アバルト新型「500e」初試乗 “新時代のホットハッチ”は155馬力を発生! エンジン版の「695」より速いのか?
毎日乗るなら静かで快適なアバルト500eがいい!
もちろんアバルト500eは、コーナーでの速さも一級品です。ハンドリングは695より素直かつ正確で、さらにシャープ。フロントエンドが素早くコーナーの内側へと向かっていき、リアもそれに見事についていきます。

立ち上がりでわざとアクセルペダルをラフに踏み込むと、濡れた路面でホイールスピンが生じるくらいのヤンチャさを見せますが、セオリーどおりに走らせている限り、コーナーの入口から出口までアンダーステアが生じることはほぼ皆無。素晴らしい姿勢を保ったまま、ねらったとおりのラインを走っていけるのです。それも想像以上のスピードで!
その要因のひとつは、良好な前後重量配分にあるといえます。エンジン版の「595」と695の前後重量配分は63対37であるのに対し、アバルト500eのそれは57対43。このバランスのいい前後重量配分に加え、24mm長いホイールベース、60mmワイドなトレッド、そしていうまでもなく低い重心高が、抜群の効きを見せているのでしょう。
しかも、路面の変化に対して過敏に反応する695に対し、アバルト500eはボディコントロールが格段に優れており、段差やわだちで飛んだり跳ねたりすることがほぼありません。安心して飛ばしていけます。これが楽しくないはずはありません!
このように、エンジン版も楽しく気持ちいいクルマですが、電気アバルトも全く負けてはいません。違いはそれぞれの速さの表現方法が異なるだけ、といえるでしょう。
逆に表現方法が共通しているのは、サウンドへのこだわり。エンジン版は、特徴的な“レコードモンツァ”のエキゾーストサウンドが大きな魅力のひとつです。ところがEVでは、一般的にはエモーショナルなサウンドは望めません。
そこで、クルマを楽しむのにサウンドが重要な役割を果たしていることを理解しているアバルトの開発陣は、なんと6000時間以上もの複雑な作業を費やし、レコードモンツァそっくりの音を奏でる“サウンドジェネレーター”を開発、それをアバルト500eに与えたのです。
「それって所詮、作り物でしょ!?」という人もいるかもしれません。しかし、実はいまやエンジン車でも、音はつくられているケースが多いのです。しかも、これがあるのとないのとでは大違い。作り物の音だと分かっていても、カッ飛んでるときには気分が上がります。
ただし市街地を走るときは、サウンドジェネレーター機能をオフにしたくなるから不思議です。おそらく音量がエンジン版のレコードモンツァと同じくらい大きいことと、EVならではの静粛性をおとなしく走ってるときには味わいたいという気持ちが要因なのかもしれません。
ちなみにサウンドジェネレーター機能は、指先ひとつでオン/オフの切り替えができますが、そのためにはいったんクルマを停車させ、ステアリング上のスイッチを何度かプッシュして深い階層へと入っていかなければなりません。「ボタンひとつで切り替えられたらいいのに」と、この点だけは軽く不満を覚えたものでした。
そして市街地を走らせていると、まずは、たっぷりとしたトルクがペダル操作に遅れることなくついてくることによる運転のしやすさに気づきます。
ちなみにアバルト500eには、パワーとトルクを抑えて航続距離を確保し、ワンペダルドライブを可能にする「ツーリズモ」、パワーとトルクはマックスまで引き上げつつ、ワンペダルドライブを使える「スコーピオン・ストリート」、そして、パワーとトルクはマックスでありながら、エンジン車に似た感覚でドライブできる「スコーピオン・トラック」という3つの走行モードが用意されていて、それぞれを任意に切り替えられます。
テストコースではいうまでもなく「スコーピオン・トラック」をチョイスしましたが、街中では「ツーリズモ」を選んでドライブ。それでも、パワー、トルク、スピードのいずれにおいても不満を覚えることはありませんでした。
もうひとつ一般道で気づいたのは、車重の重さが乗り心地にいい影響を及ぼしていて、車格に似合わぬ高級感ある快適な乗り味を示してくれたこと。フィアット500eより足回りが硬いのは確かですが、695コンペティツィオーネのように弾む感じはなく、アバルトにしてはかなりしっとりとしたフィーリングです。弾むような元気な乗り味も嫌いではありませんが、「毎日乗るならこっちがいいな」と思ったことは白状しておきましょう。
ちなみに、一充電での航続可能距離は最長265kmと、パワーが上がった分だけフィアット500eより短くなっています。実際に走ってみないと分かりませんが、実質的な航続距離は200km前後と推測します。
また充電に関しては、85kWの急速充電システムに対応。充電時間は約40km分の電力を充電する場合5分弱、バッテリー容量の80%まで蓄えるには35分と発表されています。
* * *
試乗を終えた後、開発エンジニアのひとりが発した言葉が頭の中によみがえってきました。
「結局のところアバルトの使命は、信号待ちから加速していくとき、コーナーを駆け抜けるとき、次のコーナーにピンポイントで入っていくとき……そうしたときにドライバーを笑顔にすることなんです」
毎日を高揚感とともに過ごせるクルマ……新しいアバルト500eはまさにそんなクルマなのです。
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