VAGUE(ヴァーグ)

“昭和”の雰囲気がどこか懐かしい 雪景色の津軽半島を毎日走る元祖「ストーブ列車」の魅力とは? 実際に乗ってみた

車内に漂うスルメの香ばしい匂い

 手動で開閉するタイプの細いドアから乗り込みます。

ストーブ列車の客車内。スルメが焼かれている
ストーブ列車の客車内。スルメが焼かれている

客室内は木製のインテリアと窓枠、そして木製の床、えんじ色のボックスシート…と、どこまでも旅愁漂うリアルな昭和が目の前にあります。実際、子どもの頃にこうした客車に乗った記憶のある人はかなりの高齢と推察しますが、そんな年齢に達していない自分でも、懐かしさにちょっと興奮してきます。

 ダルマストーブは客車内に2基。出発前に車掌がストーブの中に石炭をくべて回ります。

 この日、もう2往復しているストーブ列車のためか、客車内はぽかぽか。ストーブと向かい合う席も2座と2座用意されているのですが、そこに座ると数分間で暑くなり、汗をかいてくるほど。埼玉県から来たという女性2人組は、さっそく半袖になっていました。

 発車の笛の後、牽引される客車の独特な振動を伴いながらストーブ列車は走り出します。

 車内販売では日本酒、そしてスルメなどが購入できます。スルメは800円。買うと津軽半島観光アテンダントである松山さんが、ストーブの上にスルメを置き、軍手で上から押し付けるように焼いていきます。「熱くないんですか?」「熱いですよ!(笑)」しばらくするとスルメはぷくっと膨らみ、柔らかくなったスルメを松山さんが手で割いて、袋に入れて渡してくれます。

 気づけば窓の外は雪景色。室内にはスルメの香ばしい匂いが漂っています。余談ですが、翌日になっても、着ていたフリースからスルメの匂いがしてきました。

津軽鉄道「ストーブ列車」の車内
津軽鉄道「ストーブ列車」の車内

 筆者はじつは相当な人見知りなのですが、気づけば他の乗客との会話が弾んでいたのも驚いたことのひとつです。

 大阪から来た壮年のご夫婦に日本酒をいただいたり、台湾からやって来たという女性2人組とスルメをシェアしたり。

 日本語の上手な台湾人女性のリーさんは4回目の日本ということでしたが、今回の来日はこのストーブ列車に乗ることをメインの目的にしたということ。「じつは台湾でもSNSでこのストーブ列車が話題になったりしてます。乗りたいと思っている台湾人は多いんじゃないでしょうか」と教えてくれました。

 速度は30km/h。ゆっくりと列車は進んでいき、その都度、アテンダントが沿線に見える景色を車内放送で解説してくれます。ただ、これが見事な津軽弁で、日本語が達者なリーさんも「言葉がわかりません」と苦笑。「たぶん、『あの左に見える赤くて大きい屋根が太宰治の実家です』と言ってるんだと思います」などと、筆者自身も半分ほどしか聞き取れない中“通訳”をしつつ、太宰治記念館「斜陽館」がある金木駅、そして終点の津軽中里駅へと列車は進んでいきました。

※ ※ ※

 津軽五所川原駅から途中の金木駅までは26分、終点の津軽中里駅までは45分。東京に戻って冷静に原稿を書いていると、ストーブ列車券と乗車券を合わせて金木駅まで片道1560円、津軽中里駅まで片道1870円はなかなかな値段だとも思ってしまうのですが、実際は、豊かな時間を味わえたことにとても満足している自分がいます。

 沿線自治体の人口減少や設備、車両の老朽化などで、津軽鉄道に限らず地方のローカル線の財政は厳しいものになっているところがほとんどです。実際にストーブ列車を味わうと、心から応援したいという気になってきます。旅先でお世話になった町にふるさと納税をしたくなる気分に近いのかもしれません。

 終点の津軽中里駅は東京から遠く、まるで最果ての地に来たような達成感もありました。リアルに昭和にタイムスリップしたような高揚は、この後もずっと続いていました。

Gallery 【画像】一度は乗っておきたい! 冬の風物詩「ストーブ列車」を写真で見る(27枚)
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