耳をふさがないスピーカー“耳スピ”はどこが新しい?「nwm(ヌーム)」が描く“共存の音”という未来【家電で読み解く新時代|Case.34】
耳を塞がないのに、世界が途切れない
自分は日常的にnwm(ヌーム)の完全ワイヤレス耳スピーカー「nwm DOTS」を使っている。家の仕事部屋で原稿を書きながら、ふとキッチンから子どもの声が聞こえてきて、それに自然に返事をする──そんなことが普通にできる。
オンライン会議に参加しているときも同じだ。会議に集中しながら、生活の声はそのまま届く。イヤホンの“遮断される感じ”がないので、仕事と暮らしの境界がにじむ。
キッチンでコーヒーを淹れながら音楽が流れ、家族に呼ばれればそのまま反応する。「一回外して、聞こえなかった、もう一回言って」がなくなるだけで、生活がこんなに軽くなるとは思わなかった。
駅に着けば、自動アナウンスで電車の接近を知らせる放送が普通に聞こえる。移動しながら音楽やコンテンツを楽しんでも、都市の安全と切り離されない。
この“安心感のある音体験”は実際に生活で使わないと気づけない価値だ。

生活に降りてきた技術──NTTの研究所から始まった物語
NTTソノリティの坂井博社長は、耳スピの裏側にある技術の起点をこう語る。
「NTTは電話の会社なので、ずっと“音”を研究してきました。何十年も前から『音は広がっていくけど、制御できないか』という問いを持っていたんです」
電話というインフラの背景には、聞こえやすさ、ノイズ、残響、音声帯域──さまざまな“音を扱う技術”があった。その延長に生まれたのが、PSZ(Personalized Sound Zone)という技術だ。坂井社長はこう例える。
「PSZは簡単に言えば “音のスポットライト” です。光を当てたところだけ明るくなるように、音も当てたところのスポットだけ聞こえる」
実際にNTTコンピュータ&データサイエンス研究所では、“ファーストクラスの座席に座った人だけ音が聞こえ、立つと聞こえなくなる”というデモが作られていた。スピーカーから出た音が空間中に広がらず、特定の範囲にだけ留まるという現象。
最初は航空機やオフィスなどBtoB文脈で研究されていたものが、ある時ふと「これ、イヤホンに応用したら?」となる。
そして生まれたのが、「耳を塞がない」「音が漏れにくい」「周囲の声が聞こえる」「自分にはちゃんと聞こえる」という、一見矛盾した耳スピーカーの原型だった。坂井社長は言う。
「技術に詳しくなくても、『音ってこんな扱い方があったんだ』と感じてもらえればいいんです。実際にこのデモを研究所で知って、入社した社員もいるほど感動的な体験でした」

隔絶のヘッドホンから、共存の耳スピへ
この技術PSZ技術が生活に合致したのは、実は偶然ではない。2020年前後、世界中の家庭で“仕事と暮らしの共存”が始まったからだ。坂井社長はこう振り返る。
「リモートワークで“耳を塞ぐこと”が不便になりました。オープンイヤーは、生活と共存するための選択肢だったんです」
この“共存”という単語は、nwmを理解するうえで決定的だ。従来のヘッドホンが外の世界をシャットアウトして没入する装置だったのに対して、耳スピは世界をシャットアウトしないまま音を楽しむ装置である。
その価値はスペック表よりも、生活シーンの中では圧倒的な差になる。

制度も生活に寄ってくる──交通ルールが示す未来
面白いのは、制度の側も「共存する音」に寄り始めていることだ。2026年4月から自転車の反則金制度が導入され、イヤホン装着の扱いも明確化されつつある。
警察庁のルールブックでは耳を塞いで周囲音が聞こえない走行はNGだがオープンイヤーは一律禁止ではないというスタンスが示されている。つまり、nwm DOTSのようなデバイスは“生活+安全”の両立が制度的にも評価され得る。
坂井社長はあえて制度の話を大げさに語らないが、耳を塞がないという技術思想が、交通安全や公共空間と自然に接続しているのは事実だ。

New Wave Maker──技術ではなく価値を作る会社
この技術と生活の接点を、ブランドとして束ねたのが nwm(ヌーム) だ。会社ができたのは2022年。その時点でブランドも製品も世界観もなかった。
「会社もない、ブランドもない。でも“これを世界に出すべきだ”という確信だけはありました」
そこから生まれたのがnwm=New Wave Maker。新しい音の波も、新しい時代の波も作るブランド。その象徴として俳優・クリエイターの斎藤工氏を起用した理由も明快だ。
「有名だからではなく、挑戦している姿勢がnwmそのものだったんです」
俳優であり、監督であり、写真家でもある。ひとつの肩書に収まらない表現者は、まさに“波”を作る存在だ。

製品が世界に語り始めた──nwm ONEとnwm DOTS
この思想を形にした最新の代表的ラインナップがnwm ONEとnwm DOTSである。nwmにとっては初代ラインナップを発売した2022年のブランド設立時で、これらは2代目だ。
●nwm ONE(ヌーム ワン)
・耳を塞がないオープンイヤー型オーバーヘッド耳スピーカー
・PSZ技術により音漏れを抑えつつ自然な聴こえを両立
・2025年に世界的デザイン賞Red Dot AwardとiF Design Awardの最高位を受賞する
・価格:3万9600円 カラー:3色
●nwm DOTS(ヌーム ドッツ)
・オープンイヤー型完全ワイヤレス耳スピーカー
・ケーブルレスで街中や移動時にも使いやすい
・自然な音場で周囲音も聞こえるため自転車や徒歩通勤と相性が良い
・価格:24200円 カラー:5色
これらはいわゆるヘッドホン的価値観で判断してはいけない製品だ。低音の響きや高音の伸びがといった音質だけで語るのではなく、新しい生活のインターフェースだからだ。
映画を見ながら家族の声に気づける、レシピ動画を流しながら子どもの呼びかけに応じられる、そして、後ろから近づく車の音にも気づけながら、好きな音楽をBGMに走れる──それは没入体験ではなく、共存体験である。
ここにnwmならではの独自性がある。坂井社長は、製品設計についてこう説明する。
「ヘッドホンを再定義するというより、“生活を再定義する”という方向でした。音で人々の生活を音をどう届けるかだけではなく、“どう共存させるか”がテーマだったんです。“家族と喧嘩せずに済むヘッドホン”なんて、面白いじゃないですか」

nwmの魅力は“音の便利さ”ではなく“生活の余白”を自然と埋めること
ここまで見てきたように、nwmが成し遂げていることは、単なるオーディオ製品のリプレイスではない。PSZという高い技術基盤があり、それを生活の中の“共存”という価値に翻訳し、さらに言葉と人格で市場言語を奪取している。
耳スピは、単なる“キャッチコピー”ではない。
それは「生活と音が共存する」という未来の体験そのものを指し示す言葉だ。そして斎藤工というアンバサダーの存在は、その価値観が単なるスペックではなく、生き方の選択肢となる文化であることを象徴している。
私は家電スペシャリストとして、このnwmの歩みを単なるガジェットの成功物語としてではなく、時代の価値観そのものが変わる瞬間の物語として捉えている。新型コロナで価値が変わったヘッドホン市場は、今や「共存の音」を求める新しい時代に突入したのだ。
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