VAGUE(ヴァーグ)

タイガーの新型コーヒーメーカーは何が違う? 世界王者・粕谷哲も注目した「透過×浸漬」のハイブリッド抽出

世界王者とタイガーは「別々に」ハイブリッドへたどり着いた

 今回、タイガー魔法瓶の新しい全自動コーヒーメーカー「HYBRID BREW ADG-A060」の発表会を取材していて、最も興味を引かれたのは、世界的バリスタの粕谷哲氏とタイガーの距離感だった。粕谷氏は2016年のWorld Brewers Cupでアジア人初の世界チャンピオンとなり、「4:6メソッド®」など、抽出を再現可能なレシピへ落とし込むことで知られる人物だ。

 ただし、ここは最初に明確にしておきたい。粕谷氏は今回のADG-A060の製品開発には関わっていない。タイガー自身も発表会後の公式リリースで、粕谷氏を「ゲスト」、久木野景介氏を「カフェマシン商品開発担当」と位置づけている。つまり「世界王者が監修したコーヒーメーカー」でも、「粕谷氏のメソッドをタイガーが製品化した」という話でもない。

 むしろ面白いのは、その逆だ。タイガーは以前から、透過式のDRIPと浸漬式のHOLDを組み合わせる「HYBRID BREW」を独自に開発し、従来モデル「ADF-A060」に搭載していた。一方の粕谷氏も、HARIOのスイッチドリッパーなどを使い、透過と浸漬を一杯の中で切り替える「ハイブリッドメソッド」を考案していた。両者に開発上の接点はなかったにもかかわらず、同じ課題を突き詰めた結果、かなり近い考え方にたどり着いていたのである。

 その事実に粕谷氏が気づいたのが、従来モデルADF-A060を自身のYouTubeで取り上げたときだった。自分が考える“ハイブリッドメソッド”と通じる抽出思想を家電メーカーが別ルートで実装していたことを面白がり、製品を評価した。その縁が今回につながり、粕谷氏は新モデルの発表会に有識者として招かれた、というのが実際の関係だ。

発表会会場に展示された全自動コーヒーメーカー「HYBRID BREW ADG-A060」。透過式と浸漬式を組み合わせる独自のハイブリッド抽出に、豆を挽くミルまで一体化したタイガー初の全自動モデルだ。
発表会会場に展示された全自動コーヒーメーカー「HYBRID BREW ADG-A060」。透過式と浸漬式を組み合わせる独自のハイブリッド抽出に、豆を挽くミルまで一体化したタイガー初の全自動モデルだ。

「透過か、浸漬か」ではなく、両方を使えばいい

 一般に家庭でコーヒーを淹れると聞けば、ペーパードリップを思い浮かべる人は多い。コーヒー粉に湯を通しながら成分を引き出すのが「透過式」だ。一方、フレンチプレスのように粉を一定時間お湯に浸して抽出するのが「浸漬式」。どちらが上という話ではなく、それぞれ得意な味のつくり方が違う。

 発表会で粕谷氏は、透過式はコーヒーの成分を溶け出させる力が強く、浸漬式は口当たりや厚みをつくりやすい抽出方法だと説明した。両方を組み合わせれば、透過式ならではのすっきりした飲みやすさに、浸漬式由来の甘みやコクが加わる。ここにハイブリッドの意味がある。

 タイガーのHYBRID BREWも、考え方はよく似ている。ADG-A060は内部の弁を制御し、DRIP(透過)とHOLD(浸漬)を一杯の中で切り替える。タイガーはDRIPで苦味・酸味・香りを、HOLDで甘み・コクを引き出すとしており、抽出液を流す、止める、再び流すという工程そのものをマシン側でコントロールする。

 ここで重要なのは「粕谷氏の方法を再現した」のではなく、粕谷氏とタイガーが別々に、同じような合理性へ到達していたことだ。技術の世界では、同じ問題を深く掘り下げると、互いに交流のない研究者や企業が似た解に行き着くことがある。今回の“透過×浸漬”には、そんな収斂進化のような面白さがある。

発表会にゲストとして登壇したPHILOCOFFEA代表の粕谷哲氏。今回は製品開発や監修に関わった立場ではなく、世界大会優勝経験を持つバリスタとして、抽出法や新製品の味づくりを専門家の視点から解説した。
発表会にゲストとして登壇したPHILOCOFFEA代表の粕谷哲氏。今回は製品開発や監修に関わった立場ではなく、世界大会優勝経験を持つバリスタとして、抽出法や新製品の味づくりを専門家の視点から解説した。

