炊飯器の進化は「大火力」から「弱火」制御へ。タイガーが土鍋で虎視眈々(こしたんたん)と狙う“象印超え”の勝算【家電で読み解く新時代|Case.47】
高い炊飯器が売れる時代に起きている逆説
いま炊飯器市場で起きている変化をひと言で言えば、炊飯器は「安く買う家電」から「毎日のごはんに投資する家電」へ変わり始めている、ということです。
台数だけを見れば、炊飯器市場は決して成長市場ではありません。ところが高価格帯の炊飯器は存在感を増し、平均単価も上がっています。食費が上がっているから高い家電は売れない。普通に考えればそう見えるかもしれません。
しかし実際には、逆のことが起きています。米の価格も揺れたからこそ、生活者は「せっかく買ったお米を、ちゃんとおいしく食べたい」と考え始めているのです。

タイガー魔法瓶株式会社 執行役員 ソリューション本部長の岡本正範氏は、発表会でこう語りました。
「国内の炊飯器市場は、コロナ前までは500万台規模で推移していましたが、コロナ以降は500万台を割り込み、足元の2025年度では450万台規模まで減少しています」(岡本氏)
一方で金額ベースでは、2025年度に約1100億円、前年比106%へ伸長。5万円以上のプレミアム高価格帯の構成比も、2025年度で37%まで拡大しました。高級炊飯器は、単なる贅沢品ではなく、家の食卓の満足度を上げる道具になりつつあるのです。

タイガーはなぜ象印の背中を捉え始めたのか
この市場変化の中で、タイガーのシェアも伸びています。
「高価格帯モデルである『ご泡火炊き』シリーズは、前年比113.2%と非常に好調に推移しています。その結果、炊飯器全体の金額ベースのシェアも、2019年度の15.2%から、足元の2025年度には29.1%まで伸ばすことができました」(岡本氏)
2026年1月から4月には、台数ベースでシェアNo.1の位置づけを確保したといいます。象印マホービンという強力な存在がある炊飯器市場で、タイガーは完全に射程圏に入ったと言っていいでしょう。

もっとも岡本氏は、発表会後のインタビューで、競合である象印マホービンについて「営業力の差もありますし、そう簡単ではありません」と慎重に話しました。ただし、その言葉の奥には明らかな手応えも感じているようです。
「タイガーには商品を作る力はあるんです。ただ、それを事業として整合性を持って展開する力が、以前は少し弱かったと思っています」(岡本氏)
そこで約6年前から、炊飯器でNo.1を目指すための商品政策を立て、生産政策、営業戦略を連動させてきたといいます。いい製品を作るだけでは市場は動きません。
商品、製造、営業、店頭での伝え方が同じ方向を向いて初めて、シェアは動く。いまのタイガーは、その歯車が噛み合い始めています。
「土鍋は、タイガー。」を言い切るまでに20年かかった
タイガーの炊飯器を語るうえで欠かせないのが「土鍋」です。同社は2006年、業界で初めて本物の土鍋を採用した炊飯器を発売しました。三重県四日市市の伝統工芸である四日市萬古焼の技術を活かし、土づくりから焼成、IHで発熱させるための加工まで、非常に手間のかかる工程を経て内釜を作っています。

タイガー魔法瓶株式会社 炊飯器ブランドマネージャーの辻本篤史氏は、土鍋釜の製造についてこう説明します。
「通常の陶器は毎回大きさが異なる一点ものですが、炊飯器の土鍋は毎回同じ大きさに作らなければなりません。そのため、世界中から十数種類の土を厳選し、その日の湿度や温度に合わせて配合を変えるところから始めています」(辻本氏)

ひとつの土鍋が完成するまでには約3か月。土鍋でありながら、家電の精密部品でもある。ここにタイガーの独自性があります。
ただし岡本氏によると、「土鍋は、タイガー。」という言葉で土鍋を明確にブランドの中心へ据え始めたのは、実は昨年からだといいます。
「それまでも土鍋とは言っていたのですが、いろいろな機能がある中のひとつとして伝えていました。でも、それではお客様に伝わらない。そこで昨年から、他の機能をなるべく小さくして、土鍋でいこう、と切り替えました」(岡本氏)
店頭でも、黒い内釜だけでなく、焼成前に近い白い素焼きの土鍋を並べ、「これは本当に土から作られた土鍋なのだ」と直感的に伝える工夫を始めています。
「お客様が店頭で内釜を持たれることは多いのですが、これが土鍋だと気づいていない方が少なくありません。外側が黒いので、通常の金属釜のように感じられる方もいらっしゃるんです」(岡本氏)
味は整った。製品作りも整った。そして市場の意識も整った。だからこそタイガーは今、土鍋を“機能”ではなく“ブランド”として前面に押し出せるようになったのです。

