「よいクルマは100メートル走ればわかる」マクラーレン「GT」はどうして人を魅了するのか
実用性を兼ね備えたスーパーカー
よく冗談で、「良いクルマというのは、100mも走ればその魅力が分かるもの」などということがあるが(俺だけの話かもしれないけれど)、マクラーレンに誕生した第4のラインともいえる「GT」(グラン・ツーリスモ)は、まさにそのようなモデルだった。
イギリス本国で、このGTが発表されたのは2019年5月。日本では同年の6月にデビューを飾った。ほかにマクラーレン製のGTといえば、限定生産を前提としたアルティメット・シリーズに「スピードテール」が存在し、またかつてはポピュラーなスポーツ・シリーズにも「570GT」がラインナップされていた。個人的にはパフォーマンスとラグジュアリー性、そして実用性の絶妙なバランス感こそが、マクラーレンのGTの大きな魅力と感じていた。
●100メートルでわかる本物感
良いクルマであることは、確かに100mで想像できたものの、たった100mの試乗でマクラーレンGTのシートから下りる理由などどこにもない。なぜなら長距離のドライブを楽しみながらそのパフォーマンスを楽しむことこそが、至福の時間なのであるから。
デザイン・ディレクターのロブ・メルビル氏によれば、雨滴や鳥の羽根など、自然が作る美というものに影響を受けたというそのデザインは、確かに流れるように美しい。
そしてこの10年もの間マクラーレンが作り続けてきたプロダクションモデルに共通する、機能が美しさを生み出し、それを可能なかぎり小さなパッケージとして包み込むシュリンクド・ラップのコンセプトも継承されていることが見て取れる。
左右のドアはもちろん上方に向って開くディヘドラルドア。それをオープンした姿は、まさに自然界に生きる鳥の機能美を想像させる。
スーパースポーツとしてのキャラクターは、フロントマスクやワイドなリアフェンダーで巧みにそれが表現されている。リアに570リッター分のラゲッジルームを持つGTは、ルーフからガラス製のリアハッチを滑らかにテールエンドまで連続させる。
キャビンはもちろん2シーターの設計で、コントローラーによって走りのキャラクターを、「H(ハンドリング)」と「P(パワートレーン)」の各々で独立して、「ノーマル」、「スポーツ」、「トラック」のモードから選択することができる。
ちなみに両モードでノーマルをチョイスすると路面状況の良い道では、まさに高級サルーンのようなフラットな乗り心地や、620psを発揮する4リッターV型8気筒ツインターボエンジンに組み合わされる7速SSG(7速DCT)も積極的にシフトアップを促す制御になる。これならば長距離のドライブでも、疲れを感じることはほとんどないだろう。
ワインディングロードで思い切り遊びたいという向きにも、このGTはきちんと対応してくれる。そんな時に選択すべきはスポーツ・モード。エンジンサウンドはさらにダイナミックなものとなり、フットワークも明らかに硬さを増し、ステアリングもより正確に狙ったラインをトレースできるようになる。さらにスポーツ志向が強まるトラック・モードは、その名のとおりサーキット走行などで使用すべきものと考えるべきだろう。
●「GT」のよさの理由は?
このようなマクラーレンGTの魅力、その根底にあるものは何なのか。
それはいうまでもなく基本構造体にカーボンファイバー製のモノコックタブを使用したことによる軽量性と優秀なエアロイナミクスだ。
マクラーレンはF1の世界に始めてカーボンモノコックを導入したコンストラクターであるし、また同様にF1マシンにおいて、エアロダイナミクスで走るモデルの開発には非常に長けた存在でもある。その血統を受け継ぐプロダクションモデルが、魅力的な存在とならないわけはないのだ。
夜明けまで走り続けたことで、リアミッドのV型8気筒エンジンのスムーズで力強いフィーリングとともに、マクラーレンの最新GTを今回は十分に味わうことができた。やはりどんなに優秀なクルマでも、わずか100mではその真の魅力は分からないということか。