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ティファール、70周年で“フライパンの会社”をやめる!? 服を吸うアイロン、4色炊飯器、1万円超フライパンに見えたブランド戦略

70周年は「お祝い」ではなく、新たな成長のスタート

 一見するとまったく異なる3製品です。しかし、そこには70年間で築いたブランドを、技術、世代、価格帯という異なる方向へ広げようとするT-falの「次の70年」が見えてきます。

 1956年、フランスで世界初の「こびりつかないフライパン」を生み出したことから始まったT-fal。その後、調理器具から電気ケトル、調理家電、生活家電へと領域を広げ、2026年に70周年を迎えました。

 ただ、今回の発表会を取材して強く感じたのは、「70周年を迎えました」という過去を振り返るイベントではなかったことです。

 グループセブ ジャパン代表取締役社長のジュリアン・メジャー氏は、70周年を「単なる通過点ではなく、新たな成長へのスタート」と位置づけました。

 そのうえで、コーヒーマシンや炊飯器など新しいカテゴリーへの挑戦をさらに加速すると宣言。もうひとつ重要なテーマとして挙げたのが、「新しい世代との接点づくり」でした。

エアロスチーム Sのスチーム噴射。平均20g/分のスチームで繊維をほぐし、周囲の吸引口で生地を引き寄せることで、ハンガーに掛けたままでもシワを伸ばしやすくするのが新機構の狙いだ。
エアロスチーム Sのスチーム噴射。平均20g/分のスチームで繊維をほぐし、周囲の吸引口で生地を引き寄せることで、ハンガーに掛けたままでもシワを伸ばしやすくするのが新機構の狙いだ。

強いブランドほど、「次の一歩」は難しい

 長く続いたブランドほど、「○○といえばこの会社」という強い資産を持っています。しかし、その強さはときとして、自らの事業領域を狭める壁にもなります。

 T-falなら「フライパン」「取っ手のとれる」「電気ケトル」。もちろん、これらは非常に強力なブランド資産です。しかし、70年後も成長するためには、そのイメージを守るだけではなく、そこからどう広がるかを考えなければなりません。

 今回の3製品は、その答えを異なる方向から示しているように感じました。

グループセブ ジャパン代表取締役社長ジュリアン・メジャー氏。70周年を「新たな成長へのスタート」と位置づけ、炊飯器など新カテゴリーへの挑戦と、若い世代との接点拡大を今後のテーマに掲げた。
グループセブ ジャパン代表取締役社長ジュリアン・メジャー氏。70周年を「新たな成長へのスタート」と位置づけ、炊飯器など新カテゴリーへの挑戦と、若い世代との接点拡大を今後のテーマに掲げた。

服を“吸う”という発想で、スチーマーとアイロンの境界を壊す

 まず技術面で象徴的なのが、11月発売予定の「エアロスチーム S」です。

 衣類スチーマーには長年、ある分かりやすいトレードオフがありました。ハンガーに掛けたままサッと使えて便利だけれど、アイロンのようなパリッとした仕上がりは苦手、という問題です。

 T-falが今回出した回答は面白いものでした。

 衣類を吸ってしまえばいい。

森泉さんがエアロスチーム Sを手にした実演シーン。公称約1.1kgの本体だが、筆者が会場で試した際は重心バランスがよく、数字から想像するほど重さは気にならなかった。
森泉さんがエアロスチーム Sを手にした実演シーン。公称約1.1kgの本体だが、筆者が会場で試した際は重心バランスがよく、数字から想像するほど重さは気にならなかった。

360度吸引と約1mmの段差が生む「吸着」と「滑り」

 独自技術「オプティフローテクノロジー」は、スチームヘッド中央からスチームを噴射し、その周囲360度に配置した吸引口から衣類を引き寄せます。発表会では、吸引口をプレート面より約1mm低く設計することで、衣類を密着させながらも張り付きすぎず、滑らかに動かせるようにしたとの説明もありました。

 つまり、「大量スチームで繊維をほぐす」「吸引して生地を張る」「ヒーティング面で熱を伝える」という、アイロンが担ってきた仕事をハンガーに掛けた状態で行おうとしているわけです。

 平均スチーム量は20g/分。吸引はソフトとターボの2段階で、吸引を使わないスチームのみのモードも選択できます。

 実演では、シャツのシワが吸引されながら伸びていくだけでなく、袖に折り目を付けるところまで披露されました。

エアロスチーム Sのかけ面。中央のスチーム孔の周囲360度に吸引口を配置し、吸引口をプレート面より約1mm低くすることで、生地を引き寄せつつ滑らかに動かせるよう工夫している。
エアロスチーム Sのかけ面。中央のスチーム孔の周囲360度に吸引口を配置し、吸引口をプレート面より約1mm低くすることで、生地を引き寄せつつ滑らかに動かせるよう工夫している。

