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頭を外すと“腕時計”になる!? 独立系時計工房エムビー&エフが本気で作った15kgの合体ロボ「HM12」

 起点となるコンセプトは、「もしロボットの頭が時計だったら?」だそうだ。思いついたのはMB&Fの創設者であるマクシミリアン・ビュッサー。スイスの時計業界においてブランドとしてはスタジオ規模ながら、溢れんばかりの創造性、もっと言えば「時計に見えない時計」、しかも折り紙つきの超絶複雑時計を、設計から製作まで独自に手がけることで知られるジュネーブの時計工房だ。

 だからこれまでもMB&FはブルガリやH.モーザーとコラボウォッチを作り上げて発表し、2024年からはシャネルと継続的なパートナーシップを結んでいる。ちなみにMB&Fとは、マクシミリアン・ビュッサーとフレンズ(友人たち)の意だ。

時計を頭部として装着した、ブルーのザ・ガーディアン
時計を頭部として装着した、ブルーのザ・ガーディアン

 前置きが長くなったが、取材時、虎ノ門のホテルに現れたMB&Fの広報担当者が、シンガポール、中国、台湾そして東京へと、ツアーに携えて我々に披露した新作が、「HM12 ザ・ガーディアン」だ。見ての通り、昭和の男の子なら誰もが遊んだ記憶があるだろう、昔懐かしい超合金ロボットのような雰囲気をもつ。

 しかし直径22cmのベース台を含めて全高は38.2cmというかなり存在感のあるサイズで、総重量は15㎏にも達する。あらゆる表面が磨かれたボディ各部のパーツはSS製、それこそ時計のグレード5チタン製ケースやムーブメントと同様の丁寧なポリッシュで仕上げられている。そして755点ものパーツで構成されるロボット本体に、じつは直線だけでできているパーツはひとつもない。

 「デザインを手がけたのはプロダクトデザイナーのマクシミリアン・メルテンスという、インハウスのデザイナー。それこそ開発に5年近く、ロボットが最終型のこのカタチになるまで、彼がやり直してボツになったプロトタイプは20体ぐらいあります。ロボットの身体パーツはレペ1839で製作されていますが、彼はそこの出身。でも時計を手がけたのは初めてですね。ビュッサーは時計師でもデザイナーでもなく、クリエイティブ・ディレクターとしてアイデアを出す人。それを設計やカタチに落とし込む作業は、これまで外注していたんですけど、次の世代、人材が必要ということで、メルテンスを迎えました。期せずしてHM12は、MB&Fとして創業20周年目を記念するモデルになりましたね」

 と、広報担当のアルノー・レジュレ氏はよどみなく説明する。レペ1839とは複雑な金属のオブジェやアクセサリーなどを製作する会社で、数年前にLVMHグループ傘下となった。

 「HM12」とはMB&Fのホロロジカル・マシーンという複雑オブジェのシリーズとして第12作目で、 「ザ・ガーディアン」とはこのモデルのペットネームといえる。胸には機械式温度計。右腕にはムーブメントを観察するためのルーペ、左腕にはUVトーチがマグネットで装着されており、これを本体に照射すると青色の部分、スーパールミノバが発光する。

 そして腕時計として使う際には、クイックリリース機構付きのストラップを台座に設けられた引き出しの中から取り出すという仕組みだ。

シースルーバックから見える、左右対称のムーブメント
シースルーバックから見える、左右対称のムーブメント

頭部を外すと、左右対称の腕時計に

 ロボットの頭部、つまり時計そのものは上側のラグが動くため、こちらをリリースすれば外せる。ケースサイズは縦49.3㎜、横43.6㎜、厚みは13.8㎜と、決して小さくはないのだが、下側のラグは角度固定のまま上側ラグがスイングするため、手首の上に載せてみると意外なほど、つつがなくフィットする。着用しても、ロボットの顔を表すために左右対称に徹底的にこだわったという、その表情は健在だ。

 「12時位置というか、額の位置ですね、こちらはフライングトゥールビヨンです。常に動いている時計にしてロボットの頭脳そのもの。左右の目は時分を示す小ダイヤルで、ジャンピングアワーとトレーリングミニッツになっています。そして口の位置は、MB&Fのロゴが入った、バトルアックス型のマイクロローターですね。もちろん風防はサファイヤクリスタルで、頭頂側からもトゥールビヨンに光が届いて、その動きを側面から眺めることもできます」

