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「55万円のランタン」の理由は“狂気の加工精度”――もはや家電ではない? バルミューダ「Sailing Lantern」の本質とは【家電で読み解く新時代|Case.21】

ステンレスに18Kメッキを塗装することで美しいゴールドに仕上げたことでアクセントに。
ステンレスに18Kメッキを塗装することで美しいゴールドに仕上げたことでアクセントに。

“夕日”の消え方まで設計されている

 Sailing Lanternが真に特異なのは、光の扱い方にある。光源は上部に仕込み、下部の反射板で柔らかく拡散する構造だ。反射板は鏡面仕上げのステンレス。素材、角度、仕上げの違いによる反射の差を何度も検証し、最も美しい表情を導く形状に辿り着いた。

「反射板はフラットなステンレスのポリッシュが一番きれいでした。何パターンも試作して、これ以上ないというレベルまで持っていったんです」。

 もうひとつ特筆すべきは、消灯時の光の消え方だ。多くの照明器具が“パッ”と一瞬で消えるのに対し、このランタンは“夕日”のようにゆっくりとフェードアウトする。

「自然の光って、パッと消えないですよね。あの“間”があるからこそ、光が記憶に残る。だからこのプロダクトにもそれが必要だったんです」。

 ジョニー・アイブもこの点に強い関心を示したという。島田氏の記憶によれば、彼は初期のディスカッションの中で「光そのものではなく、そこに生まれる“瞬間”をデザインしたい」という趣旨を語ったそうだ。

 単なる照明器具ではなく、時間を感じさせる体験として光を設計する──この思想はバルミューダとも一致、Sailing Lanternの根幹をなす。

マリン仕様が生んだ造形の精密さ

 Sailing Lanternはその名の通り、ヨットや船上など過酷な環境下での使用を前提に設計されている。海風、潮水、紫外線……それらに長期間さらされても耐え得る構造が、デザインの精度をさらに押し上げている。

 象徴的なのがベント孔(ガス抜き穴)だ。バッテリー内部の熱膨張に対応するため、通常は大きく設計する箇所を、Sailing Lanternでは極限まで小さく抑え、テストを重ねてギリギリのサイズを見つけ出した。

「底面のベント孔は、ギリギリのサイズを見つけるまでテストしました。普通の家電では絶対にやらない大きさです。海でも壊れない。でも見た目も壊さない。それが大事でした」。

 さらに、防水シール、排水構造、紫外線劣化対策なども細部にわたり意匠と一体化。裏面や内側に至るまで、“見えないところまで見られること”を前提にした造形は、クラフツマンシップの極みの象徴といえる。

刻印も削ることで白い文字で出るところと黒い文字で出るところがあるという。
刻印も削ることで白い文字で出るところと黒い文字で出るところがあるという。

宝飾レベルの製造を、家電の規律で量産する

 これほどの加工精度を持つ製品を量産するには、一般的な家電工場では対応できない。

 バルミューダはLoveFromの高い審美基準を満たすため、LoveFromと繋がりのある宝飾・高級時計分野に強いトップサプライヤーと協働し、自社のエンジニアも現場に何度も足を運び、完成度を高めていった。

「LoveFromの要求は本当に高い。でも、それに応えられる現場力をこちらも持っていました。お互いの技術と感性をぶつけ合うようなプロジェクトでした」。

 特に研磨と組み立て精度の管理は尋常ではなく、微細な歪みも許されない。検査工程では、表面の傷・R面のムラ・刻印の密度など、細部まで厳格な基準が設けられたという。

 完成サンプルをサンフランシスコのLoveFrom側に届けた際、ジョニー・アイブは祝意の言葉を返したと島田氏は振り返る。

「彼は“Congratulations.”と短く言ってくれたんです。あの一言が、この長いプロジェクトのひとつの区切りでした」。

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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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