「55万円のランタン」の理由は“狂気の加工精度”――もはや家電ではない? バルミューダ「Sailing Lantern」の本質とは【家電で読み解く新時代|Case.21】

“夕日”の消え方まで設計されている
Sailing Lanternが真に特異なのは、光の扱い方にある。光源は上部に仕込み、下部の反射板で柔らかく拡散する構造だ。反射板は鏡面仕上げのステンレス。素材、角度、仕上げの違いによる反射の差を何度も検証し、最も美しい表情を導く形状に辿り着いた。
「反射板はフラットなステンレスのポリッシュが一番きれいでした。何パターンも試作して、これ以上ないというレベルまで持っていったんです」。
もうひとつ特筆すべきは、消灯時の光の消え方だ。多くの照明器具が“パッ”と一瞬で消えるのに対し、このランタンは“夕日”のようにゆっくりとフェードアウトする。
「自然の光って、パッと消えないですよね。あの“間”があるからこそ、光が記憶に残る。だからこのプロダクトにもそれが必要だったんです」。
ジョニー・アイブもこの点に強い関心を示したという。島田氏の記憶によれば、彼は初期のディスカッションの中で「光そのものではなく、そこに生まれる“瞬間”をデザインしたい」という趣旨を語ったそうだ。
単なる照明器具ではなく、時間を感じさせる体験として光を設計する──この思想はバルミューダとも一致、Sailing Lanternの根幹をなす。
マリン仕様が生んだ造形の精密さ
Sailing Lanternはその名の通り、ヨットや船上など過酷な環境下での使用を前提に設計されている。海風、潮水、紫外線……それらに長期間さらされても耐え得る構造が、デザインの精度をさらに押し上げている。
象徴的なのがベント孔(ガス抜き穴)だ。バッテリー内部の熱膨張に対応するため、通常は大きく設計する箇所を、Sailing Lanternでは極限まで小さく抑え、テストを重ねてギリギリのサイズを見つけ出した。
「底面のベント孔は、ギリギリのサイズを見つけるまでテストしました。普通の家電では絶対にやらない大きさです。海でも壊れない。でも見た目も壊さない。それが大事でした」。
さらに、防水シール、排水構造、紫外線劣化対策なども細部にわたり意匠と一体化。裏面や内側に至るまで、“見えないところまで見られること”を前提にした造形は、クラフツマンシップの極みの象徴といえる。

宝飾レベルの製造を、家電の規律で量産する
これほどの加工精度を持つ製品を量産するには、一般的な家電工場では対応できない。
バルミューダはLoveFromの高い審美基準を満たすため、LoveFromと繋がりのある宝飾・高級時計分野に強いトップサプライヤーと協働し、自社のエンジニアも現場に何度も足を運び、完成度を高めていった。
「LoveFromの要求は本当に高い。でも、それに応えられる現場力をこちらも持っていました。お互いの技術と感性をぶつけ合うようなプロジェクトでした」。
特に研磨と組み立て精度の管理は尋常ではなく、微細な歪みも許されない。検査工程では、表面の傷・R面のムラ・刻印の密度など、細部まで厳格な基準が設けられたという。
完成サンプルをサンフランシスコのLoveFrom側に届けた際、ジョニー・アイブは祝意の言葉を返したと島田氏は振り返る。
「彼は“Congratulations.”と短く言ってくれたんです。あの一言が、この長いプロジェクトのひとつの区切りでした」。
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