土鍋釜は、門真で炊飯器になる。タイガー本社工場で見た“おいしさを量産する”現場【家電で読み解く新時代|Case.51】
リミテッドモデルが示した、門真工場の限界値
門真本社工場の役割を象徴していたのが、過去にWEB限定で展開された「TIGERリミテッドモデル」の話でした。
通常ラインとは異なり、1人の熟練作業者が部品を自分の前に集め、一台を一気通貫で組み立てる。さらに後ろに別の担当者がつき、組み上がったものを検査する体制だったといいます。

「リミテッドモデルは、基本的に1人が1台を組み立てています。部品を自分の前に集めて、自分が動きながら組み立てていく形です。後ろには別の担当者がいて、組み上がったものを検査していました」(山口氏)
それは単なる特別仕様ではなく、門真工場の力量を最大限に引き出す挑戦でもありました。
「通常の基準を満たすだけではなく、私たちが理想としている中心値に、より寄せていく工程を行っていました。ラボレベルで作ったものを再現することを目指していたという感じです」(山口氏)
作れる人は限られ、関係者はかなり疲弊したそうです。それでも、上位タイプは発売当日に完売し、赤や黄色などのカラーも1週間ほどで売り切れたといいます。門真本社工場は、台数を作るだけの場所ではなく、タイガーの炊飯器づくりの限界値を試す場所でもあるのです。
商品企画と工場が近いから、理想をあきらめずに済む
タイガー魔法瓶株式会社 炊飯器ブランドマネージャーの辻本篤史氏は、2019年頃から炊飯器の商品企画を担当しています。もともとは電気ケトルを担当しており、炊飯器への異動当初は、その責任の大きさに戸惑いもあったといいます。
「最初は正直、炊飯器の担当になるのが少し嫌でした。ケトルを続けたい気持ちもありましたし、炊飯器は社内で関わる人の数も、売上規模も全然違います。責任のある商品だと感じていました」(辻本氏)

その責任の重さは、製品の設計思想にも表れています。JRT-A100は、量産のしやすさだけを優先した製品ではありません。まず理想の姿を作り、その後にどう量産へ落とし込むかを考える。その順番が、工場にとっては難しさにもなります。
「本来、量産するメーカーとしては、最終的な量産工程を考えながら設計する必要があります。ただ、この商品はデザインや意匠を大切にして、まず製品としての姿を作り、それからものづくりへ落とし込むステップを取っています。
結果として作るのは大変ですが、炊飯器としては非常に秀逸なものになっていると思います」(岡本氏)
ここで効いてくるのが、門真本社に開発、製造、販売が近い距離で存在していることです。理想を描く人と、実際に作る人が近い。工場の困りごとが開発側に返り、企画の思いも現場に届きやすい。
「本社に開発があり、その近くで作っているので、思いは伝えやすいと思います。工場にも無理を聞いてもらうことはありますが、それがうちの強みでもあります」(岡本氏)
起業家の視点で見ても、この距離の近さは大きな資産です。優れたプロダクトは、理想だけでも、現場だけでも生まれません。両者の摩擦を乗り越えたところに、製品の本当の強さが宿ります。
DANRANは、最後は人の手を通って届く
タイガーは新たなグローバルタグラインとして「HEAT TO HEART」を掲げ、「団欒」をあえて「DANRAN」として世界へ届けようとしています。
門真本社工場を見た後では、この言葉が単なるブランドメッセージではなく、ものづくりの現場とつながって見えてきます。
熱を心へ届けるには、まず熱を正しく扱わなければなりません。土鍋とIHの距離を整え、圧力を安全にかけ、蓋が正しく閉まり、蒸気や水分が内部に入り込まないようにする。電気的な安全性を確認し、最後に傷やズレを人の目で見る。
そうした工程の先に、家庭でふたを開ける瞬間があります。湯気が立ち、米の香りが広がる。その何気ない時間を支えているのは、見えない場所で積み重ねられた技術と人の手です。
門真で見たのは、土鍋釜を炊飯器に変える工程であると同時に、タイガーが掲げる「HEAT TO HEART」を、製品の中へ落とし込む工程でもありました。
土鍋釜は、四日市で器になり、門真で家電になり、家庭でごはんを炊く道具になる。その連なりの最後にあるのが、DANRANという時間です。
一杯のごはんに、人の手はどこまで宿るのか。門真本社工場で見た答えは、思った以上に具体的でした。人の手は、部品を組むためだけにあるのではありません。熱を正しく扱い、圧力を安全に制御し、おいしさを毎日の当たり前に変えるためにある。
だから、タイガーが土鍋フラッグシップを門真で作り続ける意味は、単に「日本製だから」ではないのだと思います。開発と製造が近い場所で、理想と現場がぶつかり合い、人の感覚と検査が最後まで積み重なる。そのプロセスそのものが、タイガーの炊飯器の価値を形づくっている。
熱を、心へ。
その短い言葉は、工場を見た後では、もはやコピーだけには見えませんでした。土鍋釜が門真で炊飯器になる。その現場にこそ、タイガーが世界へ届けようとしているDANRANの手触りがありました。

製品概要
タイガー魔法瓶 土鍋圧力IHジャー炊飯器〈炊きたて〉JRT-A100
価格:税込16万9400円(タイガー魔法瓶オンラインストア価格)
発売時期:2026年7月予定
カラー:墨黒(すみくろ)、月白(げっぱく)
タイプ:土鍋圧力IHジャー炊飯器
炊飯容量:0.5〜5.5合
容量:1.0L
本体サイズ:約 幅28.4×奥行36.7×高さ22.4cm
本体質量:約7.3kg
定格消費電力:1080W
加熱方式:土鍋圧力IH
主な機能:本土鍋、300℃WレイヤーIH、土鍋ご泡火炊き、とろ火IH制御、匠火センサー、匠おひつ保温、5段階の食感炊きわけ、3段階の火かげん選択、銘柄巧み炊きわけ、分づきメニュー、一合炊き、スムーズタッチディスプレイ、内なべ割れ/内面コーティング5年保証
生産国:日本
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