アバルト新型「500e」初試乗 “新時代のホットハッチ”は155馬力を発生! エンジン版の「695」より速いのか?
エンジン版を古めかしい存在にしてしまう“電動アバルト”
イタリアのトリノとミラノの中間辺り、バロッコという村にあるステランティス・グループのテストコースを拠点に、アバルトの新型「500e」を試乗することができました。アバルト500eは2020年にデビューしたフィアット「500e」をベースとするアバルトブランド初のEV(電気自動車)です。

一般的に、エンジン車とEVとでは基本的な走行特性に大きな違いがあります。ざっくりいうなら、エンジン車はトランスミッションのシフトアップを繰り返しながら(動力性能の限界まで)加速を続けて速度を伸ばしていけるのに対し、モーターで駆動するEVはスタートの瞬間から持てる力のすべてを発揮できるものの、一定の領域から先のゾーンでは速度の伸びが鈍くなる傾向にあります。
そのことがひと目で分かるのが、静止状態からの加速性能。例えば、0-96mph(約96.6km/h)のタイムは1.4リッターのターボエンジンを搭載するアバルト「695」の6.7秒に対し、EVのアバルト500eは0.3秒遅い7.0秒となっています(それでも、165ps時代の「595ツーリズモ」よりは0.3秒速い!)。また最高速も、アバルト500eはリミッターによって150km/hほどに制限されるなど、エンジン版のアバルトと比べて見劣りします。
しかし、公表されたデータを見てみると、アバルト500eは20km/hから40km/hまでの加速が695のそれより1秒速く、40km/hから60km/hの区間も同じく1秒速くなっています。アバルト500eは40km/hから60km/hまでの所要時間がわずか1.5秒ですが、695は2.5秒も要してしまいます。
このようにアバルト500eは“中間加速”が速いのです。その秘密は、伸びのエンジン車に対して瞬発力のEV、というポワートレインの基本特性の違いもありますが、アバルトの開発陣はさらにそこでひと工夫。実はファイナルレシオをフィアット版の9.6対1から10.2対1へと変更し、より加速重視の仕立てとしているのです。
エンジン版の「695コンペティツィオーネ」をプライベートカーにしているアバルト500eの開発エンジニアによると、「アバルトのユーザーはドライブしている時間の20%ほどしか高速道路を走っておらず、街中やワインディングロードでの小気味いい走行フィールを楽しんでいる時間が長い」のだそうです。
この事実は、アバルト500eの走行特性を左右する重要なポイントになったとのこと。「最高速と加速力はトレードオフの関係にあるため、我々はアバルトユーザーにとって最もふさわしいレシオを探し出せるよう注力した。結果、これまでで最もレスポンスのいいクルマに仕上がった」と、自信に満ちた笑顔で語ってくれました。
バロッコにあるテストコースとその周辺の市街地でアバルト500eをドライブしたとき、その話がウソや偽りでないことを実感しました。
まずはテストコースで、エンジン版の695コンペティツィオーネとアバルト500eを比較試乗します。当日の天候はあいにくの雨で、コースの半分ほどがヘビーウエット状態という悪コンディション。でもその分、クルマの挙動をはっきりと感じとることができました。
結果、分かったのは──というよりも、あらためて実感したのは、エンジン版のアバルトが相変わらず一級品のホットハッチであるということ。決して優等生ではありませんが、ドライバーを笑顔にさせることに関しては、このクラスでダントツの存在です。
けれど、最新の電動ホットハッチであるアバルト500eに乗り換えると、よし悪しの問題ではなく、エンジン版がかなり古めかしい存在に感じてしまったのです。
大袈裟にいうなら、ストレートでもコーナーでもどこにすっ飛んでいくか分からないスリリングな走りが最高に楽しい695に対して、アバルト500eはいかにもEVらしい洗練と安定をドライバーに感じさせながら、エンジン版を上回る速さで突き進んでいくのです。
シフトチェンジによって生じる加速度の変化がないため、最初はエンジンの生み出す加速“感”に思いがいきがちでした。しかし冷静になってみると、コーナーからの立ち上がりや巡航状態からの中間加速では、アバルト500eの方がはっきりと速いことが分かります。
695はターボチャージャーの過給による盛り上がりを待つ時間が必要なのに対し、“電動サソリ”はそれが皆無。アクセルペダルを踏み込むと瞬時にスパッと鋭く加速していきます。それは、このクラスのEVでは味わったことのない素早さであり、このクラス最速の1台である695コンペティツィオーネと比べても、立ち上がりがよりシャープなのです。
こうした立ち上がり加速や中間加速の速さが、ワインディングにおけるコーナーの頂点と次のコーナーの頂点とを結ぶ速さへと結びつくのはいうまでもありません。
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