VAGUE(ヴァーグ)

「タバコをやめれば?」で終わらない家庭内喫煙の現実。14万8000円の分煙家電で解決という力業は、非喫煙者の納得を得られるか…

正論では解決できない喫煙者たちの現実

 筆者は非喫煙者であり、多くの非喫煙者からすれば、最初に思うことはかなりシンプルでしょう。

「タバコをやめれば?」

 健康のためにも、家族のためにも、部屋のにおいや汚れを防ぐためにも、禁煙に勝る解決策はありません。タバコの煙を処理するために14万8000円の専用機を買うくらいなら、そのお金と意思を禁煙に向けた方がいい。「もしタバコやめられたら14万8000円あげる」。そう考えるのは、ごく自然な反応です。

 ただ、現実の暮らしは、正論だけで動いているわけではありません。やめた方がいいとわかっていてもやめられない人がいる。その隣には、煙を吸いたくない家族がいる。

 喫煙者は「家くらいリラックスして吸いたい」と思い、非喫煙者は「家だからこそ煙を吸いたくない」と感じる。そのすれ違いが、家庭内喫煙の厄介なところです。

非喫煙者の多くが抱く「タバコをやめれば?」という率直な感情。SMOKE ZEROは、その正論では解決しきれない家庭内喫煙の現実に向き合おうとする製品だ
非喫煙者の多くが抱く「タバコをやめれば?」という率直な感情。SMOKE ZEROは、その正論では解決しきれない家庭内喫煙の現実に向き合おうとする製品だ

公共空間から家庭へ移った“煙の問題”

 エルゴジャパンは、もともと業務用喫煙ブース「SMOKE CLEAR」を展開してきた企業です。2019年の発売以降、オフィスや飲食店、ホテルなどに導入され、公共空間での分煙環境を支えてきたといいます。

 2020年の改正健康増進法以降、公共空間における喫煙環境は大きく変わりました。かつてのように、オフィスや飲食店で自由に吸える時代は終わり、喫煙は「どこでもできるもの」から「決められた場所でするもの」へと変化しました。

 しかし、外で吸いにくくなれば、その分、喫煙の中心は家庭に移ります。換気扇の下で吸う人。ベランダで吸う人。寒い日も暑い日も、家族や近隣に気を使いながら吸っている人。

 喫煙者本人も気を使っている一方で、吸わない家族は、においやヤニ汚れだけでなく、受動喫煙への不安を抱えています。

公共空間での分煙が進んだ結果、喫煙の中心は家庭へ移行。換気扇の下やベランダで肩身の狭い思いをしながら吸う喫煙者も少なくない
公共空間での分煙が進んだ結果、喫煙の中心は家庭へ移行。換気扇の下やベランダで肩身の狭い思いをしながら吸う喫煙者も少なくない

 発表会では、非喫煙者の多くが喫煙者と同じ空間で過ごすことに抵抗を感じている一方、喫煙者側も自宅でタバコを吸う際に家族へ配慮しているという調査結果が紹介されました。

 つまり問題は、単純に「吸う人が無神経」という話ではありません。吸う人も気を使っている。吸わない人も我慢している。それでも解決しない。ここに家庭内喫煙の難しさがあります。

空気清浄機ではなく、発生源で煙を処理する

 SMOKE ZEROの特徴は、一般的な空気清浄機とは考え方が異なる点にあります。多くの空気清浄機は、部屋の空気を循環させながら、徐々に花粉やほこり、ハウスダスト、においなどを取り除いていきます。これは部屋全体の空気環境を整えるうえでは有効です。

SMOKE ZEROは、一般的な空気清浄機のように部屋全体を循環清浄するのではなく、タバコの煙を発生源近くで吸引・処理する“パーソナル分煙”を提案する製品だ
SMOKE ZEROは、一般的な空気清浄機のように部屋全体を循環清浄するのではなく、タバコの煙を発生源近くで吸引・処理する“パーソナル分煙”を提案する製品だ

