ボタンひとつの涼しさは、どこで生まれるのか。20年ダイキンを使ってきた筆者が、エアコン工場で見た“空気をつくる”現場【家電で読み解く新時代|Case.52】
約20年使ってきたダイキン。その涼しさの“生まれる場所”へ
筆者の自宅には、約20年近くダイキンのエアコンがある。リビングには、最上位モデルの「うるさらX」。それ以外の部屋にはスタンダードモデルを3台。計4台のダイキン製エアコンが、夏も冬も、家族の暮らしを支えてきた。

さらに仕事場にも、ダイキンのエアコンがある。インテリアスタイリストの窪川勝哉氏とシェアしているオフィスは、建築家・前川國男氏が昭和30年代に設計したテラスハウスをリノベーションした空間。その歴史的建築の空気感に馴染むように、室内機のデザイン性を重視して「risora」を選んだ。

つまり筆者にとってダイキンのエアコンは、単なる取材対象ではない。自宅では暮らしを支える道具として、オフィスでは空間に溶け込むインテリアの一部として、日々の生活の中にかなり深く入り込んでいる存在である。
それなのに、考えてみると不思議なものだ。毎日のようにリモコンのボタンを押し、当たり前のように涼しい空気を受け取りながら、その一台がどこで、どのようにつくられているのかを、ほとんど知らないまま使ってきた。
今回訪れたのは、滋賀県草津市にあるダイキン 滋賀製作所。1970年に操業を開始し、2026年で56年目を迎える、国内における住宅用空調機の開発・生産拠点である。
敷地面積は約25万5000平方メートル。甲子園球場の約7倍という広さを持ち、第一工場では主に室外機、第二工場では主に室内機を生産しているという。

夏休みの自由研究なら、テーマはこうだろう。
「ボタンひとつの涼しさは、どこで生まれるのか」
エアコン工場は、夏の“瞬発力”をつくる場所だった
工場見学の冒頭で印象的だったのは、エアコンという製品が、いかに季節需要に左右されるかという説明だった。ルームエアコンは、当然ながら夏に需要が大きく高まる。説明では、国内出荷には月別で約4倍の需要差があることも示された。
たしかに生活者側から見れば、エアコンが欲しくなるのは「暑くなってから」である。しかしメーカー側から見れば、それでは遅い。必要なときに、必要な地域へ、必要な台数を届けるためには、生産現場そのものに“瞬発力”が求められる。
ダイキンの取材資料・説明によれば、ダイキングループのルームエアコン生産台数は2025年度に約804万台、2026年度は過去最多となる約903万台を計画している。さらに滋賀製作所では、通常100万台程度の生産に対し、2026年度は130万台前後を見込むという説明もあった。

背景には、日本国内の猛暑や補助金、省エネ基準を見据えた買い替え需要がある。一方で世界に目を向けると、空調需要はより大きな転換点にある。
欧州では2026年夏も熱波が続き、フランスではボルドーで41.9℃、ポワチエで41.2℃を記録したとロイターが報じている。またIEAは、欧州のエアコン保有率を約20%とし、米国や日本に比べてまだ低い水準にあると説明している。
ただし、欧州でエアコンがただ一気に普及すればいい、という単純な話ではない。フランスではADEMEの2020年調査で家庭用エアコンの普及率が25%とされる一方、外壁やバルコニー、テラスに屋外機を設置する場合、都市計画上の事前申告が必要になるケースもある。
つまり、暑さは追い風である。しかし同時に、建物、景観、法律、環境意識、電力負荷といった複数の課題に応える必要がある。
ここでダイキンの「市場最寄化戦略」が意味を持つ。一極集中で世界中に同じものを売るのではなく、各地域・国に合った商品を、その地域で開発・生産する。気候も住宅事情も生活文化も違うのだから、空調も地域ごとに最適解が違う。工場見学の前半で語られたこの思想は、猛暑時代の空調ビジネスを考えるうえで非常に重要に感じられた。

滋賀製作所は、世界のダイキン工場を支える“マザー工場”だった
滋賀製作所を訪れる前、筆者はここを「国内向けの家庭用エアコン工場」と捉えていた。だが説明を聞くと、その見方は少し変わる。ここは、単に日本向け製品をつくる場所ではなく、世界のダイキン工場を支えるマザー工場でもあった。
ダイキンの空調関連拠点は、世界に生産約97拠点、開発約55拠点あるという。グローバル5極で開発・生産し、日本で培った技術をベースに、地域ごとの独自商品を開発する。そして、その技術を他地域へ水平展開する。

その鍵になるのが、製品開発と生産の「モジュール化」だ。
製品開発では、基本部分を担う「基本モジュール」と、地域や商品ごとの特徴を生む「機能モジュール」を組み合わせる。すべてを一台ごとにゼロからつくるのではなく、共通化できる部分は共通化し、変えるべき部分を組み替える。標準化とカスタマイズを両立する発想である。

生産ラインにも同じ考え方がある。搬送モジュール、検査モジュールなどを組み合わせることで、新しいラインや工場をスピーディーに立ち上げる。質疑応答では、インド、中国、ポーランド、メキシコ、インドネシアの5拠点で、モジュールラインの考え方を活用した同時立ち上げを行ったことも説明された。
これは、起業家の視点で見ても非常に示唆的だ。強い企業は、優れた製品をつくるだけではない。その製品を再現性高く、世界中でつくれる仕組みを持っている。滋賀製作所で見たのは、まさにその“仕組みをつくる力”だった。
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