世界王者が新モデルで評価したのは、ミルと「ひと手間」の余地

 今回のADG-A060は、従来のHYBRID BREWをそのまま全自動化しただけではない。タイガーとして初めて豆を挽く工程まで一台に収め、細挽きから粗挽きまで連続的に調節できる無段階コニカル式ミルを搭載した。2026年10月1日発売で、想定売価は3万9600円。6杯まで対応しながら、本体幅は約16cmに抑えている。

 ここで粕谷氏の話がまた面白かった。全自動機だから「豆を入れてボタンを押せば終わり」と割り切るのではなく、Grindメニューで先に豆を挽き、フィルター内にできた粉の山を軽くならしてから抽出すると、より均一に成分を引き出しやすくなるという。プロから見れば、わずかな“ひと手間”で味はまだ変えられるわけだ。

 コニカル式ミルについても粕谷氏は評価していた。一般的なプロペラ式に比べ、挽いた粉の粒が立体的になり、成分を引き出しやすい。コーヒーの抽出では酸味が先に出て、その先に甘みがあるため、甘みまでしっかり引き出すうえでもコニカル式の意味は大きいという。挽き目はまず中央付近から始め、力強さが欲しければ細かく、軽やかにしたければ粗くするというアドバイスも実践的だった。

 この評価を聞いていると、ADG-A060の価値は「プロの技を完全に機械へ置き換えた」ことではないとわかる。ベースとなる抽出は機械が安定して担い、その上に人間が挽き目や粉のならし方で介入できる。ラクをしたい日には全自動で任せ、こだわりたい日は少し触れる。その余白が、コーヒー好きにはむしろ楽しい。

本体上部からミル機構を取り外したところ。ミルは丸ごと着脱でき、外刃と内刃も分解可能。全自動化で機構を増やしながら、粉残りの掃除や豆を替えた際の味移りにも配慮した構造になっている。
本体上部からミル機構を取り外したところ。ミルは丸ごと着脱でき、外刃と内刃も分解可能。全自動化で機構を増やしながら、粉残りの掃除や豆を替えた際の味移りにも配慮した構造になっている。

全自動は「何もしない家電」ではなく、選べる家電へ

 家電業界で「全自動」という言葉は、長らく“面倒な作業から人間を解放するもの”として使われてきた。洗濯機なら洗いから脱水まで、ロボット掃除機なら床掃除を人間の代わりに。そして全自動コーヒーメーカーなら、豆を入れてボタンを押せば一杯が完成する。もちろん、それは大きな価値だ。

 しかし、ADG-A060を見ていると、最近のプレミアム家電に求められているものは少し違うと感じる。ユーザーが何もしなくていいことと、ユーザーが選べること。その両立だ。ADG-A060にはRich、Strong、Decaf、Icedの4メニューがあり、挽き目も無段階で変えられる。ミルは本体から丸ごと外して手入れでき、外刃と内刃も分解できる。全自動化しながら、味やメンテナンスをブラックボックスにしすぎていない。

 日本のコーヒーメーカー平均単価は2021年から2025年にかけて約1.5倍になり、ミル付き全自動機も数量・金額ともに存在感を増している。モノが売れにくいと言われる時代でも、人は価値を実感できる体験にはお金を払う。さまざまな商品やサービスを見ていても、単なる時短より「自分なりに使い込める余地」のほうが、プレミアム価格を納得させるケースは増えている。

本体上面の操作部。Rich、Strong、Decaf、Icedの4つの抽出メニューに加え、豆を挽くだけのGrindも選択できる。日常はボタン操作で任せながら、必要に応じて挽き方や抽出前のひと手間を加えられる。
本体上面の操作部。Rich、Strong、Decaf、Icedの4つの抽出メニューに加え、豆を挽くだけのGrindも選択できる。日常はボタン操作で任せながら、必要に応じて挽き方や抽出前のひと手間を加えられる。

デカフェを「我慢の代用品」にしない

 もう一つ、今回の新モデルで見逃せないのがDecaf専用メニューだ。タイガーの調査では、コーヒーを「飲みたいのに我慢した/我慢しようと思った」経験がある人は4割。その理由として「夜眠れなくなりそう」が75%で圧倒的に多かった。好きなのに、時間帯によって飲めないという制約があるわけだ。

 一方でデカフェには「物足りない」「薄い」「おいしくないイメージ」といった味へのハードルも残る。そこでADG-A060のDecafメニューは浸漬式を採用し、甘みやコクを引き出して、デカフェ豆でも風味豊かに楽しめる方向を狙った。