 しかし、タバコの煙は発生した瞬間から空間に広がります。カーテンや壁、家具に付着し、においや汚れの原因にもなります。さらにタバコには、粒子状の粉じんだけでなく、ガス状成分も含まれます。

 空間に広がったあとで清浄するより、そもそも広がる前に吸い込む方が合理的だ、というのがSMOKE ZEROの発想です。

 使用時は、タバコの火をつける段階から本体の吸引エリア内で行い、吸った煙も本体中央へ吐き出します。タバコの先端から立ちのぼる副流煙も、吸引気流の中に収める。つまり、部屋全体をきれいにする空気清浄機というより、タバコの煙を発生源で処理する小型の分煙装置に近い製品です。

実際にSMOKE ZEROを体験するジャーナリストの堀潤氏。煙が空間へ拡散する前に吸い込まれるため、至近距離でもタバコ特有のにおいをほとんど感じなかった
実際にSMOKE ZEROを体験するジャーナリストの堀潤氏。煙が空間へ拡散する前に吸い込まれるため、至近距離でもタバコ特有のにおいをほとんど感じなかった

 内部にはH14 HEPAフィルターと高圧縮カーボンフィルターを搭載。H14 HEPAフィルターは微細な粒子状物質の捕集を担い、カーボンフィルターはガス状成分の低減を担います。

 ただし、ここで「H14 HEPAだから一般的な空気清浄機より高性能」と単純に言い切るのは少し違います。H14 HEPAはフィルター単体の捕集性能を示す規格であり、空気清浄機本体としての清浄スピードや気流設計とは別の話だからです。

 SMOKE ZEROと一般的な空気清浄機は、どちらが上かではなく、役割が違います。ブルーエアやダイキン、シャープなどの空気清浄機は、部屋全体の空気環境を整える家電。一方、SMOKE ZEROは、タバコの煙を発生源近くで処理する専用機です。

プレフィルター、HEPAフィルター、カーボンフィルターを組み合わせたフィルター構造。タバコの煙に含まれる微細な粒子状物質とガス状成分を、それぞれ段階的に処理する設計だ
プレフィルター、HEPAフィルター、カーボンフィルターを組み合わせたフィルター構造。タバコの煙に含まれる微細な粒子状物質とガス状成分を、それぞれ段階的に処理する設計だ

“家庭内の摩擦”を解決するのはプライスレス

 価格は税込14万8000円。家電スペシャリストとして冷静に分析すれば、高いです。家庭用空気清浄機の感覚で見れば、かなり強気な価格帯といえます。

 しかもこれは、タバコを吸うためだけの家電です。非喫煙者からすれば、「そのお金で禁煙した方がいいのでは」と思うのが自然でしょう。実際、紙巻きタバコは1箱600円前後の銘柄が多く、1日1箱吸えば月に約1万8000円。SMOKE ZEROの本体価格は、タバコ代の約8か月分に相当します。

 そう考えると、この製品は喫煙者本人のためだけに買うには少し重い。むしろ、家族との関係性、部屋のにおい、壁やカーテンの汚れ、受動喫煙への不安をどう見るかによって価値が変わる製品です。

 空気清浄機として見ると高い。しかし、家庭内の喫煙環境を変える小さな分煙設備として見るなら、価格の意味は変わってきます。

 たとえば、在宅ワーク中に書斎で吸いたい人。ベランダ喫煙で近隣に気を使っている人。換気扇下喫煙に限界を感じている家庭。小規模オフィスや事務所で、喫煙者と非喫煙者の折り合いをつけたいケース。

 そうした人にとっては、14万8000円は単なる家電価格ではなく、家庭内や職場内の摩擦を減らすためのコストだけでなく、仕事のパフォーマンスや効率を上げるコストとしても見えてくるかもしれません。

 発表会で印象的だったのは、ゲストとして登壇したジャーナリストの堀潤氏の言葉です。堀氏は、喫煙者と非喫煙者の間にある課題について、「人はそんなに強くないし、人はそんなに正義じゃない」と語りました。

