VAGUE(ヴァーグ)

時代はより“クラシックに回帰”する!? オリスジャパン代表が語る、独立系ブランドが貫く「誠実な時計づくり」と2026年の展望とは

「ラグスポ」から「クラシック」へ。W&W 2026に見る新しい時計の風

 2026年4月中旬、世界中の素晴らしい新作時計が一堂に会したスイスの「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026」。現地を取材した際に肌で感じたのは、近年の時計ブームを牽引してきた「ラグジュアリースポーツ(ラグスポ)」が定番として完全に定着した一方で、次なる確かなうねりとして「クラシックスタイル」への本格的なシフトが始まっているという変化でした。

 実はこの動きは、現代のライフスタイルや社会全体の価値観の変化とも深くシンクロ。

 アパレル市場においても、肩パッドなどの硬い芯材を省いてカーディガンのように軽く羽織れる「リラックスフィット」のテーラードジャケットや、太畝コーデュロイやヘリンボーンといった温かみのあるクラシカルな素材が再び脚光を浴びています。

 カラーパレットについても、これまでのネイビーやグレーといった定番色に加え、モカブラウンやチョコレートブラウンなど、自然を感じさせる落ち着いたアースカラーや暖色系が上昇しています。

 一時的な流行を追うのではなく、自らが本当に「愛着」を持てる普遍的なワードローブを大切にする「クワイエット・ラグジュアリー」の潮流が、2026年も根強く継続しているのです。

 この「見た目には品格と伝統がありながら、内実は極めて快適で実用的」というネオ・クラシックなアプローチは、時計業界における「小径化(ダウンサイジング)」や「日常を美しくドレスアップするクラシックなタイムピースの復活」の潮流とも共鳴。

 今回の見本市でも多くのブランドから35mm〜39mmといった、より快適でエレガントなサイズ感への回帰が目立ちました。時計がステータスシンボルから「日常を豊かにするパートナー」へと移り変わる社会の流れを、リアルに伝えていたのが印象的です。

 この流れを読み解くため、ジュネーブから帰国されたばかりのオリスジャパン代表取締役社長であるロベルト・プレイタヴィノさん(以下、ロベルトさん)に、お話を伺いました。

オリスジャパン代表、ロベルト・プレイタヴィノ氏
オリスジャパン代表、ロベルト・プレイタヴィノ氏

 ロベルトさんは、現地でのリアルな手応えについて、笑顔で次のように語ってくれました。

「おかげさまで、今年のW&W 2026でのオリスの新作は世界中から非常に高い評価をいただきました。

 オリスは以前から、ただスペックや高価格を競うのではなく、『日常で使える良い時計』を作り続けてきましたが、今回の見本市で新しいコンセプトのモデルを投入したことで、ブランドの持つ一貫したメッセージが今の時流と完璧に合致したと感じています」

 オリスは1904年の創業以来、スイス・ヘルシュタインを拠点に誠実な時計づくりを続けてきた独立系ブランドです。

「コングロマリット(大資本グループ)に属していない『インディペンデント』であることは、オリスにとって最大の強みです。

 なぜなら、自分たちが正しいと信じるデザインや、誠実な価格設定、そして社会貢献活動を、大株主の都合や画一化された世界トレンドに縛られることなく、スピーディに自らの意志で決定できるからです。

 今回の新作にも、私たちのそんな『フリーダム(自由)』の姿勢がそのまま宿っています」

1966年の“自由と独立”を宿す、35mmの「オリス スター エディション」

 その自由な精神を最も象徴しているのが、今年大きな話題を呼んだ「オリス スター エディション(Oris Star Edition)」です。35mmという非常にクラシカルなトノー(樽型)ケースは、手首の細い日本人の腕元にも美しく収まります。

装着感、サイズ感ともに申し分ない新作「オリス スター エディション(Oris Star Edition)」
装着感、サイズ感ともに申し分ない新作「オリス スター エディション(Oris Star Edition)」

