「中国家電=安いだけ」はもう古い? ハイセンスの冷蔵庫と洗濯機が見せた“日本攻略”の本気
大型白物家電は日本メーカーの「聖域」ではなくなった
「中国製は安いが、細かな使い勝手は日本製が上」。いまもそんなイメージを持つ人はいるでしょう。しかし、長年国内外の家電メーカーを取材してきた筆者は、そうした見方が急速に現実とずれてきたと感じています。
2026年10月、ハイセンスが開いた冷蔵庫・洗濯機のメディア内覧会で、その変化を目の当たりにしました。テレビの印象が強い同社ですが、今やエアコンを含む白物家電にも注力。山本一人副社長は、洗濯機事業の規模について2024年を基準に2026年は約1.6倍、2027年は約2倍を見込むと説明しました。
今回の目玉は501Lの6ドア冷凍冷蔵庫「HR-FH50S」と、洗濯9kg・乾燥5kgのドラム式洗濯乾燥機「HWF-B90SS-W」。さらに8kgと10kgの縦型全自動洗濯機も投入します。小型・低価格モデルから始めた中国メーカーが、日本メーカーの主戦場である大容量帯へ、正面から乗り込んできた格好です。
501Lなのに幅・奥行65cm。壁際での使い勝手まで計算
冷蔵庫「HR-FH50S」の本質は、501Lという容量の大きさだけではありません。幅650mm、奥行650mm、高さ1850mmの筐体に加え、底面放熱を活用して設置時の必要な隙間を背面0mm、側面3mmに抑えています。壁際でも扉を90度開けられ、棚板や引き出しを取り外せる「ぴたよせドア」も採用しました。扉は設置条件が許せば最大150度まで開きます。
日本のキッチンで問題になるのは、カタログ上の幅だけではありません。通路にはみ出さない奥行、壁と扉の干渉、掃除のために引き出しを抜けるか。ハイセンスは「幅・奥行き・扉」という三つの壁を開発課題として掲げ、グローバルで培ったビルトイン冷蔵庫の技術を日本向けに応用しました。これはスペック競争というより、生活空間そのものを設計条件に取り込む発想です。

保存性能にも手を抜いていません。冷蔵と冷凍に別々の冷却器を設けた「おいしさW冷却」を搭載。小松菜を14日間保存したメーカー試験では、水分残存率が従来機の81%に対し新製品は94%でした。条件は周囲温度32℃、ラップなし、ドア開閉なし。一般家庭で14日間の品質を保証する数字ではありませんが、比較条件が明示された興味深いデータです。約60分の解凍モードから微氷結保存へ自動移行する仕組みも、家事の時間に縛られない工夫でしょう。市場想定価格は税込25万9600円です。
「自宅に置けなかった」技術者の失敗が新型ドラムを生んだ
さらに象徴的なのがドラム式洗濯乾燥機です。開発担当者は、前年に手がけた12kgモデルを自らの単身赴任先の住まいに置こうとして、給水栓や排水口、前方のスペースが干渉し、設置できなかったと明かしました。会場にはその洗濯機置き場を再現した模型まで登場。新製品が収まることを実演したのです。
「置けなかった」を「置ける」に変えるため、新製品は給水口周辺を斜めにカットし、排水ホースの取り回しに必要な逃げを設け、モーター方式も見直しました。その結果、幅598mm、奥行576mm、高さ1007mmという薄型ボディで、洗濯9kg・乾燥5kgを確保。脚部のゴムも振動や経年変形に配慮しています。
しかも市場想定価格は税込11万円。高濃度の洗浄液を広範囲に噴射する「浸透泡ベール洗浄」、20・40・60℃の温水洗浄、約2kgの薄手衣類を最短約60分で洗濯から乾燥まで仕上げるコースを備えます。乾燥方式はヒーター式で、水冷除湿を採用。省エネ性だけを見ればヒートポンプ式が有利ですが、使用頻度が少ない世帯には初期費用の低さが効くという提案です。

実際、同社は洗濯乾燥1回の電気・水道代をヒートポンプ式約44〜45円、ヒーター式約78〜80円と仮定した試算を提示しました。毎回乾燥する家庭ならヒートポンプ式、乾燥を使う頻度が低ければヒーター式という考え方です。ただし、比較機種や使用条件を置いたメーカー独自の計算であり、すべての家庭に当てはまるわけではありません。性能の絶対値だけでなく、暮らし方による合理性を売ろうとしている点が面白いのです。
野球部の泥汚れ、パルセーター裏のカビまで考える
縦型洗濯機も、細かな生活課題への目配りを示しています。10kgモデル「HW-DG100XS」は幅555mm、奥行620mm。8kgモデル「HW-DG80XS」は幅530mm、奥行583mmです。洗剤と柔軟剤の自動投入、泡状の洗浄液と立体水流を組み合わせる洗浄方式に加え、10分・4時間・12時間の槽洗浄コースを用意しました。開発担当者は、短時間コースでは汚れの残りやすいパルセーター裏側の洗浄に約半分の時間を割くと説明しています。

