土鍋釜は、門真で炊飯器になる。タイガー本社工場で見た“おいしさを量産する”現場【家電で読み解く新時代|Case.51】
魔法瓶から炊飯器へ。タイガーは“熱”と向き合ってきた会社だ
門真本社に到着してまず見たのは、同社の歴史をたどるカンパニーエキシビションでした。創業以来の魔法瓶、水筒、保温ジャー、電子ジャー、炊飯ジャー、土鍋炊飯器。そこに並ぶ製品群から伝わってきたのは、タイガー魔法瓶が100年以上にわたって“熱”と向き合ってきた会社だということです。

電気を使わずに温度を保つ魔法瓶。外へ持ち出した飲みものの温度を守る水筒。炊いたごはんを温かく保つ保温ジャー。そして、米に熱を入れ、食卓に炊きたてを届ける炊飯器。製品カテゴリーは違っても、そこにある問いは同じです。熱をどう扱い、どう暮らしに届けるのか。
展示の中には、JAXAからの依頼を受けて開発された特別な魔法瓶もありました。宇宙という過酷な環境で温度を守るために、民生品で培ってきた真空断熱技術が求められたという事実は、タイガーの技術が家庭の台所や食卓にとどまらないことを示しています。

ミュージアムには、かつての写実的で力強いトラのロゴも展示されていました。現在のロゴは親しみやすく、愛らしい表情へと変化しています。
また、水筒の真空断熱や溶接技術の展示も印象的でした。一見シンプルな水筒にも、熱を逃がさないための高度な加工技術が積み重なっている。そう感じさせる展示でした。

その流れで工場へ入ると、炊飯器づくりの見え方が変わります。
門真本社工場は、タイガーの“ものづくりのマザー”だった
この場所の意味を、タイガー魔法瓶 執行役員 ソリューション本部長の岡本正範氏は、メーカーとして必要な機能の距離感から説明しました。
「私どもの特徴は、技術、製造、販売というメーカーとして必要な機能を、門真というひとつの地区に集約していることです。
他のメーカーさんだと、本社は別の場所、営業は別の場所というように分かれていることも多いと思いますが、タイガーの場合は、それを門真という地にワンパッケージで集約しています」(岡本氏)
その距離感があるからこそ、炊飯器〈炊きたて〉は門真に残っている。土鍋フラッグシップは、単に台数をつくる対象ではなく、タイガーが何を大切にしてきたかを映す製品でもあります。
「炊飯器という事業を始めてから、ここを製造拠点としてきました。その中でいろいろな製品が生まれ、工場を分散していった部分もあります。ただ、やはりフラッグシップは事業の柱であり、精神的な柱でもあります。
そういう意味で、この門真本社という場所で土鍋フラッグシップを作っていく意味は大きいと思います」(岡本氏)

フラッグシップとは、そのメーカーの思想を最も濃く宿す製品です。だからこそ「JRT-A100」は、門真で作られる意味を持ちます。
想像以上に、人の手が多い工場
工場に入って最初に驚いたのは、人の手が想像以上に多いことでした。運搬や一部の工程では機械も使われています。しかし、蓋の組み立てや複雑な部品の取り付けでは、人が密集し、手元で一つひとつ部品を組み込んでいく。

特に上位モデルの蓋部分は、単なる「ふた」ではありません。ヒーター、チューブ、ボタン周りの部品、密閉構造、圧力を扱う仕組みなどが詰め込まれた、炊飯器の重要なユニットです。そこで見えたのは、大量生産の効率だけでは割り切れない、上位モデルならではの作り込みでした。

案内してくれたタイガー魔法瓶 生産グループ 本社工場 マネージャーの山口壮一氏は、門真本社工場のライン構成をこう説明しました

「JRTがたくさん必要な時は、複数のラインでJRTを作ります。海外向けの商品が売れる時期になれば、セルラインを使って海外向けの商品を作ることもあります。作る場所や動かすラインの本数は、時期によって変えています」(山口氏)

単に大量に流すのではなく、複雑なモデルを作り込み、需要に応じてラインを切り替える。そこに本社工場らしい柔軟性があり、人の手が深く関わっていました。
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