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20万円前後は適正!? ダイソンが再挑戦する“汚れがなくなるまで掃除をやめない”ロボット掃除機はどう評価されるか?

ダイソンにとってロボット掃除機は“鬼門”だった

 私はダイソンというブランドを長年取材してきた。英国マルムズベリーにあるダイソンのA&R、マレーシアやシンガポールの拠点や工場にも訪れたこともあり、チーフエンジニアで創業者ジェームズ ダイソン氏にも過去2,3度インタビューしている。

 サイクロン掃除機、羽根のない扇風機、速乾ドライヤー。ダイソンはこれまで、既存の常識を疑い、新しい価値を提示することで市場を切り拓いてきた。

 その根底にあるのが、ジェームズ ダイソン氏の「失敗は成功の母である」という思想であり、これからも市場を変える存在だと信じている。

 しかし、そのダイソンにとっても、ロボット掃除機は簡単なカテゴリーではなかった。2001年の「DC06」(製品化には至らず)、2015年の「ダイソン 360 Eye」。

 いずれも技術的には先進的でありながら、市場において主流にはなれなかった。ダイソンにとって数少ない“鬼門”とも言える領域である。

 だからこそ今回の「Dyson Spot+Scrub Ai」は、単なる新製品ではない。過去の挑戦を踏まえた“再参入”であり、戦略的にも重要な意味を持つ一台だ。

内部構造を透かして見せた「Dyson Spot+Scrub Ai」のイメージビジュアル。AIセンシング、吸引、水拭きまでを一体で成立させようとする、ダイソンらしい“技術の総力戦”が伝わってくる
内部構造を透かして見せた「Dyson Spot+Scrub Ai」のイメージビジュアル。AIセンシング、吸引、水拭きまでを一体で成立させようとする、ダイソンらしい“技術の総力戦”が伝わってくる

技術としては、ダイソンの到達点にある

 今回のモデルは、“ダイソンが考えるロボット掃除機の完成形”と言っていい。AIとグリーンLEDを組み合わせたセンシングにより、約200種類の汚れや障害物を識別。床の状態に応じて清掃方法を最適化する。

 特徴的なのが、“汚れがなくなるまで掃除をやめない”というアプローチだ。最大15回の集中清掃を行い、「きれいになった状態」を確認するまで動き続ける。この徹底した問題解決型の思想は、まさにダイソンそのものだ。

 加えて、同社初の吸引と水拭きの統合も大きなポイントである。温水で常時洗浄されるウェットローラーにより、衛生的に床を拭き上げる構造を実現している。

 ナビゲーションにはLiDARとAIカメラを組み合わせ、効率的なルートを生成。さらにサイクロン式の自動ゴミ収集ドックにより、吸引力を維持しつつメンテナンス性も高めている。

 こうして見ると、本機は単なるロボット掃除機ではない。ダイソンの技術と思想を凝縮した“完成度の高い一台”であることは間違いない。

壁際に沿って走行する本体。前面のグリーンLED照射とともに、エッジ部分の汚れまで意識。床面も温水できれいに拭くことができる
壁際に沿って走行する本体。前面のグリーンLED照射とともに、エッジ部分の汚れまで意識。床面も温水できれいに拭くことができる

設計に見える「思想の転換」

 一方で、本体サイズや構造には、ダイソンらしい“意思決定”が色濃く表れている。直径約37cm、高さ約11cmというサイズは、現在のロボット掃除機としてはやや大きく、やや高い。

 特に高さは、安定した清掃性能や機構設計とのバランスを踏まえた仕様とはいえ、家具下への潜り込みという観点では不利になる可能性がある。

 さらに注目すべきは、サイクロン構造が本体ではなくドック側に配置されている点だ。本来であれば、サイクロンはダイソンのコア技術であり、本体に内包することで完結するのが同社の哲学だった。しかし今回は、水拭き機構などとの両立を優先し、その役割をドックに分離している。

 これは単なる制約ではない。「本体完結型」から「システム最適化型」への転換である。また、高さという設計も、「どこにでも入る」より「入れる場所を確実にきれいにする」という思想の表れだろう。

 こうしたトレードオフは、市場の主流とは異なる。しかし同時に、ダイソンが独自のポジションを取りにいこうとしている兆しでもある。

階段下に設置された自動ゴミ収集ドックと本体。サイクロン構造を本体ではなくドック側に持たせたことで、“本体完結”から“システム全体最適”へと発想が変わっている
階段下に設置された自動ゴミ収集ドックと本体。サイクロン構造を本体ではなくドック側に持たせたことで、“本体完結”から“システム全体最適”へと発想が変わっている

いま市場が求めているのは“完璧”より“生活への馴染み”?

