど面倒なもの」へと変わっていく。issinが向き合ったのは、健康そのものではなく、人が健康を続けられない構造そのものだった。

体重計を“床”にした理由──スマートバスマットに宿る家電的発想
issinを象徴するプロダクトが、2023年に登場した「スマートバスマット」だ。見た目はバスマット。しかし、風呂上がりにその上に立つだけで、体重や体組成が自動で記録される。
体重計は、「出して、乗って、しまう」必要がある。
一方、スマートバスマットは、ただ「お風呂やシャワーから出て、足を拭くという、いつもの行動をしているだけ」でいい。
これは家電進化の王道だ。洗濯機、掃除機、食洗機──人がやりたくない、あるいは意識しないと実行できなかった行為を、「意識しなくても完了するもの」へと変えてきた。その思想をヘルスケアに持ち込んだのが、スマートバスマットである。
「頑張らせない。思い出させない。意識させない。それでもデータは、ちゃんと溜まっていく」。実際に筆者も使用しているが、家電スペシャリストとして見ても極めて筋がいい。健康管理を“特別な行為”から、“生活インフラ”へと引き下ろそうとしているからだ。
ここで大きく削減されているのが、4つのコストのうち「測るコスト」である。測定行為そのものを生活に埋め込み、意識から消す。これが、issinにおけるハードの役割だ。

睡眠だけでは、健康は語れない──スマートリングに行き着いた必然
issinが次に向き合ったテーマが「睡眠」だった。しかし、程氏は早い段階で気づいたという。「睡眠“だけ”を見ても、問題は解決しない」と。
たとえば、たまたま眠れなかった日があるとして、その原因は睡眠時間の数字だけを見ても分からない。昼間に強いストレスを受けたのかもしれない。夜遅くに重い食事を取ってしまったのかもしれない。睡眠は、生活全体の結果として現れるものだ。
枕や寝具でデータを取ることも検討した。しかし、それでは「眠っている時間」しか見えない。スマートウォッチやスマートバンドも選択肢にはあったが、今度は「寝ているときに気になって外してしまう」という問題が出てくる。
そこで行き着いたのが、リングだった。指輪であれば、違和感は限りなく少ない。睡眠中に外してしまう可能性も低く、日中も含めて生活全体のデータを連続的に取ることができる。
アイテムは小さくても、「データを取る」という意味では大きな差はない。むしろ、身につけ続けられることこそが、最大の価値になる。

身につけるからこそ、デザインがすべて──INFOBARが示した答え
「身につけるものは、置き家電とはまったく別物です。デザインがダメなら、機能がどれだけ良くても広がらない」
その考えを体現したのが、INFOBARとのコラボレーションだ。NISHIKIGOIやICHIMATSUといった象徴的なデザインを、スマートリングという極小のプロダクトに落とし込む。
狙いは明確だ。「健康のために仕方なく身につける」のではなく、「好きだから自然と身につけている」状態をつくること。程氏は、家庭でのエピソードも率直に語ってくれた。
「自社だけで開発して、すでに発売中のスマートリカバリーリングを妻に渡したとき、いい製品だとは認めてくれたんですが、正直あまり積極的には身につけてくれなかった。
でも、INFOBARのプロトタイプを渡すと、アクセサリーとしてデザインまで含めて評価してくれて、自然と身につけてくれるようになったんです」
家族に受け入れられるかどうか。それは、ポップインアラジンのシーリングライト(または照明)一体型プロジェクター時代から、程氏が一貫して重視してきた判断軸だ。家族に支持されるものは、やがて社会にも浸透する。INFOBARスマートリングは、その思想の延長線上にある。

理解・判断・継続を軽くする──アプリとAIが担う本当の役割
ハードによって「測る手間」は、ほぼ意識されないレベルまで削減された。しかし、
・データを理解するコスト
・次に何をすべきか判断するコスト
・そして、行動を続けるための心理的コスト
これらは、ハードだけでは解消できない。ここを一気通貫で解消するのが、issinのアプリ「ウェリー」だ。程氏がベンチマークとして挙げるのが、語学学習アプリのデュオリンゴだ。
「英語を学ぶ方法はいくらでもある。でも、どれも続かない人がいる。だからこそ、“続けられる設計”が重要なんです」
「ウェリー」も同様に、正しさを押し付けない。数値をそのまま突き返さず、AIが文脈を読み取り、噛み砕いて伝える。さらに、スイカゲームのエクササイズ版のようなゲーミフィケーションによって、運動そのものを「楽しい体験」に変えている。
そこに登場するのが、ウェリーというキャラクターだ。毎日の小さな変化に気づき、少しずつ褒める。怒らない。失敗を責めない。この設計が、最大の壁となる心理的コストを大きく下げている。
生成AIの進化によって、こうした体験設計は実装しやすくなった。一方でissinは、医師や管理栄養士といった専門家を社員としてチームに迎え、裏側のロジックには確かな根拠と信頼性を持たせている。「楽しい」と「安心できる」を両立させるためだ。

鍛えるのではなく、回復を見る──issinがスマートリングに託した決定的な違い
アプリやAI、ゲーミフィケーションの設計を見ていくと、issinのヘルスケアが単なる「運動促進ツール」ではないことが見えてくる。
多くのヘルスケアプロダクトが軸に据えているのは、「いかに鍛えるか」「いかに運動量を増やすか」という発想だ。だが、程氏が繰り返し強調するのは、そこではない。
「眠れなかった理由は、睡眠そのものにあるとは限りません。昼間のストレスや、夜遅い食事、活動量の偏りなど、生活全体を見ないと原因は分からないんです」
実際、睡眠時間や深さといった数値だけを切り出しても、根本的な改善につながらないケースは多い。そこでissinは、枕やベッドといった“睡眠一点集中型”のアプローチを取らなかった。
常に身につけられ、違和感が少なく、日中も夜間もデータを取り続けられる──その合理的な答えが、スマートリカバリーリングだった。

ここで重要なのは、データを集めること自体ではない。集めた情報から、「今日は無理をしないほうがいい」「回復が追いついていない」という判断を引き出せるかどうかだ。
一般的なヘルスケアが、“もっと頑張らせる”方向へユーザーを導きがちなのに対し、issinはあえて「今日は足さない」という選択を肯定する。それは、鍛えるためのヘルスケアではない。日々削られていく回復力を、静かに取り戻すための設計だ。
仕事や家庭の責任が増え、「成長」よりも「持続」が重要になる、特に30代〜50代にとって、この思想は極めて現実的だと言えるだろう。努力を前提にしない。
その代わりに、回復できているかどうかを見極め、必要以上の負荷をかけない。ここに、issinのスマートリングが他社製品と決定的に異なる理由がある。

家電は「管理」から「無意識」へ──issinが示す次のスタンダード
家電の進化は、常に“意識しなくなる方向”へ進んできた。issinがヘルスケアで実現しようとしているのも、まさにその延長線上にある。ハードで測ることを無意識化し、アプリで理解・判断・継続を限りなく軽くする。
「楽しく、いつの間にか健康になる」
この言葉の裏には、人間理解、家電思想、そして起業家としての冷静な現実認識がある。ヘルスケアが“自己管理”から解放されるとき、そこにはまったく新しい市場とライフスタイルが立ち上がる。issinは、その変化の最前線に立っている。
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