えっ…「849テスタロッサ」は違う名前だった可能性も!? フェラーリが「テスタロッサ」の商標を失いかけた理由とは? 11年間の審議で何が跳ね馬に味方した?
フェラーリは「テスタロッサ」の商標を継続利用していたのか?
2025年9月14日、日本へと上陸を果たしたフェラーリのニューモデル「849テスタロッサ」。“パフォーマンスとテクノロジーを再定義しつつ、比類なきアイデンティティを持つフェラーリ”とうたわれる跳ね馬の新しいフラッグシップですが、実は同社、この名車の商標権を失う恐れがあったのでした。

1984年10月の「パリモーターショー」で発表されたフェラーリ「テスタロッサ」は、名車「512BBi」の後継車という位置づけでした。大きなサイドインテークを備え、長く広いサイドデッキを形成したピニンファリーナ作の革新的デザインはインパクト絶大。その印象的なボディにバンク角180度のV型12気筒エンジンをミッドシップマウントしていました。
その車名はイタリア語で“赤い頭”を意味する言葉で、赤く塗装されたエンジンのヘッドカバーに由来するものでした。
そんな「テスタロッサ」の商標権をフェラーリが失いそうになった事の発端は、2014年のとある出来事でした。ドイツの玩具・モデルカーメーカー・Autec AGの幹部であるクルト・ヘッセ氏が、EU知的財産庁(EUIPO)に対してフェラーリの「テスタロッサ」に関する商標の無効申請をおこなったのです。
その理由は、2010年から2015年の5年間、EU域内でフェラーリが当該商標について「真正な使用」していないというものでした。確かに名車「テスタロッサ」の生産は1992年に終了。実質的な“延長”モデルである「512TR」や「F512M」を含めても、すでにその名を冠するモデルは20年以上製造されていません。
EU法では、商標権者が5年間連続して商標を真正に使用していない場合、その権利を失う可能性があります。そのためヘッセ氏の主張は、一見、妥当に思えました。
その後、約3年の審議を経て、EUIPOはAutec AGの主張を部分的に認め、フェラーリの商標権を一部取り消す決定を下しました。ただ「自動車」カテゴリーについては、フェラーリ側の権利が維持されていました。
しかし、この判決を双方が不服として上訴した結果、2023年8月29日、EUIPOの第5審判部はフェラーリにとってより厳しい判断を下しました。
その際、フェラーリは、商標権維持の証拠として中古車販売が続いていること、並びに「テスタロッサ」向けの交換部品が販売されていることを武器に、商標権の存続を主張していました。
しかし、上訴を受けたEUIPOの審判部は、フェラーリが2010年から2015年の5年間に「テスタロッサ」という商標を真正に使用していたとする証拠は不十分だとして、自動車を含むすべての商品カテゴリーにおいて、商標権を完全に取り消す決定を下したのです。
もちろん、フェラーリはこれであきらめるわけはなく、結果、2025年7月2日にEU一般裁判所(General Court)はこれまでの決定を覆す判決を下しました。裁判所はフェラーリが以下の活動を通じ、「テスタロッサ」の商標を継続的に使用していたと認定したのです。
まず、フェラーリの認定ディーラーによる中古車販売(「テスタロッサ」をディーラーで見かける機会は少ないですが……)において、同社が明示的または黙示的に承認していることが商標の真正使用に当たると判断されました。また、フェラーリの認証サービスである「クラシケ」が、その価値の維持に貢献しているということにも言及しています。
さらに重要だったのは、フェラーリが認証済み車両、部品、さらには公式ライセンス製品であるスケールモデル=ミニカーの再販を通じて、「テスタロッサ」の商標を継続使用していたと判断したことです。
裁判所は、「テスタロッサ」のミニカーに記載された「Ferrari Official Licensed Product」という表示が、フェラーリによる商標権の継続使用を示す重要な証拠であると認定しました。
ちょっと面白いのは、フェラーリが2011年から2017年の間に、「テスタロッサ」の部品を1万7000ユーロ(約297万円)も販売していたことでしょう。何が販売されたのかは明らかになっていませんが、驚きを隠せません。
●ファンの間では“とある商標”が話題に
この法廷闘争と並行して、フェラーリファンの間では別の動きが注目されていました。
フェラーリは新たなフラッグシップ・スーパースポーツである「849テスタロッサ」を9月9日に本国で発表しましたが、実はフェラーリは「849テスタロッサ」という商標を以前からアイスランドで登録していたのです。なぜアイスランドなのか? 一見、奇妙な動きに思えますが、実はこれ、戦略的なものでした。
アイスランドは公式にはヨーロッパの一部ですが、地理的には北米プレートとヨーロッパプレートの両方にまたがっています。WIPO(世界知的所有権機関)での登録がすべての国での商標を自動で保証するわけではないため、フェラーリは予備的な保護措置として、2035年まで有効な「849テスタロッサ」の商標をアイスランドで登録していたと見られています。
その中で、「849」という数字は、フェラーリの現行モデルの命名法(「812スーパーファスト」や「296」シリーズなど)に合致している可能性があり、単なる権利保護以上の目的があるのかもしれないと期待が高まっていたのです。
当時はまだ「849テスタロッサ」が登場するか否か定かではありませんでしたが、この伝説的なネーミングがフェラーリの手に残されたことで、新しいフラッグシップ・スーパースポーツ登場の可能性が高まったとファンは期待に胸を膨らませたものでした。
結局、その予想は当たり、新しいフラッグシップ・スーパースポーツが誕生することになったのです。商標からニューモデル誕生を予想するなんて、フェラーリファンは本当に熱いですね。
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