 ここで重要なのが、現在のロボット掃除機市場の構造だ。市場はすでにアイロボット一強時代は終わり、中国メーカーの相次ぐ参入で群雄割拠の様相を示し、成熟段階に入った。

 評価軸は大きく変化している。かつては「どれだけ革新的か」だったものが、今は「どれだけラクか」「どれだけ生活に馴染むか」へと移っている。

 つまり、“完璧な掃除”よりも“ちょうどいい自動化”が選ばれる時代だ。その視点で見ると、今回のダイソンのアプローチは、ややストイックすぎるとも言える。徹底的に汚れを取り切る設計は魅力的だが、それがすべてのユーザーにとって最適とは限らない。

 しかし同時に、この製品は“次の進化の入口”でもある。技術としては完成しているからこそ、それをどう市場に届けるかというフェーズに入ったのだ。

本体前面から照射されるグリーンLEDが印象的。家具下への進入性よりも、床面の汚れや障害物を正確に捉えるセンシング性能を優先した思想もうかがえる
本体前面から照射されるグリーンLEDが印象的。家具下への進入性よりも、床面の汚れや障害物を正確に捉えるセンシング性能を優先した思想もうかがえる

価格が示す「戦略」と「余白」

 もう一つの重要な視点が価格だ。20万円前後と見られる本機はプレミアム領域に位置し、ブランド価値を体現する一方で、市場全体での広がりには限界もある。

 ここで問われるのは戦略の取り方だ。過去2度の参入で市場との距離を経験しているダイソンにとって、今回は“どのポジションから入り直すか”が重要な局面だったはずだ。

 そう考えると、完成度を突き詰めたモデルではなく、価格と機能を最適化した“引き算のプロダクト”から再び入り込むという選択肢もあったのではないか。

 もし仮に、今回引き算した製品が10万円前後で投入されていたらどうだっただろうか。

 おそらく評価は大きく変わっていたはずだ。ダイソンのブランド力、デザイン、そして吸引技術。それだけで十分に“選ばれる理由”になるからだ。

 実際、現在のロボット掃除機市場では、公開データから見ると、売れ筋・主戦場は6万〜10万円前後に集まっている。このゾーンであれば、ユーザーは「少し高いが価値はありそうだ」と判断する。

 一方で20万円となると、欲しいとは思っても、いざ購入するとなると躊躇してしまう人もかなりいるはずだ。

 ここで思い出したいのは、日本の家電メーカーがかつて陥った「高機能・高価格路線」の問題だ。技術を積み重ねるほど価格が上がり、結果としてユーザーとの距離が広がってしまう。今回のダイソンの製品にも、そうした議論と重ねて考えられるかもしれない。

 かつてアイロボットが市場を牽引していた時代であれば、高性能・高価格の戦略は成立した。しかし現在は、中国メーカーの急速な進化と価格競争によって、その前提は崩れている。こうした環境では、まず市場に認知され、使われる存在になることの方が重要だ。

 だからこそ、より多くのユーザーに届く形で市場にエントリーし、フレンドリーに接点を広げていく。その延長線上にこそ、“ダイソンらしいロボット掃除機”の進化があるように思う。

ダイソンのリードシステムエンジニア サルヴェシュワ・アルンプラサード氏。水拭きのDyson 02 Probiotic床用クリーナーも開発、ダイソンのセルフクリーニング機能と連動し、内部の配管やタンク、マイクロファイバーローラーから汚れとニオイを除去。ロボット掃除機以外にも使える
ダイソンのリードシステムエンジニア サルヴェシュワ・アルンプラサード氏。水拭きのDyson 02 Probiotic床用クリーナーも開発、ダイソンのセルフクリーニング機能と連動し、内部の配管やタンク、マイクロファイバーローラーから汚れとニオイを除去。ロボット掃除機以外にも使える

ダイソンに期待したい「引き算の進化」

 ダイソンは他社にはない価値を持っている。だからこそ、すべてを詰め込むのではなく、“どこまでやれば十分か”を見極めることで、新しい市場を開くことができるはずだ。それは、単なるコストダウンではない。“体験を最適化するための引き算”である。

 ここまで見てきた通り、「Dyson Spot+Scrub Ai」は完成度の高い製品であり、同時に戦略的な分岐点に立つ一台でもある。ダイソンはこれまで、常識の外側から市場を変えてきた。その本領は、既存の枠組みに収まらない発想にある。

 ロボット掃除機というジャンルにおいても、その真価が発揮されるのはこれからだろう。今回の1台は、その“入口”に過ぎない。だからこそ私は、この製品の完成度以上に、「次にどんなダイソンを見せてくれるのか」に期待している。

製品概要
Dyson Spot+Scrub Ai(ダイソン スポット アンド スクラブ エーアイ)
価格:オープン価格(実勢価格:19万4800円前後/税込み)
サイズ:W373×D370×H110mm
重量:6.6kg
ナビゲーション技術:組み込み型 dToF LiDAR
識別可能な物体:約200種類
モーターの吸引力:18kPa
運転時間:最長200分
接続:MyDysonアプリ

Gallery 【画像】ダイソンのロボット掃除機の実力を画像で見る(13枚)
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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