 ロベルトさんによると、この時計の背景にはオリスの歴史においてとても重要な「独立への闘い」のストーリーが隠されているそうです。

 1930年代に制定された「スイス時計法」は、一部の既得権益メーカーに最新技術の採用を制限し、オリスには精度の低いピンレバー脱進機しか使えないという不条理なルールを強いるものでした。

 当時のオリスの弁護士であったロルフ・ポートマン博士らが10年間に及ぶ法廷闘争の末にこの法律を覆し、1966年にようやく高品質な自動巻きムーブメントを搭載して誕生したのが、初代の『Oris Star』なのです。

 それは、ブランドの独立と誇りをかけた、壮絶な挑戦のシンボルでもありました。その誕生60周年となる節目の2026年に、当時の美しいクッションケースの意匠を忠実に再現したのが本作です。

「実際に腕に乗せてみると、手首のカーブに吸い付くような抜群のフィット感があります。

 このデザインは、時計コレクターやヴィンテージ好きにはもちろん深く刺さっていますが、実は若い世代にとっては、非常に『新しくて、フレッシュなもの』として映っているんです。

 彼らは60年前の歴史を直感的に超えて、このレトロモダンなデザインを新鮮なファッション・アクセサリーとして楽しんでいます」

 編集部でも、若い世代のスタッフが「この丸みを帯びたクッションケース、すごく新鮮でカッコいいです」と、直感的に気に入っていたことを伝えると、ロベルトさんは「そうそう、まさにその通りです!」と嬉しそうに頷かれました。

 世界共通で、若い世代の感性が新しい「クラシックの解釈」を楽しんでいるようです。

日常を優美にドレスアップする「アートリエ コンプリケーション」の復活

 もうひとつの注目作が「アートリエ コンプリケーション(Artelier Complication)」です。こちらも、ドレスウォッチとしてのオリスを代表するシリーズ待望の復活となりました。

ムーブメントは旧作で搭載していたキャリバー781と基本構造を同じくする自社製キャリバー782を採用。インダイヤルを2つに絞ることで新たな表情を獲得している
ムーブメントは旧作で搭載していたキャリバー781と基本構造を同じくする自社製キャリバー782を採用。インダイヤルを2つに絞ることで新たな表情を獲得している

「アートリエは数年前に一度廃盤となり、私たちのラインナップから本格的なドレスウォッチのカテゴリーが一時的に消えてしまっていました。

 それを今回、新進気鋭の女性プロダクトデザインエンジニアであるレナ・フヴィラー(Lena Huwiler)の参画によって、現代の感性に合わせた全く新しい姿でリローンチしました」

 新開発の「Cal. 782」を搭載したことで、文字盤から曜日や日付の窓をあえて削ぎ落とし、非常にミニマルですっきりとしたバイコンパックス(2つ目)表示に生まれ変わっています。

「これによって、外周のサークルリングと、中央部の柔らかなグレイン仕上げ(粒子状テクスチャー)のコントラストがより引き立ちました。

 特にチェストナット(栗色)などの温かみのあるカラー文字盤や、12時位置に配された詩的なムーンフェイズは、私たちの強みである『色彩の表現力』を最大化しています。

 就職や卒業、大切な仕事のシーンでスーツやジャケットを着用される際、この新世代のアートリエは完璧に寄り添ってくれます」

30万〜40万円台という価格帯が示す、オリスの「誠実なものづくり」の価値

 今回のオリスの新作を語る上で、注目したいのがその「誠実な価格設定」です。「Oris Star Edition」は国内想定価格が約30万8000円 、そして複雑機構を備えた「Artelier Complication」は約39万6000円前後に抑えられています。

 近年、高級時計は価格高騰しており、多くのブランドが簡単に手の届かない存在になりつつあります。その中で、この30万〜40万円台という価格帯は、実質主義な大人のための最も熱いボリュームゾーンです。

代表の腕にはオリスより初の日本限定モデルとして登場した「アクイス ジャパン リミテッド エディション」が
代表の腕にはオリスより初の日本限定モデルとして登場した「アクイス ジャパン リミテッド エディション」が

 オリスは、時計を愛する人のために、120年を超える時計製造の技術とストーリーを、誰もが手に取れる適正な価格で提供する。この実直で「素直な時計づくり」の哲学こそが、世界中の、そして日本の時計ファンの心を掴んで離さない本質的な魅力なのだと、改めて実感させられます。