顔を覆うシールドの部品
顔を覆うシールドの部品

顔を覆う「バトルモード」と、裏側の伝統技法

 加えてHM12の最大の特徴は、フェイスシールドと呼ばれる独自機構にある。これは両耳に相当する2つのリュウズのうち左側を回すと、文字盤フェイスの上・中・下の各段の一部を覆う青いシールドが、シャキーンとせり出してくる。この動きも左右対称で、モジュール機構としてただ載せるだけでは機能せず、薄く、しかも普段はキレイに隠す必要があった。そうでないと「バトルモード」の効果が出ないので、このためだけに200点以上のパーツが用いられているとか。

 「実際、ムーブメント設計を担当した時計師のカリ・ヴーティライネンと彼のチームが、もっとも苦労したのはこのシールド機構です。というのも、スイスの伝統的な時計造りには存在しない機構でしたから(笑)」

 最終的には、オートマタで見られたような、回転運動を往復運動に変えるフォーク状のパーツを多用したそうだ。実際、このタイムピースの「ロボットと時計」という二面性は、時計そのものの表と裏にも、同じことがいえる。まるでロボットのような表のフェイスに対し、サファイヤクリスタルから見える裏側の眺めからは、スイスの伝統的な時計造りの技巧をじっくり鑑賞できる。ケース自体はグレード5のチタン、84点のパーツからなるが、86石で84時間のパワーリザーブ機構を備えた、新開発の専用ムーブメントは646点ものコンポーネントで構成されている。つまりボディと時計を合わせて、HM12 ザ・ガーディアンは約1500点ものパーツによる複雑なタイムピースなのだ。

 「ロボットの身体の側と同じく、ムーブメントのパーツも、ひとつとして完全な直線だけでできているパーツはないんです。すべて柔らかな線で機能性を与えられ、必要なだけの磨き処理が施されていますが、完璧な左右対称にまとめられています。ロボットの裏の顔という訳です」

 ピンクゴールドの地板の表面は、ざらついたようなグレイン加工だが、側面は丁寧にポリッシュで磨き込まれている。マイクロローターの半月形錐に施されたギョーシェ彫りも見事だが、時分を司る歯車の表面は、梨地と鏡面それぞれのスネイル仕上げによって、表面は2段のコンケーブに処理されている。シャトンやアングルの磨きまで、おそろしく精緻で丁寧な仕上げだ。見る者を惹きつけて時計内部の奥深くへと誘う仕掛けは、まるでロボット・アニメの主人公が、操縦室に収まるのにも似た効果といえるだろう。

腕時計と組み合わせた3色のザ・ガーディアン
腕時計と組み合わせた3色のザ・ガーディアン

完売した時計を、それでも日本へ持ってくる理由

 レジュレ氏が東京で披露したこのHM12ザ・ガーディアンは生産前プロトタイプだが、実際にはブルーの他にグリーンとパープルがあって、各色12体ずつ計36体の限定。1体は約28万スイスフランという価格ながら、発表から5日ですべて完売したという。

 「MB&Fの主要な顧客はもちろん世界中にいますが、これまでは中東やシンガポールの存在感が強かった。でも近年はアメリカで熱狂的に迎えられていて、正直、HMシリーズのようなハイエンドの複雑時計だけでなく、クラシックなシリーズやM.A.D.というセカンドラインでも、需要が生産キャパシティを上回っている状態が続いています」

 ではなぜ、売り切れている時計をわざわざ東京にまで披露しに来てくれたのだろう?

 「スイスの伝統的な高級時計造りは、少し逆説的ですが、誰もが手に入れられるものではないからこそ、それを継承している我々は広く知ってもらう必要があるんです。MB&Fの日本正規インポーターをやりたい、そういった引き合いはつねにありますが、ディーラーは売れる限りはもっと本数が欲しい、そういうことになります。ですが、我々の方では急に生産量を増やす計画も能力もない、そういう状態なんです。それに欧州ではグレンダイザーに代表される合体ロボ・アニメは日本が発祥ですから、潜在的な日本の顧客にどうしてもお見せしたかったんですよ」

 慌てず、息の長いつき合いを、続けていくこと。本格的な機械式時計とは、ビジネスでも個々のタイムピースという点でも、そういうもののようだ。

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