VAGUE(ヴァーグ)

撮り鉄にはおなじみの“絶景ポイント” コンクリート橋に生まれ変わってもなお人気 地上からエレベーターで40m上がった「天空の駅」とは

地上40mの世界へ誘う シースルーの「あまるべクリスタルタワー」

 兵庫県北部、日本海の荒波が迫る山陰本線の香住駅と浜坂駅間に、かつて全国の鉄道ファンや旅人を魅了してやまない巨大な建造物がありました。

 それが明治の面影を色濃く残していた「余部(あまるべ)鉄橋」です。

 鮮やかなトレードマークの赤色の鉄骨が織りなすレトロな美しさは、長年「撮り鉄」たちの聖地として君臨し、数々の名写真を世に送り出してきました。

 2010年、その歴史ある鉄橋は安全性の向上にともない、近代的なコンクリート橋へと姿を変えましたが、生まれ変わってもなお、この地を訪れる人は絶えません。現在では、地上40mの高さに位置する「天空の駅」へと気軽にアクセスできる観光名所として、さらなる賑わいを見せています。

餘部鉄橋を渡る山陰本線。かつての赤い鉄橋時代から撮影スポットとして有名
餘部鉄橋を渡る山陰本線。かつての赤い鉄橋時代から撮影スポットとして有名

 この絶景をひと目見ようと旅に出る際、まず知っておくべきなのが、舞台となる「餘部駅(あまるべえき)」へのアクセス事情です。

 山陰本線のこの区間は典型的なローカル線であり、ホームに滑り込んでくる列車は、時間帯によっては2時間に1本、多くても1時間に1本あるかないかという少なさです。

 特急列車は無情にもこの駅を通過していくため、普通列車を緻密に乗り継ぐか、あるいは事前に時刻表を深く読み込んで旅の計画を立てる必要があります。

 逆にいえば、この「簡単にはたどり着けない」というアクセスの悪さこそが、かつての秘境駅のような旅情をよりいっそう引き立て、鉄道ファンを惹きつけてやまない隠し味になっているのかもしれません。

 そんな限られた列車を乗り継いで餘部駅に降り立つと、まずその景色に息をのむことでしょう。

 駅があるのは、谷間に広がる余部集落のはるか頭上。高さ約41.5m、ビルで言えば13階から14階に相当するコンクリート橋の真上に、ホームがポツンと佇んでいます。

 かつてこの駅を利用するには、下から急な坂道を10分以上も息を切らして登る必要があり、地元の利用客にとっても過酷な道のりでした。

 そのアクセスを一変させたのが、2017年に完成した全面シースルーのエレベーター「あまるべクリスタルタワー」です。

 地上からタワーに乗り込むと、わずか数十秒で天空の世界へと運ばれます。ガラス張りの車窓から日本海の水平線がぐんぐんと迫り、足元の集落がミニチュアのように小さくなっていく浮遊感は、ちょっとしたアトラクションのようです。

 エレベーターを降りてすぐの場所に広がるのが、展望施設「空の駅」です。

 現在のコンクリート橋が架けられた際、明治45年の完成から約100年間にわたって列車を支え続けた旧鉄橋の西側の鉄骨3本が、当時のまま保存されました。

2017年に完成した全面シースルーのエレベーター「あまるべクリスタルタワー」
2017年に完成した全面シースルーのエレベーター「あまるべクリスタルタワー」

 その役目を終えた鉄路の跡地をそのまま生かして作られたのが、この遊歩道です。

 足元を見てみると、かつて列車が走り抜けていた本物のレールがそのまま残されており、歴史の重みがダイレクトに伝わってきます。遊歩道の先端には床面がガラス張りになった「のぞき窓」が設置されており、真下を覗き込めば、高所恐怖症でなくても思わず足がすくむほどのスリルを味わえます。

 ここから眺める日本海の景色はまさに絶景の一言で、どこまでも青い海と、四季折々で表情を変える周囲の山々、そして静かな集落の営みが一体となったパノラマが広がります。

ふもとにあるグルメとお土産が詰まった「道の駅 あまるべ」

 しかし、この美しい景色を眺めるとき、私たちはこの場所が歩んできた悲しい歴史にも少しだけ思いを馳せる必要があります。

道の駅あまるべには旧鉄橋から作られた鋼材グッズが販売されている
道の駅あまるべには旧鉄橋から作られた鋼材グッズが販売されている

 1986年12月、日本海からの猛烈な突風にあおられたお座敷列車が鉄橋から転落し、真下にあった加工工場を直撃するという、痛ましい脱線転落事故が発生しました。この惨事は地元の人々や鉄道関係者に深い深い悲しみをもたらし、同時に、風に強い安全な橋への架け替えを強く決意させる決定的な契機となったといいます。

 現在の頑丈なコンクリート橋への変貌は、単なる老朽化対策だけではなく、二度とあのような悲劇を繰り返さないという、安全への祈りと誓いから生まれた姿でもあります。新旧の橋梁が並ぶ現在の景観は、過去の教訓を未来へと語り継ぐ、静かなモニュメントとしての意味も持っています。

 コンクリート橋へと生まれ変わった現在も、真下から見上げるそのスケール感は圧倒的です。本数が少ないからこそ、頭上を列車が通過する瞬間はいっそう貴重に感じられ、ゴトゴトと心地よい重低音が谷間に響き渡るたびに、鉄道のダイナミズムを全身で実感できます。

 旧鉄橋の時代から愛されてきた、周辺の山や海岸線から橋梁を狙う定番の撮影ポイントは今も健在で、ディーゼルカーがエンジン音を響かせてコンクリート橋を渡っていく姿は、今なお絵はがきのように美しい一コマとしてカメラに収まります。

 余部観光の拠点として絶対に外せないのが、橋梁の真下に位置する「道の駅 あまるべ」です。

 食事処のイチオシは、地元の香住港で水揚げされた新鮮な海の幸を使ったグルメで、特に冬場に絶大な人気を誇るカニを使ったメニューや、日本海の荒波で引き締まった魚介類の定食は、訪れたら必ず味わいたい逸品です。

 お土産コーナーには、旧鉄橋のボルトを模した記念品など、ここでしか手に入らないユニークな余部鉄橋グッズがズラリと並びます。館内には事故の記録や鉄橋の歴史、新旧架け替え工事の模様を紹介する資料展示コーナーも併設されており、映像や写真を通して、この巨大インフラが地域の人々とどのように歩んできたのかを深く知ることができます。

※ ※ ※

 かつての赤い鉄橋はコンクリートへと姿を変え、アクセスの難しさは今も変わりませんが、地上40mの「天空の駅」から見渡す美しい日本海と、人々の鉄道への愛着は、100年前から何ひとつ変わっていません。

 むしろ、エレベーターや道の駅の整備によって、誰もが快適にその歴史と絶景に触れられる優しい場所へと進化を遂げました。京都や大阪の中心部から山陰本線の特急に揺られ、城崎温泉などを経由して各駅停車に乗り換えれば、日常を忘れさせてくれる圧倒的なスケールの空間が待っています。

 列車を一本見送る心のゆとりを持って、次の休日はこの歴史ある「天空の駅」へと、非日常の旅に出かけてみてはどうでしょうか。

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