2026年、日本市場でロベルト氏が実現したい「笑顔(Smile)」

 オリスのブランドパーパスは「Make People Smile(人々を笑顔にする)」です。2026年、日本においてこの哲学を体現するにあたり、ロベルトさんはどのようなアクションを予定しているのでしょうか。

「私たちは、単に時計という製品を売るだけでなく、それを通じて『笑顔』や『より良い変化(Change for the Better)』を生み出すコミュニティを作りたいと思っています。その一環として、2026年は日本で独自のパートナーシッププログラム『Oris Tomo(オリス・トモ)』を本格的に始動させました」

今後、さらにオリスのファンを増やしていきたいと話すロベルト氏
今後、さらにオリスのファンを増やしていきたいと話すロベルト氏

 そのメンバーには、7本の指のピアニストとしてパラリンピック閉会式でも演奏された西川悟平氏、時の流れを風景として切り取る画家の真田将太朗氏、そしてプロレーサーとしても活躍する織戸茉彩氏の3名が選ばれています。

「彼らはそれぞれ、障害や常識といった限界に立ち向かい、自らの手で未来を切り拓いている、まさに『独立の精神』を持った人々です。彼らとのコラボレーションを通じて、日本の多くの方々に、何かに挑戦する勇気や、毎日を笑顔で丁寧に生きるきっかけ(Tomoの絆)を届けていきたいと考えています」

クルマ、旅、ライフスタイルとしての時計

 実はロベルトさん自身も、クルマや旅が好きだと言います。

「私はイタリアのトリノ出身で、実家はフィアットの工場のすぐ近くでした。父はフィアットのテクニカルデザイナー(メカニカルデザイナー)だったんです。

 だから私自身も、クルマもエンジンも好きだし、時計も昔から大好きでした。でも、細かいムーブメントのオタク(時計マニア)というわけではありません。

 旅が近くにあり、クルマが身近にあり、その豊かなライフスタイルの一部として時計を楽しんできました。

 だからこそ、ライフスタイル全体を通して、もっとオリスの魅力を伝えていきたいのです」

 スマホで時間を管理され、通知に追われる現代だからこそ、あえて手でぜんまいを巻き、文字盤を愛でる機械式時計を持つこと。

 この、意図的に時間をデータから切り離して、時計との対話や自然の移ろいを楽しむアナログな時間が、現代のビジネスパーソンにとっていかに最上級の「マインドフルネス(心地よい時間)」になり得るか。ロベルトさんは、その深い魅力について以下のように話してくれました。

「おっしゃる通りです。時計は単に正確な時間を知るだけの機能的な道具ではなく、自分のスタイルを表現し、機嫌をよく保つためのアクセサリーです。朝、スマートフォンを開く前に、一瞬だけ呼吸を整えて手巻き時計のぜんまいを巻く。

 あるいは、夜にふと窓を開けて、腕元のムーンフェイズと実際の夜空の月を見比べて、同じ形をしていることに微笑む。それは、時間を『追う』のではなく、自分の手の中に時間と自分自身を『取り戻す』という、最も人間らしく贅沢な行為です。

 オリスが提供したい『Make People Smile』とは、まさにそうした、日常のなかの小さな、でも確かな瞬間に生まれる『心地よく、豊かな笑顔』なのです」

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三宅隆
三宅隆
VAGUE編集長
1978年生まれ。モノ・ライフスタイル誌等の編集部を経てWebメディア『VAGUE』編集長に就任。スイスで行われる世界最大の時計見本市「Watches & Wonders Geneva」を取材するなど、腕時計からモビリティ、最新家電、アウトドアまで大人の審美眼にかなうモノを幅広く追究。自らもキックボクシング歴17年の非常勤インストラクター(KNOCK OUT GYM)として活動し、ビジネスパーソンにウェルネスを提唱。「自分らしく輝く」ために自らをデザインする前向きな生き方の基準として、心身を整える実践者の視点を交え、自分らしい豊かさへの指針を発信中。

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