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ロボット掃除機はなぜレアル・マドリードと組むのか? Roborockが示す“中国家電ブランド”の新しい勝ち方

“チャンピオン同士”というブランドストーリー

 東京・晴海にあるレアル・マドリード・ファンデーション・フットボールスクール東京晴海校で、Roborockの特別イベント「Where the Greatest Meet」が開催されました。

 会場には、日本だけでなく韓国、オーストラリア、東南アジアなどAPAC地域から集まったRoborockユーザーや関係者、インフルエンサーが参加。白いユニフォームを着た参加者たちは、Real Madridのコーチ陣によるトレーニングセッションを体験し、ピッチ上でボールを追っていました。

 一方で、ピッチ脇にはRoborockのロボット掃除機やスティック掃除機が展示されています。サッカーイベントでありながら、そこには家電ブランドの世界観が自然に組み込まれていました。

 もちろん、ロボット掃除機の性能とサッカーのトレーニングに、直接的な機能上の関係はありません。レアル・マドリードと組んだからといって、吸引力が上がるわけでも、水拭き性能が変わるわけでもない。

東京・晴海で開催されたRoborockの特別イベント「Where the Greatest Meet」。APAC地域から集まった参加者たちは、Real Madridコーチ陣によるトレーニングセッションを体験した
東京・晴海で開催されたRoborockの特別イベント「Where the Greatest Meet」。APAC地域から集まった参加者たちは、Real Madridコーチ陣によるトレーニングセッションを体験した

 しかし、ブランド戦略として見ると、その意味は非常に明確です。レアル・マドリードは、世界的な勝利の象徴です。強さ、継続的な進化、精度、スター性、グローバルな影響力。それは単なるフットボールクラブの枠を超え、世界中の生活者が共有できる“頂点”のイメージでもあります。

 Roborockはそこに、自社のブランドイメージを重ねようとしているのでしょう。つまり、「自分たちは単なる中国発のロボット掃除機メーカーではない。世界で選ばれ、世界で戦うチャンピオンブランドである」という宣言なのです。

会場に掲げられたRoborockとReal Madridのロゴ。世界的フットボールクラブと並ぶことで、Roborockは“チャンピオンブランド”としての存在感を強く打ち出していた
会場に掲げられたRoborockとReal Madridのロゴ。世界的フットボールクラブと並ぶことで、Roborockは“チャンピオンブランド”としての存在感を強く打ち出していた

 発表会で印象的だったのは、レアル・マドリードとのパートナーシップを紹介する映像演出でした。

 クラブのトレーニング施設を舞台に、選手たちが練習し、ロッカールームやラウンジのような空間ではRoborockのロボット掃除機が静かに走る。スマートフォンには清掃完了の通知が届き、選手の生活空間の中にRoborockが自然に存在している。

 そこで映し出されたのが、「THE GREATEST meeting THE GREATEST」 というメッセージでした。この言葉は、今回の提携の本質を非常にわかりやすく示しています。世界最高峰のフットボールクラブと、世界No.1を掲げるロボット掃除機ブランドが出会う。

 つまりRoborockは、自らを“便利な家電ブランド”としてではなく、勝利、品質、継続的な進化を象徴するグローバルブランドとして見せようとしていたのです。

発表会で上映されたパートナーシップ映像。レアル・マドリードの施設を舞台に、選手たちの日常とRoborockのロボット掃除機が同じ空間に描かれていた
発表会で上映されたパートナーシップ映像。レアル・マドリードの施設を舞台に、選手たちの日常とRoborockのロボット掃除機が同じ空間に描かれていた

中国家電企業は「安い」から「選ばれる」へ

 今回のRoborockの動きは、近年の中国家電企業に共通する大きな流れの一部でもあります。かつて中国メーカーの強みは、価格競争力や開発スピード、スペックの高さで語られることが多くありました。日本市場でも、「中国ブランド=コスパがいい」「機能の割に価格が安い」というイメージが根強くあります。

 しかし、いまグローバルで上位を狙う中国企業は、明らかに次の段階に入っています。単に安いから売れるのではなく、世界の生活者に「このブランドを選びたい」と思わせる。

 単に高性能だから選ばれるのではなく、ブランドそのものに信頼や憧れを持たせる。そのために、スポーツ、カルチャー、ライフスタイルの領域へ積極的に接続しているのです。

マッチアップでボールを奪い合う参加者たち。実際に、サッカーを本気で楽しんでいた
マッチアップでボールを奪い合う参加者たち。実際に、サッカーを本気で楽しんでいた

 以前、筆者がハイアールのスポーツマーケティング戦略についてもレポートしましたが、まさにその流れと重なります。家電メーカーがスポーツに投資する理由は、単なるロゴ露出ではありません。スポーツが持つ熱量、勝利の物語、ファンとの感情的な接点を、自社ブランドの信頼や存在感に変換するためです。