スマートフォンアプリ「ConnectLife」から追加できる「泥汚れ除去コース」は、野球部の子どものユニフォームを手洗いする保護者の負担が着想源。3回洗いで泥汚れに対応する設計です。10kgモデルの市場想定価格は税込8万5000円、8kgモデルは同7万5000円。ここにも、日常の不満を具体的な機能へ落とし込む姿勢が見えます。
人材の移動とグローバル規模が生む新たな競争力
近年のこうした中国企業の進化はハイセンス一社の現象ではありません。ハイアールグループは2012年に三洋電機の洗濯機・冷蔵庫事業などを引き継ぎ、日本で培われた開発基盤やノウハウを事業に取り込みました。現在のAQUAにつながる動きです。ロボット掃除機ではロボロックなど中国メーカーが、障害物回避や清掃・メンテナンスの自動化で市場の技術競争を牽引する存在になっています。
日本の技術がある日突然、中国で生まれ変わったわけではありません。企業買収や事業再編、技術者の国際的な移動を通じ、知識と経験は国境を越えて蓄積されてきました。ただし、今回ハイセンスに転職した日本人技術者の人数や役割まで断定することはできません。重要なのは、日本のものづくりの知見を含む多様な技術資産が、世界市場で再編されているという構造です。

ハイセンスは発表会でグループの年間売上高が5兆円を超えたと説明しました。世界規模で部品を調達し、技術を共通化する一方、日本では海外に少ない多ドア冷蔵庫のために専用の金型投資を行う。規模の経済とローカライズを同時に追求できることが、大きな強みになっています。
日本メーカーは、過去の成功体験に胡座をかけない
そして、もう一つ見逃せないのがスピードです。前年モデルを自宅に置けなかったという問題を、翌年の新製品では筐体構造やモーター方式の変更にまでつなげる。これだけで日本メーカーより開発期間が短いと証明できるわけではありませんが、課題発見から商品化までを結びつける実行力は確かに感じられました。
筆者は家電を取材する一方、会社を経営する立場でもあります。そこで痛感するのは、優秀な人材や高い技術力があるだけでは、事業は前に進まないということ。意思決定の速さ、失敗を次の試作へつなぐ仕組み、顧客の不満を拾い上げる現場との距離が問われます。長時間働くことを礼賛するのではなく、組織として何をどれだけ速く実現できるかが重要なのです。

日本メーカーには耐久性、品質管理、修理・サポートなど、なお多くの強みがあります。しかし、それが永遠に日本企業だけのものだという保証はありません。価格でも性能でも設置性でも競争相手が迫るいま、消費者が「日本メーカーを選ぶ理由」を更新し続けなければならない。
問われているのは「中国家電がどこまで進化したか」ではありません。その現実を前に、日本の家電メーカーがどれほど速く、暮らしに新しい価値を届けられるか。今回のハイセンスの発表会は、まさにその問いを突きつける場だったのです。
製品概要
製品名:6ドア冷凍冷蔵庫
型番:HR-FH50S
発売日:2026年10月下旬
価格:オープン価格(市場想定価格25万9600円・税込)
カラー:ブラストグレー/シルクホワイト/サテンブラック
定格内容積:501L
サイズ:幅65×奥行65×高さ185cm
製品名:ドラム式洗濯乾燥機
型番:HWF-B90SS-W
発売日:2026年11月下旬
価格:オープン価格(市場想定価格11万円・税込)
カラー:ホワイト
洗濯・乾燥容量:9kg/5kg
乾燥方式:PTCヒーター式(水冷除湿)
サイズ:幅59.8×奥行57.6×高さ100.7cm
製品名:縦型全自動洗濯機
型番:HW-DG100XS
発売日:2026年12月上旬
価格:オープン価格(市場想定価格8万5000円・税込)
カラー:ホワイト
洗濯容量:10kg
サイズ:幅55.5×奥行62×高さ106.5cm
製品名:縦型全自動洗濯機
型番:HW-DG80XS
発売日:2026年12月上旬
価格:オープン価格(市場想定価格7万5000円・税込)
カラー:ホワイト
洗濯容量:8kg
サイズ:幅53×奥行58.3×高さ104cm
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