大火力の先にあったのは“弱火”だった
今回のJRT-A100で、タイガーが目指したのは「料亭の土鍋ごはん」です。
「私たちが20年目で目指したのは、料亭のごはんです。コースの締めくくりを飾る料亭の土鍋ごはんは、一人ひとり丁寧に炊き上げます。手間暇かけて炊き上げるからこそ、格別な甘みと食感を生み出します。ごはんそのものが主役となる、まさに至福のごはんだと考えています」(辻本氏)

ここで重要なのは、「料亭」が単なる高級感の演出ではないことです。タイガーは実際に料亭の炊飯工程を分析しています。
「料亭の至福のごはんを再現したく、私たちは料亭の炊きわざを紐解くところから始めました」(辻本氏)
なかでも重要なのが、炊き上げ後、蒸らしに入る前にガス火をとろ火にして、もうひと手間を加える工程です。

「このひと手間によって、ごはんの甘みと粘りを引き出し、食べたときに印象深い仕上がりになります」(辻本氏)
これが新技術「とろ火IH制御」につながりました。タイガーの土鍋炊飯器は、これまでも約300℃となる圧倒的な大火力を土鍋で受け取めることを大きな武器としてきました。しかしJRT-A100では、そこに「弱火」を制御するという新たな要素が加わりました。

「土鍋は火力を持つんです。一度熱を持つと、ものすごく熱を持つ。ただ、そのぶんコントロールが難しいんです」(岡本氏)
従来のオン/オフ制御では、土鍋の熱を細かく扱いきれない。そこで、エアコンのインバーター制御のように、弱い電力で連続的に制御する発想が必要だったといいます。
「土鍋だからこそ、そういう制御が必要だった。やってみたところ、非常に効果がありました」(岡本氏)
炊飯器の進化は、長く“強くする”ことで語られてきました。より強い火力、より高い温度、より激しい対流。しかしタイガーが今回見つけた余白は、強火の先にある弱火でした。
大火力で一気に炊く。その後、とろ火で整える。そして蒸らしへつなぐ。JRT-A100の進化は、火力競争から“火かげん”の再現へ移ったことにあります。

タイガーが“土鍋”を武器に勝負できる条件がそろった
高級炊飯器が選ばれる理由について、岡本氏は生活者の意識変化を指摘します。
「ごはんのおいしさというと、皆さんどうしてもお米の話になります。ただ、炊飯器というプロダクトでごはんの味が変わることに、皆さん気づき始めているのだと思います」(岡本氏)
米価の上昇も、その意識を後押ししています。

「せっかく高いお米を買うなら、おいしくない炊飯器で炊くのはもったいない。そういう欲求が広がっていると思います」(岡本氏)
ワインを楽しむ人がグラスにこだわるように、お米を大切に食べる人が炊飯器にこだわる。炊飯器は、米のおいしさを引き出すための道具へと見直され始めています。
今回、タイガーは「タイガー土鍋ごはんの名店」や、食体験イベント「幻の土鍋料亭タイガー」といった施策も予定しています。製品を売るだけではなく、土鍋ごはんのおいしさを体験として広げるためです。
炊飯器の性能差は、スペックだけでは伝わりにくい。食べて初めてわかる。だからこそ、試食体験や店頭展示、飲食店とのコラボレーションが重要になります。

象印マホービンという強力な王者を前に、タイガーはまだ謙虚です。営業力の差もある。市場の壁もある。それでも、いまのタイガーには勝算があります。
土鍋をブランドとして言い切る覚悟。料亭の炊飯工程から導き出した弱火制御。商品政策、生産政策、営業戦略を連動させる事業体制。そして、家のごはんに投資する生活者意識の変化。
炊飯器の進化は「大火力」から「弱火」へ。その変化は、単なる技術の話ではありません。家で食べる一膳の価値を、もう一度高めようとするタイガーの事業戦略そのものなのです。
製品概要
タイガー魔法瓶 土鍋ご泡火炊き JRT-A100
価格:16万9400円(税込/タイガー公式オンラインストア価格)
発売日:2026年6月21日
カラー:墨黒〈KS〉/月白〈KW〉
炊飯容量:5.5合炊き
内なべ:土鍋釜
内なべ保証:5年保証
主な炊飯技術:300度 WレイヤーIH/とろ火IH制御/匠火センサー
主な特徴:旨み対流形状/新しくなった波紋形状/センサースポット/おねばポケット
主なメニュー:白米/エコ炊き/一合料亭炊き/おにぎり/玄米/雑穀/分づき米 など
本体サイズ:約 幅28.4×奥行36.7×高さ22.4cm
本体質量:約7.3kg
消費電力:1080W
年間消費電力量:約82.3kWh/年
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