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ボタンひとつの涼しさは、どこで生まれるのか。20年ダイキンを使ってきた筆者が、エアコン工場で見た“空気をつくる”現場【家電で読み解く新時代|Case.52】

自動化は、人を消すためではなく、人を支えるために進んでいた

 工場内を歩いていると、ロボットや自動搬送、検査装置が次々と現れる。だが、そこで感じたのは「人がいなくなる工場」という印象ではなかった。むしろ、自動化によって人の負担を減らし、人が担うべき判断や改善に力を向けようとしている工場だった。

工場内の生産ライン。人が作業するエリアの周囲に、搬送設備や検査設備が組み込まれており、自動化と人の作業が同じ現場の中で役割を分担している様子がわかる
工場内の生産ライン。人が作業するエリアの周囲に、搬送設備や検査設備が組み込まれており、自動化と人の作業が同じ現場の中で役割を分担している様子がわかる

 説明では、自動化・らくらく化の背景として、労働力不足、労務費高騰、働く人の多様化・高齢化、技能の伝承と育成といった課題が挙げられた。重いものを持つ、運ぶ。長時間、同じ検査を繰り返す。人の五感や判断に頼る。そうした身体的・精神的負荷の高い作業から優先して、自動化が進められている。

 その象徴が、ガス漏れ検査の自動化だ。

 エアコンの冷媒回路に漏れがあれば、それは品質上の大きな問題になる。工場では、熱交換器にガスを封入し、プローブを接合部に近づけて漏れがないかを確認する。人が行う場合、決められた箇所を、決められた距離・角度・時間で、何度も正確に検査し続けなければならない。

気密検査エリア。エアコンの品質に直結する冷媒回路の漏れを確認する工程で、複数の検査装置が並ぶ。涼しい風を安心して受け取るための、見えない品質づくりの現場だ
気密検査エリア。エアコンの品質に直結する冷媒回路の漏れを確認する工程で、複数の検査装置が並ぶ。涼しい風を安心して受け取るための、見えない品質づくりの現場だ

 この工程を、ロボットと3Dカメラによる位置補正技術で自動化していた。室外機は位置のばらつきが比較的小さい一方、室内機は配管形状が複雑で、パレット上の位置や姿勢にもばらつきが出る。

 人なら少し覗き込んだり、手元の角度を変えたりして自然に対応できるが、ロボットにはその“少し”が難しい。そこで3Dカメラで対象物の位置と姿勢を読み取り、プローブの軌道を補正する。

ガス漏れ検査の自動化設備。ロボットが熱交換器に近づき、検査プローブを動かす。人が感覚的に行ってきた位置合わせや角度調整を、設備側にどう置き換えるかが技術の要になる
ガス漏れ検査の自動化設備。ロボットが熱交換器に近づき、検査プローブを動かす。人が感覚的に行ってきた位置合わせや角度調整を、設備側にどう置き換えるかが技術の要になる

 自動化とは、ロボットを置けば終わりではない。人が無意識にやっていた調整を、どう設備に置き換えるか。そこにこそ、生産技術の深さがある。

人の目をデータに変える。外観検査に見た品質づくり

 もうひとつ印象的だったのが、室外機の板金部品における外観検査の自動化だった。

 対象となるのは、打痕やキズといった微細な外観不良である。これまで人が目で見て判断してきた領域を、深さ、面積、明暗差、ピクセル数といった指標に置き換える。さらに、照明の当て方や撮影タイミングを細かく制御し、加工油の付着などを不良と誤検知しないようにする。

板金部品の外観検査自動化に関する説明。打痕やキズに加え、油の付着による誤検知も課題になるため、照明や画像処理の工夫によって不良の特徴を見分ける仕組みをつくっている
板金部品の外観検査自動化に関する説明。打痕やキズに加え、油の付着による誤検知も課題になるため、照明や画像処理の工夫によって不良の特徴を見分ける仕組みをつくっている

 ここで行われていたのは、単なる省人化ではなかった。人が経験で判断してきた「見える/見えない」を数値化し、データとして蓄積する取り組みである。

 面白いのは、自動検査の目的が「不良を見つけること」だけではない点だ。検査で得られたデータを蓄積すれば、どこで、どのような不良が発生しやすいかが見えてくる。

 発生傾向がわかれば、金型や工程の見直しにつながる。つまり検査を強化することで、最終的には不良そのものを減らし、検査に頼らないものづくりへ近づいていく。

大型プレスライン周辺の外観検査エリア。人の目で見て判断してきた微細な外観不良をデータとして蓄積し、最終的には不良の発生源対策へつなげていく発想が印象的だった
大型プレスライン周辺の外観検査エリア。人の目で見て判断してきた微細な外観不良をデータとして蓄積し、最終的には不良の発生源対策へつなげていく発想が印象的だった

 家電スペシャリストとして長く白物家電を見てきたが、品質という言葉は、完成品を見ているだけではなかなか伝わりにくい。けれど工場では、その品質が、照明の角度、カメラのタイミング、部品のわずかな揺れ、油膜の反射といった、極めて具体的な問題として立ち上がってくる。

 ボタンひとつの涼しさは、こういう細部の上に成り立っている。

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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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