マッチングアプリ、Pairs(ペアーズ)の「ハイブリッド型マッチング」は新時代の“恋ウェル”を高められるか
なぜローンチ企画が「ピックルボール」なのか
最初の大型企画として、ペアーズはピックルボールワンと組み、2026年8月22日と23日に「Let’s Play Pickle」を開催する。
ピックルボールは、バドミントンほどのコートで、卓球のようなパドルと穴の開いたボールを使い、テニスのように打ち合うスポーツだ。
ピックルボールワン代表取締役の熊倉周作氏は、出会いとの相性について、こう語った。

「ピックルボールには、一人で参加することが当たり前という文化があります。しかも日本には部活経験者がほとんどいないので、みんなが“初めまして”の状態から始められる。上手い、下手が関係しにくく、最後には“また打ちたい”が次に誘うきっかけになるんです」
初心者でも10分ほどで試合ができ、狭いコートに4人が入るため、自然に声を掛け合う。ポイントの合間にはパドル同士を合わせる「パドルタッチ」があり、直接ハイタッチするよりも気恥ずかしさが少ない。

ここには、デジタルだけでは生まれにくい身体性がある。ミスしたときに笑えるか。初心者にどう接するか。パートナーを励ませるか。短いプレーの中にも、その人の素の反応が表れる。
そして、気になる相手をいきなり「デートに誘う」のではなく、「また一緒に打ちませんか」と誘える。共通の体験そのものが、次に会う理由になるのだ。
起業家の目で見ると、これはイベント事業ではない
事業戦略として見ると、ペアーズが目指しているのは、イベント会社への転身ではない。
山本氏は質疑応答で、収益面について次のように説明した。
「このマッチングイベントでものすごく儲ける、という考えではありません。私たちにはマッチングアプリという既存事業があるので、新しい出会いの場をユーザーに提供できればいい。ある種、プロダクトの一つの機能として捉えています」
ここが重要だ。ペアーズは累計2700万のユーザー基盤と、本人確認、マッチング、メッセージという既存のデジタル資産を持つ。一方、提携先には会場、インストラクター、運営ノウハウ、カラオケやスポーツといった体験資産がある。
ペアーズはパートナー向けに、予約、受付、参加者管理、ユーザー告知を一元化するイベント管理システムを提供し、事業者は得意な場づくりに集中する。
たとえばカラオケ店にとっては、空いている時間や部屋を新しい来店動機へ変えられる。スポーツ施設には、競技を知らなかった若年層との接点が生まれる。ペアーズには、アプリだけでは次の一歩へ進めなかった既存ユーザーを動かし、新規登録の入口も増やせる可能性がある。
これは典型的なO2Oであると同時に、デジタルの顧客基盤とリアル事業者の遊休資産を結びつけるプラットフォーム戦略でもある。
ただし、成功の条件はイベント数を増やすことではない。発表会では、会場へのアクセスや参加人数、飲食、BGMの音量など、毎回のアンケートをもとに細部を改善していることも明かされた。年齢構成、男女比、進行役の質まで磨き続けなければ、「また参加したい」にはつながらない。
テクノロジーの裏側に泥臭いオペレーションが必要なのは、家電開発もサービス事業も同じだ。
既婚者こそ、Z世代の恋愛事情をアップデートすべき
ペアーズイベントは現在、独身者を対象としたサービスであり、既婚者は利用できない。
筆者自身、発表会の質疑応答で「イベントが多彩で面白そうだが、結婚している自分は参加できないのか」と尋ねた。
山本氏は、現時点では恋人との出会いを求める独身者に対象を絞るとした上で、こう答えた。
「プラットフォームやパートナーの規模が広がれば、友人探しや同性同士、あるいは既婚者向けという可能性がなくはありません。ただ、現在は独身の男女に絞り、最終的に出会っていただくことを目指しています」
では、既婚者は今回のニュースと無関係なのか。私はむしろ逆だと思う。
30代から50代くらいの読者には、職場や学校、友人の紹介などを通じて、現在の配偶者と出会った人も多いだろう。自分たちの若い頃には、「気になるなら直接声をかける」「連絡先を聞く」「職場の仲間が恋を取り持つ」といった行動が、今より自然だったかもしれない。
しかし、SNSで人間関係が可視化され、職場や学校で相手の境界線を越えないことへの意識も高まった現在、同じ振る舞いが同じように受け止められるとは限らない。
「昔はアプリなどなくても恋愛できた」「最近の若者は消極的だ」と、自分の成功体験だけで判断するのは危険だ。それこそ、若い世代から“老害”と見なされる最短ルートになりかねない。

ペアーズイベントを知ることは、若者に迎合することではない。なぜ、いきなり1対1で会うことが重いのか。なぜ、その場で連絡先を聞かれることに負担を感じるのか。
なぜ、本人確認や共通体験、後から意思表示できる仕組みが安心につながるのか。現代の恋愛を取り巻く前提を理解し、自分の物差しを更新することだ。
やがてアルファ世代が恋愛の中心へ入ってくれば、オンラインかリアルかという区別は、さらに意味を失っていくだろう。オンラインで安全性や意思を確認し、リアルで相手の人柄を知り、再びオンラインへ戻って関係を育てる。その往復は、彼らにとってごく自然なものになる可能性がある。
独身の読者にとって、ペアーズイベントは、自分の恋愛ライフを無理なく前へ進め、結婚を含む将来を考える実用的な選択肢になる。一方、既婚者にとっては、Z世代やアルファ世代の恋愛観を理解するための新しい教養になる。
恋ウェルという視点は、恋人を探している独身者だけに閉じたものではない。恋愛やパートナーシップにおいて、相手の意思や距離感を尊重し、自分の価値観を一方的に押しつけない。その核にある関係リテラシーは、結婚後の夫婦関係はもちろん、親子や職場での世代間コミュニケーションにも通じる。
ペアーズがスマートフォンの外へ踏み出したのは、オンラインの出会いを否定するためではない。リアルの人間らしさとオンラインの安心感を組み合わせ、誰もが自分のペースで関係を始められるようにするためだ。
この挑戦が、恋愛の入口で人を必要以上にすり減らさず、恋ウェルを支えるサービスへ育つか。イベントの華やかさよりも、その後に生まれる関係の質を見ていきたい。
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