日常のアシは「電気自動車がいいかも!?」 経験不足だった筆者がフィアットの電動SUV「600e」と10日間過ごして気づいたこととは?
運転が苦手な人でもBEVのメリットを味わえる「600e」
肝心の走りも然り。もちろん、「600e」のパワートレインは最高出力156ps、最大トルク270Nmに過ぎないので、脳ミソがクラッとするほどの加速力があるわけじゃありません。しかし、気持ちがスッとするくらいの加速力、思わず口元がゆるむくらいの楽しさはしっかりと持ち合わせています。

ただそれだけで気持ちよく感じられるなめらかなフィーリング、欲しいときに欲しいだけトルクを提供してくれる瞬発力、4名乗車など苦にしないだけの力強さも備わっています。
乗り心地は、重厚で安定している上にフラットで優しく、走っている最中に常にじわじわ伝わってくる上質感は、相当なもの。ちょっとした高級車の領域にあるといっても過言ではありません。
そして何より感心したのは、ハンドリングの味つけです。BEVは重いバッテリーを低い位置に、しかも比較的自由度高くレイアウトできるので、基本、どのモデルもハンドリングが優れている傾向にあります。
またフィアット車は、エンジン車はもちろん、BEVの妹分である「500e」もそうなのですが、ステアリングのフィールがクイックであることが多いのです。
ところがこの「600e」は、どちらかといえばマイルド方向の味つけ。素直に曲がって行きたい方向へと向かってくれる気持ちよさを、誰もが安心して操作でき、自然でおだやかな操舵感とともに味わえるのです。ビギナーや普段あまりクルマを運転しない人にときどき見られる、「予想よりクルマが切り込んじゃってヒヤリとした」みたいなことがありません。
それでいながら、その気になってタイトなワインディングロードを元気よく走ってみたら、ちょっとしたスポーツカー顔負けのコーナリングパフォーマンスを披露してくれます。
適度に締まったサスペンションが上下によく動く=4本のタイヤに与える荷重のコントロールがしやすい=クルマの向きを変えていく自由度が高い……そうした能力をしっかり使いこなせるドライバーであれば、一連の動きの楽しさや気持ちよさを、特有の粘り腰の安心感とともに、たっぷりと満喫できる仕立てとなっているのです。
それは、どんな実用車であっても……場合によっては商用車であっても……必ずスポーティなテイストを持たせてきたフィアットの伝統芸能のようなもの。運転がそれほど得意じゃない人でもBEVのメリットや走る楽しさを平等に味わえる辺りはファミリーカーとしての正しい在り方であり、さらにその先に、ドライビングが巧みな人への歓びのタネを用意している辺りは「奥が深いんだなぁ」と感じます。
「600e」は、そうした諸々が上手くバランスしてるクルマです。それも、かなり高い次元で。突出したところがないので、“無個性だけどよくできた優等生”みたいな印象を受けがちですが、乗れば乗るほどいいところが見えてきて、ますます好きになる……そういう存在であるように思うのです。
さらに付け加えるなら、「600e」は眺めてるだけで、にこやかでおだやかでまろやかな気分にさせてくれるエクステリアデザインの持ち主でもあります。“チンクエチェント・ファミリー”ならではの独特の存在感……これに勝る正義はありません。
* * *
そんなこんなで、「趣味のクルマは音や振動のある古めかしいエンジン車がいいけれど、日常のアシはBEVがいいかもな……」なんて実感してる今日この頃。僕の気持ちの中で、“セイチェント”ことフィアット「600e」の姿が日増しに大きくなってきてるのです。
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