約1.1kgでも、実際に使うと重さが気になりにくい

 発表後、筆者自身も実機を試しました。製品重量は約1.1kgあります。正直、数字だけを見れば「少し重いのでは?」と思っていました。

 ところが実際に持って動かすと、想像したほど重さが気になりません。重量そのものより重心バランスがうまく取られている印象で、さらに吸引によってヘッド側が衣類に密着するため、腕だけで本体を支え続ける感覚とも少し違います。

 何より興味深かったのは、これまで衣類スチーマーを使っていて最後に残りがちだった、「でも、きっちり仕上げるなら結局アイロンも必要だよね」という感覚に正面から挑んでいることです。

 これは衣類スチーマーの高性能化というより、衣類スチーマーとアイロンの境界そのものを曖昧にする製品なのかもしれません。

森泉さんによる実演。ハンガーに掛けたシャツへヘッドを当てると吸引で生地が密着し、もう片方の手で裾を引っ張り続けなくてもシワを伸ばせる。アイロン台を使わず片手で作業できるのが特徴だ。
森泉さんによる実演。ハンガーに掛けたシャツへヘッドを当てると吸引で生地が密着し、もう片方の手で裾を引っ張り続けなくてもシワを伸ばせる。アイロン台を使わず片手で作業できるのが特徴だ。

4色の「ザ・ポップ」が狙うのは、若い一人暮らし

 次に登場したのが、「ザ・ポップ マイコン式炊飯器 4合」です。

 アイボリー、レモンイエロー、ミントブルー、サニーオレンジ。これまでのT-falの炊飯器とは明らかに雰囲気が違います。

 ここで重要なのは、単なるカラーバリエーションではないことです。

 T-falは2022年に日本の炊飯器市場へ参入しました。既存の「ザ・ライス 遠赤外線IH炊飯器」シリーズでは、主に30〜40代のファミリー層を狙ってきました。

 一方、発表会で商品担当者は、ザ・ポップについて「さらにユーザーベースを広げる」ため、より若い生活者、特に一人暮らしをターゲットにしたと明言しました。

 ここで、先ほどのメジャー社長の「新しい世代との接点づくり」という言葉につながります。

「ザ・ポップ マイコン式炊飯器 4合」は、レモンイエロー、アイボリー、ミントブルー、サニーオレンジの4色展開。若い一人暮らしを意識し、従来の白物家電とは異なるポップな佇まいに仕上げている。
「ザ・ポップ マイコン式炊飯器 4合」は、レモンイエロー、アイボリー、ミントブルー、サニーオレンジの4色展開。若い一人暮らしを意識し、従来の白物家電とは異なるポップな佇まいに仕上げている。

若者向けは色だけじゃない、価格・サイズ・スマホ導線まで

 4合炊きながら本体は約248×226×202mmとコンパクト。税込参考価格は1万3200円です。白米、早炊き、玄米、雑穀米、炊き込み、お粥に加え、煮込み調理にも対応します。

 さらにNFCを搭載し、スマートフォンを本体にかざすとレシピページへアクセスできます。

 もっとも、NFCが付いたから「スマート炊飯器」だと評価するつもりはありません。スマホをかざしてWebページを開くこと自体は、いまや驚くような技術ではないからです。

 むしろ注目したいのは、炊飯器の使い方を説明書の中だけで完結させず、若いユーザーが日常的に使うスマートフォン側へ導線を伸ばしたことです。

 製品、価格、色、レシピ、スマホとの接点まで含めて、従来のT-fal炊飯器とは違う顧客に向けて“編集し直した”商品と考える方が本質に近いでしょう。

本体にスマートフォンをかざすとレシピページへアクセスできるNFC機能。高度なスマート機能というより、取扱説明書の中で完結させず、日常的に使うスマホへ調理体験をつなぐ導線としての役割が大きい。
本体にスマートフォンをかざすとレシピページへアクセスできるNFC機能。高度なスマート機能というより、取扱説明書の中で完結させず、日常的に使うスマホへ調理体験をつなぐ導線としての役割が大きい。

そしてT-falは「1万円を超えるフライパン」を作った

 若い世代へ間口を広げる一方で、T-falは逆方向にも動きます。

 それが「ポール・ボキューズ コレクション」です。

 ポール・ボキューズは「現代フランス料理の父」「料理界の法王」とも称された料理人で、世界的な料理コンクール「ボキューズ・ドール」の創設者としても知られます。

 興味深いのは、単なる有名シェフの名前を冠したコラボ商品ではないことです。

 ポール・ボキューズのルーツはフランス・リヨン。そしてT-falもリヨン近郊に本社を置きます。

 発表会では、このコレクションについて「単なるブランド同士のコラボレーションではなく、リヨンを中心とした美食文化とものづくり、その2つの伝統や価値観が一致したことで実現したプロジェクト」と説明されました。