「人はそんなに強くないし、人はそんなに正義じゃない」――社会の分断同様、喫煙者と非喫煙者、それぞれの立場を踏まえながら家庭内の分断について語る堀潤氏。家庭内喫煙の難しさを象徴する言葉だった
「人はそんなに強くないし、人はそんなに正義じゃない」――社会の分断同様、喫煙者と非喫煙者、それぞれの立場を踏まえながら家庭内の分断について語る堀潤氏。家庭内喫煙の難しさを象徴する言葉だった

 これは、家庭内喫煙の本質をかなり言い当てています。本当はやめた方がいい。本当は外で吸うべきかもしれない。本当は家族に迷惑をかけたくない。でも、つい吸ってしまう。家くらいはリラックスして吸わせてほしいと思ってしまう。

 一方で、吸わない家族も、いつも強く言えるわけではありません。知らない相手なら「やめてください」と言えても、毎日一緒に暮らす家族に「やめて」と言うのは意外と難しい。だから我慢する。だから不満が見えにくくなる。

 SMOKE ZEROは、その意味で、煙を処理するだけの装置ではありません。「これを導入しようと思うんだよね」という一言が、「気にしてくれていたんだ」「本当は嫌だった?」という会話につながる可能性があります。

 家族間で曖昧にされてきた喫煙の問題を、テーブルの上に出すきっかけになるかもしれないのです。都合のいい解釈と言われるかもしれませんが。

SMOKE ZEROは単なる煙処理装置ではなく、「家族に気を使っていた」「本当は嫌だった」という会話を生み出す、“家庭内分煙”のきっかけになるのかもしれない
SMOKE ZEROは単なる煙処理装置ではなく、「家族に気を使っていた」「本当は嫌だった」という会話を生み出す、“家庭内分煙”のきっかけになるのかもしれない

正論では消えない煙に、家電はどこまで向き合えるのか

 もちろん、繰り返しますが、最も根本的な解決策は禁煙です。SMOKE ZEROを導入したからといって、喫煙そのものの健康リスクがなくなるわけではありません。吸う本人のリスクも残ります。タバコを吸わない暮らしを選べるなら、それに越したことはありません。

 それでも、家電はいつも理想だけを相手にしているわけではありません。人間の弱さ、面倒くささ、習慣、家族の気まずさ。そうした不完全な現実を、少しだけ扱いやすくするために生まれる家電もあります。

 SMOKE ZEROは、万人向けの製品ではありません。むしろ、かなり人を選びます。非喫煙者だけの家庭には必要ありませんし、禁煙を決意した人にも不要でしょう。価格も高く、使い方にも慣れが必要です。

 それでもこの製品が面白いのは、家庭内喫煙という見えにくい問題に「パーソナルクリア分煙」という名前を与え、家電として解決しようとしている点です。

仕事のデスクに置くことで、吸いたくなったらその場で効率よく吸えるというイメージ
仕事のデスクに置くことで、吸いたくなったらその場で効率よく吸えるというイメージ

「タバコをやめれば?」それは正しい。でも、その一言で終わらない家庭がある。タバコの問題にかかわらず、家庭内っていろいろあるじゃないですか? 正論をぶつけあっても解決しない問題って。

 やめられない人がいて、吸わない家族がいて、我慢があり、気遣いがあり、言い出せない不満がある。SMOKE ZEROは、そんな分断しかけた家族の現実を14万8000円の分煙家電で解決しようとする、かなりの力業です。ただ、その力業の中にこそ、いまの家電が向き合うべき生活のリアルが見えているのかもしれませんね。

製品概要

SMOKE ZERO
価格:14万8000円(税込)
本体サイズ:幅379×奥行418×高さ435mm (電源コードを除く)
重量:約14kg
集じん方式:エアフィルター方式
フィルター:プレフィルター+HEPAフィルター+カーボンフィルター
フィルター交換目安:約3000本、または約1年(使用状況による)
オプション:専用ワゴン/セット販売あり

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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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