VAGUE(ヴァーグ)

土鍋釜は、門真で炊飯器になる。タイガー本社工場で見た“おいしさを量産する”現場【家電で読み解く新時代|Case.51】

自動化しないのではない。人が担うべき工程を見極めている

 最近の工場取材では、ロボットやAGV(無人搬送車)が動き回る光景を目にすることが増えました。だからこそ、タイガー門真工場の“手で作り込む”空気は印象的でした。

「エアコンや自動車のように大きなものになるほど、ロボットが必要になる場面は多いと思います。ただ、私どもの製品は炊飯器を中心にデリケートなものが多い。そういう意味では、人によるものづくりをベースにしています」(岡本氏)

 もちろん、自動化に背を向けているわけではありません。運搬には機械を導入し、傷や段差をカメラで見る仕組みや、お湯を使う検査の自動化にも取り組んでいます。しかし量産現場では、精度だけでなく時間も問われます。

部品や治具を載せた作業台車。工程ごとに必要な部材をまとめ、作業しやすい形に整えることで、人の手による組み立てを支えている
部品や治具を載せた作業台車。工程ごとに必要な部材をまとめ、作業しやすい形に整えることで、人の手による組み立てを支えている

「傷や汚れ、段差がないかを見る自動機にもチャレンジしています。ただ、たとえばカメラで見ようとすると、今の設備状態であれば生産タクトに間に合いません。量産としてお客様に提供できる状態にするには、まだ簡単ではありません」(山口氏)

組み立ての生産ラインに入る前に、周辺の熱源パーツなどを別エリアであらかじめ作り込む工程。複雑なユニットを無理なく本ラインへ渡すため、ライン設計にも工夫がある
組み立ての生産ラインに入る前に、周辺の熱源パーツなどを別エリアであらかじめ作り込む工程。複雑なユニットを無理なく本ラインへ渡すため、ライン設計にも工夫がある

 AIや画像認識が進化しても、すぐに人の経験を置き換えられるわけではありません。組み付けた時のわずかな浮き、部品が収まる感触、音の違和感。そうしたものは、現場で積み上げた感覚が拾い上げます。

「距離や圧力のように数値化できる部分は機械で見ています。一方で、組み立てた時に少し浮いていないか、きちんと向きが合っているかといったところは、人の感覚や音で気づく部分があります。機械だと、無理に入れてしまうこともありますから」(山口氏)

作業者が本体を手に取り、外観や組み付け状態を確認する様子。わずかな浮きや違和感を拾う工程には、機械だけでは置き換えにくい人の感覚が生きている
作業者が本体を手に取り、外観や組み付け状態を確認する様子。わずかな浮きや違和感を拾う工程には、機械だけでは置き換えにくい人の感覚が生きている

 ここで使われている“人の手”とは、単なる労働力ではなく、品質を見極めるセンサーなのです。

土鍋釜は、門真でもう一度“部品”として見られる

 タイガーが20年にわたり磨いてきた本土鍋の炊飯器。その象徴が、土鍋圧力IHジャー炊飯器〈炊きたて〉「JRT-A100」です。約300℃の大火力と、土鍋ならではの細やかな泡によって、米の甘み、旨み、粒立ちを引き出すことを目指した最上位モデルです。

20年前に登場した初代の土鍋炊飯器。土鍋を家電に組み込むという挑戦の出発点があり、現在のJRT-A100へと続く技術の積み重ねがある
20年前に登場した初代の土鍋炊飯器。土鍋を家電に組み込むという挑戦の出発点があり、現在のJRT-A100へと続く技術の積み重ねがある

 ただし、土鍋釜は四日市で完成して、そのまま門真へ届くわけではありません。ミヤオカンパニーリミテドで土鍋の形になった後、内面コーティングや水位目盛り、印字など、さらに別の工程を経て門真に入ります。そして門真でも、あらためて受け入れ検査が行われます。

土鍋炊飯器の内部構造を分解展示したもの。IHコイル、本体内部、蓋などが並び、土鍋釜だけでなく周辺部品との関係で炊飯器が成立することがわかる
土鍋炊飯器の内部構造を分解展示したもの。IHコイル、本体内部、蓋などが並び、土鍋釜だけでなく周辺部品との関係で炊飯器が成立することがわかる

「土鍋は、まず本体にちゃんと入るかどうかを見ます。さらに、内なべを入れて、炊飯電力が正しい数値まで上がるかどうかも検査しています。外観についても、傷や汚れがないかを確認します」(山口氏)

 四日市で“土鍋釜”になったものは、門真でもう一度“炊飯器の部品”として見られる。美しい器であるだけでは足りません。IHとの距離、圧力、熱の伝わり方がそろって初めて、炊飯器として成立します。

「基本的には全部の工程が大切ですが、特に言えば、土鍋とIHの距離、圧力がきちんとかかること、そして熱をコントロールする部分がポイントになります」(山口氏)

実際に蒸気を出し、圧力が正しくかかるかなどを確認する全数検査の工程。土鍋とIHの距離や熱制御だけでなく、安全性まで一台ずつ確認していく
実際に蒸気を出し、圧力が正しくかかるかなどを確認する全数検査の工程。土鍋とIHの距離や熱制御だけでなく、安全性まで一台ずつ確認していく

 おいしさは、釜の素材だけではなく、釜と本体の関係性の中で生まれているのです。

検査工程で見えた、炊飯器という家電の難しさ

 組み立て工程の後には、検査工程が待っています。実際にお湯を入れ、圧力がかかるかを確認する。圧力がかかった状態で蓋が開かないかを見る。電圧をかけて電気的な安全性を確認する。

 ボタンが正しく反応するか、電力が設計通りに出ているかを見る。最後は、人の目で傷や汚れ、蓋のズレを確認していきます。

 この検査工程に立ち会うと、炊飯器が熱、水、蒸気、圧力、電気を同時に扱う家電であることが改めてわかります。

「お湯を入れた状態で、土鍋に圧力がかかっているかを確認しています。圧力がかかった状態で蓋が開かないかという安全面も見ています。さらに電圧をかけて、お客様が使用する時に問題がないか、製品が壊れないかも確認しています」(山口氏)

本体の組み上げ工程。土鍋釜や蓋、内部部品を組み合わせながら、熱・圧力・電気を扱う炊飯器として一台ずつ形にしていく
本体の組み上げ工程。土鍋釜や蓋、内部部品を組み合わせながら、熱・圧力・電気を扱う炊飯器として一台ずつ形にしていく

 ふたを開ければおいしいごはんがある。その何気なさの裏側では、多層的な安全確認と品質確認が行われています。毎回同じように炊けて、誰もが安心して使えること。その当たり前を作るのが、工場の仕事なのです。

Nextリミテッドモデルが示した、門真工場の限界値
Gallery 【画像】タイガー魔法瓶の大阪・門真本社工場の様子を写真で見る(30枚以上)
シチズン「プロマスター」新作 “海の男”をうならせた頼れる1本
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

page

VAGUEからのオススメ

海と向き合い、自らを再起動する――プロセーラーが語る、シチズン「プロマスター」で“限界を超える”意味とは【PR】

海と向き合い、自らを再起動する――プロセーラーが語る、シチズン「プロマスター」で“限界を超える”意味とは【PR】

RECOMMEND