 Roborockの場合、さらに象徴的なのは、ロボット掃除機というカテゴリー自体が、生活者にとって「まだ進化の余地がある家電」だということです。

 掃除を自動化するだけでなく、床の状態を判断し、障害物を避け、モップを洗い、乾燥し、清掃履歴をアプリで管理する。もはや単なる掃除機ではなく、家庭内を自律的に動くロボットに近づいています。

 そこにレアル・マドリードの「勝利」「精度」「進化」というイメージを重ねることで、Roborockはロボット掃除機を“便利家電”から“スマートライフの象徴”へ引き上げようとしているのです。

家電は、家の中だけで語る時代ではなくなった

 起業家の視点で見ると、今回のRoborockの施策で興味深いのは、日本市場に対するアプローチです。今回のイベントは、単なるプレス発表会ではありませんでした。

 実際にレアル・マドリードの公式スクールを会場にし、APAC各国からユーザーを招き、コーチングイベントを開催する。つまり、ブランドのメッセージを映像で見せるだけでなく、参加者の身体体験として落とし込んでいたのです。

 日本市場では、家電はどうしてもスペック比較で語られがちです。吸引力は何Paなのか、モップの振動数はどれくらいなのか、段差は何cmまで越えられるのか、アプリで何ができるのか。もちろん、それらは家電専門家としても重要な確認項目です。

 しかし、生活者が最終的にブランドを記憶するのは、スペック表だけではありません。「このブランドは、どんな世界観を持っているのか」「自分の暮らしに入ると、どんな気分になれるのか」「なぜ、ほかではなくこのブランドを選ぶのか」その文脈が必要です。

サッカーイベントに参加しているインフルエンサーたちのなかに、Roborock APACマーケティング総括のDan Cham氏の姿も
サッカーイベントに参加しているインフルエンサーたちのなかに、Roborock APACマーケティング総括のDan Cham氏の姿も

 かつて家電は、家の中の機能で評価されていました。冷蔵庫なら冷やす力、洗濯機なら洗浄力、掃除機なら吸引力。もちろん、今でもその基本性能は最重要です。しかし、いまの家電はそれだけでは語りきれません。

 家電は、暮らし方そのものを変える存在になっています。ロボット掃除機は、掃除という家事を代行するだけでなく、生活者の時間の使い方を変える。だからこそ、家電ブランドは家の中だけで完結していてはいけないのです。

 スポーツ、旅、ファッション、音楽、都市、健康、働き方。そうしたライフスタイル全体の文脈と接続しながら、自分たちの製品がどんな価値を持つのかを語る必要があります。Roborockがレアル・マドリードと組んだ意味は、そこにあります。

会場となったレアル・マドリード・ファンデーション・フットボールスクール東京晴海校
会場となったレアル・マドリード・ファンデーション・フットボールスクール東京晴海校

 ロボット掃除機という日常の裏方にあるプロダクトを、勝利、精度、進化、グローバルな存在感と結びつける。家庭内の利便性を提供するメーカーから、ライフスタイル全体に関わるプレミアムブランドへと認識を変えていく。

 もちろん、この戦略にはリスクもあります。スポーツクラブとの大型パートナーシップは、見せ方を間違えると「有名クラブの名前を借りただけ」に見えてしまいます。生活者にとって、なぜそのブランドがそのクラブと組むのかが伝わらなければ、広告としては派手でも、購買理由にはつながりません。

 しかし今回のように、映像、メッセージ、実際のサッカークリニック、製品展示を一体化させることで、Roborockは提携を単なるスポンサー表示ではなく、ブランド体験として成立させようとしていました。

Saros Roverは、まだコンセプト段階のモデルながら、ロボット掃除機ブランドとして世界最高の技術を持つことをアピール。Roborockが見据える次世代の家事ロボット像を象徴していた
Saros Roverは、まだコンセプト段階のモデルながら、ロボット掃除機ブランドとして世界最高の技術を持つことをアピール。Roborockが見据える次世代の家事ロボット像を象徴していた

 ロボット掃除機がレアル・マドリードと出会う。その光景は一見、意外に見えます。しかし実は、これからの家電ブランドがどこへ向かうのかを示す、とても象徴的なシーンだったのかもしれません。

 家電は、もはや家の中だけで語られるものではない。Roborockが晴海のピッチで見せたのは、ロボット掃除機の新製品だけではありませんでした。それは、中国発の家電ブランドが、世界の生活者にどう記憶されようとしているのか。その新しい勝ち方の一端だったのです。

Gallery 【画像】Roborockが開催した特別サッカーイベント「Where the Greatest Meet」の様子を写真で見る(24枚)
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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