「ポール・ボキューズ コレクション」の展示。フライパンや鍋、キッチンナイフまでそろえ、ゴールド仕上げのハンドルやPaul Bocuseのシグネチャーによって通常ラインとは異なるプレミアム感を打ち出す。
「ポール・ボキューズ コレクション」の展示。フライパンや鍋、キッチンナイフまでそろえ、ゴールド仕上げのハンドルやPaul Bocuseのシグネチャーによって通常ラインとは異なるプレミアム感を打ち出す。

史上最高峰の技術で「手頃なT-fal」を超える

 製品にも相応の技術が投入されています。

 フライパンにはT-fal史上最高峰という新開発の「フュージョンコア コーティング」を採用。チタン強化マトリックスコアを内部に形成し、コーティングを内側から支える独自構造です。

 20cmのフライパンで1万2100円、28cmなら1万5400円。24cmのシチューポットは2万2550円です。

 ナイフも面白く、French Nitroxを配合したステンレスを使い、刃を14度と4度という左右非対称の鋭角設計にしています。

 つまりT-falは、「手頃で便利」という強いブランドイメージを持ちながら、その上にプレミアムという新しい階層を作ろうとしているわけです。

ポール・ボキューズ コレクションでは、フライパンにT-fal史上最高峰という「フュージョンコア コーティング」を採用。ナイフも非対称の鋭角設計とし、デザインだけでなく機能面でも上位ラインとして作り込む。
ポール・ボキューズ コレクションでは、フライパンにT-fal史上最高峰という「フュージョンコア コーティング」を採用。ナイフも非対称の鋭角設計とし、デザインだけでなく機能面でも上位ラインとして作り込む。

技術を横へ、顧客を若者へ、ブランドを上へ

 こうして3製品を並べ直すと、今回の70周年発表会が単なる新製品のお披露目ではなかったことが見えてきます。

 エアロスチーム Sでは、独自技術によって衣類スチーマーというカテゴリーの守備範囲を広げる。

 ザ・ポップでは、これまでT-falの炊飯器が十分に取り込めていなかった若い一人暮らしへ顧客層を広げる。

 そしてポール・ボキューズ コレクションでは、プレミアム市場へブランドを上方向に広げる。

 言い換えるなら、技術を横へ、顧客を若者へ、ブランドを上へ。

 成熟したブランドにとって難しいのは、新しいことを始めることそのものではありません。「自分たちは何者なのか」を失わずに、新しい領域へ進むことです。

 T-falには70年をかけて築いた強烈なブランド資産があります。それを守るだけなら、これほど異なる商品を同じステージで発表する必要はないでしょう。

 フライパンから始まったブランドが、衣類を吸うスチーマーを作り、若者向けのポップな炊飯器を作り、再び原点であるフライパンでは1万円を超えるプレミアムラインへ挑戦する。

 一見すると散らばって見える今回の新製品群は、むしろT-falが「次の70年」に向けて、自分たちのブランドをどこまで広げられるのかを試し始めた証しなのではないでしょうか。

 70周年は、ゴールではない。

「フライパンのT-fal」の次をつくる。その挑戦が、いま始まったのだと思います。

製品概要

製品名: エアロスチーム S
品番: DT9302J0
カラー: アイボリー
発売時期: 2026年11月予定
参考価格: 1万8000円(税込)
サイズ: 約W140×D170×H250mm
重量: 約1.1kg
水タンク容量: 150mL
スチーム量: 平均20g/分
消費電力: 1260W
コード長: 約2.5m
付属品: 計量カップ

製品名: ザ・ポップ マイコン式炊飯器 4合
カラー/品番:
アイボリー/RK535AJ0
ミントブルー/RK5354J0
サニーオレンジ/RK535TJ0
レモンイエロー/RK5352J0
発売時期: 2026年9月
参考価格: 1万3200円(税込)
サイズ: 約W248×D226×H202mm
重量: 約2.1kg
炊飯容量: 0.72L(4合)
釜厚: 約1.5mm
消費電力: 350W
コード長: 約1.0m
付属品: 炊飯用カップ、しゃもじ、スプーン、蒸しかご

製品名: ポール・ボキューズ コレクション
発売時期: 2026年11月予定
ラインナップ: フライパン4製品、鍋2製品、キッチンナイフ3製品
主な製品/参考価格(税込):
フライパン20cm/1万2100円
フライパン24cm/1万4300円
フライパン28cm/1万5400円
ウォックパン28cm/1万6500円
ソースパン16cm/1万8700円
シチューポット24cm/2万2550円
シェフナイフ18cm/8250円
三徳ナイフ16.5cm/8250円
ユーティリティナイフ12cm/7150円

Gallery 【画像】70周年で変わり始めたT-falの新製品を見る
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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