 デカフェ豆の輸入量自体も、一般社団法人全日本コーヒー協会のデータによると2021年の3335トンから2025年には5633トンへ増えている。タイガーはさらに、通常豆とデカフェ豆を自分で組み合わせ、朝は通常豆、夕方以降はデカフェを多めにするといった「カフェインマネジメント」も提案する。ここは誤解しないようにしたいが、本体が2種類の豆を自動配合する機能ではない。ユーザーが豆の種類や配合を自分で選ぶという生活提案だ。

 つまり、この家電が変えようとしているのは「どう淹れるか」だけではない。「いつ飲めるか」まで広げようとしている。朝はしっかり、昼は好みに合わせて、夜はデカフェで。コーヒーを飲む時間そのものを増やすことができれば、全自動化の価値は単なる手間の削減より大きくなる。

デカフェ豆の輸入量は、一般社団法人全日本コーヒー協会のデータによると2021年の3335トンから2025年には5633トンへ増加。デカフェを「我慢して選ぶ代用品」ではなく、時間帯や気分に応じて選ぶ一杯として取り入れる市場が広がっている。
デカフェ豆の輸入量は、一般社団法人全日本コーヒー協会のデータによると2021年の3335トンから2025年には5633トンへ増加。デカフェを「我慢して選ぶ代用品」ではなく、時間帯や気分に応じて選ぶ一杯として取り入れる市場が広がっている。

面白いのは「世界王者の技を家電化したこと」ではない

 今回のHYBRID BREWを取材して、最終的に最も面白いと感じたのは、世界王者のレシピを家電メーカーがコピーしたことではない。そもそも、そんな関係ではない。

 粕谷氏は自分の現場で、透過と浸漬を組み合わせるハイブリッドメソッドへたどり着いた。タイガーは家電メーカーとして、弁制御でDRIPとHOLDを切り替えるHYBRID BREWへ独自にたどり着いた。後から粕谷氏が従来モデルを知り、自分の考え方と通じるものを見つけて評価した。そして今回は、開発者ではなく外部のプロとして新モデルを見て、抽出やミルの意味を解説した。

 この距離感がむしろ健全で、記事としても面白い。同じ課題を別々の立場から突き詰めた結果、世界王者と家電メーカーが似た答えへ行き着いたからだ。専門家が機械を監修するのとは違う。人間の経験と家電のエンジニアリングが、それぞれ独立して考えた末に“答え合わせ”をしたような関係なのである。

 会場ではDecaf、Rich、Strongの試飲も用意され、抽出方式の違いを実際の一杯で確かめることができた。最終的にユーザーが受け取るのは、弁制御でも抽出理論でもなく「今日はどんなコーヒーを飲もうか」という選択肢だ。技術が前に出すぎず、でもその裏側にはかなり深い理屈がある。そういう家電は、やはり面白い。

会場で用意された試飲。左からDecaf、Rich、Strongと書かれたメモが添えられ、異なる抽出メニューを飲み比べられる構成だった。理屈の違いが、最終的にどんな一杯になるのかを体験できる。
会場で用意された試飲。左からDecaf、Rich、Strongと書かれたメモが添えられ、異なる抽出メニューを飲み比べられる構成だった。理屈の違いが、最終的にどんな一杯になるのかを体験できる。

【製品概要】
製品名:タイガー魔法瓶 全自動コーヒーメーカー「HYBRID BREW ADG-A060」
価格:オープン価格(想定売価 税込3万9600円)
発売時期:2026年10月1日
カラー:オニキスブラック
タイプ:全自動コーヒーメーカー(ミル付き/DRIP〈透過式〉×HOLD〈浸漬式〉のハイブリッド抽出)
容量:0.85L/1〜6杯
消費電力:911W
本体サイズ:約160×333×412mm(幅×奥行×高さ)
重量:約3.6kg
ミル:無段階コニカル式(細挽き〜粗挽きまで無段階調節)
抽出メニュー:Rich(ハイブリッド抽出)、Strong(透過式)、Decaf(浸漬式)、Iced(浸漬式)/Grind(挽きのみ)
主な機能:独自ハイブリッド抽出、無段階コニカル式ミル、浸漬蒸らし、ミル機構まるごと着脱、主要なコーヒー汚れ部品の食器洗い乾燥機対応

Gallery 【画像】タイガーの全自動コーヒーメーカー発表会を画像で見る(14枚)
プロだけじゃない アマチュアこそ試したいスリクソンの新アイアン
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

RECOMMEND