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未来のヘルスケアは“自動運転”へ! 程涛(てい・とう)氏が変える“健康管理はモチベーションに頼る”という常識【家電で読み解く新時代|Case.53】

「新製品だけでは、僕たちが提供したい価値を説明できない」

 体重を測り、食事を記録し、運動する。健康に正しいと分かっていても、毎日続けるのは難しい。

 issinのセミナーで、程涛氏が語り始めたのは新製品のスペックではなく、健康管理が抱える構造的な問題だった。

「スマートバスマット」と「スマートリカバリーリング」。入浴と睡眠という日常動作から、体重・活動・休息のデータを無理なく集める
「スマートバスマット」と「スマートリカバリーリング」。入浴と睡眠という日常動作から、体重・活動・休息のデータを無理なく集める

「新商品だけを説明しても、僕たちがヘルスケアで提供したい価値は伝えきれません。ようやく今後の構想を言葉にできるようになりました」

 2022年にpopInを離れて以降、程氏は約4年にわたりヘルスケア事業を考え続けてきた。そこで見えたのが、健康管理が人の意志へ依存しすぎているという問題だ。

「健康管理をしたいと思っていても、食事や体重、運動を継続して管理できる人は、おそらく全体の1割か2割です。例えば、仕事で疲れた人に、夜は健康のために努力しましょうと言っても難しいですよね。意志やモチベーションに依存していること自体が一番の課題なんです」

 続かないのは生活者の意識が低いからではない。努力を前提としてきたサービス側の設計にも原因があると程氏は考えている。

程涛(てい・とう)/issin代表取締役CEO。1982年、中国・河南省生まれ。東京大学大学院在学中の2008年にpopInを創業し、「popIn Aladdin」や「スイカゲーム」を開発。2021年にissinを創業し、日常に溶け込むヘルスケア体験を追求している
程涛(てい・とう)/issin代表取締役CEO。1982年、中国・河南省生まれ。東京大学大学院在学中の2008年にpopInを創業し、「popIn Aladdin」や「スイカゲーム」を開発。2021年にissinを創業し、日常に溶け込むヘルスケア体験を追求している

「本人を自動化できないなら、周囲の環境を自動化すればいい」

 そんな程氏が掲げるのは「健康管理の自動運転化」だ。記録、分析、判断、実行をデバイスやAIへ移し、生活環境が先回りして健康を支えるような世界である。

記録から提案、決定、実行、統合へ。レベル3からは判断主体を人からAIへ段階的に移し、最終的にレベル5の何もしなくてよい状態を目指す
記録から提案、決定、実行、統合へ。レベル3からは判断主体を人からAIへ段階的に移し、最終的にレベル5の何もしなくてよい状態を目指す

「自動運転はクルマを直接制御できます。しかしヘルスケアの対象は人間です。人の行動そのものを自動化することは、現状ではできません」

 現在のサービスは、AIや専門家が助言し、本人の生活習慣を変えようとするものが多い。

「一部の人は変わっても、大多数は続かない。そこで必要なのが、本人が動かなくても環境が変わる世界です。家のロボットが必要な料理をつくり、買い物まで整えてくれる。それが全自動です」

 家電は人の作業を機械へ移してきた。洗濯機は衣類量を判断し、エアコンは室温を監視する。健康管理だけを「本人が頑張るもの」にするのは不自然だ。

ポップインアラジンもスイカゲームも「意識させない」発明だった

「ポップインアラジン」は照明、プロジェクター、スピーカーを一体化し、設置や配線の面倒を解決した。「スイカゲーム」も説明なしで遊べ、自然と繰り返したくなる。努力を求めず、行動したくなる環境を先につくる思想は共通する。

「健康のためのウォーキングは続かなくても、犬の散歩なら毎日歩ける。健康が目的ではないから続くんです。何かのついでに健康になる方が近道かもしれません」

 通知やポイントで継続を促しても、毎日アプリを開き、課題をこなすなら新たな努力を加えただけだ。理想は、健康管理を続けていることさえ意識しない状態を作りあげることである。

「測ることを自動化しただけでは、まだレベル1です」

 その入口が、体組成計とバスマットを一体化した「スマートバスマット」だ。2026年モデルは、乗るだけで体重や体脂肪率など15項目を測定し、自動記録する。本質は機能数ではなく、測定を入浴動線へ組み込んだことにある。

体重や睡眠などの変化を可視化し、AIキャラクター「ウェリー」が必要なタイミングで気づきや行動のヒントを届ける
体重や睡眠などの変化を可視化し、AIキャラクター「ウェリー」が必要なタイミングで気づきや行動のヒントを届ける

「普通の体重計は自分から乗りに行く必要があります。スマートバスマットは必ず踏む場所にあるので、健康管理を意識しなくてもデータがたまります」

 新しい行動を追加しないからこそ継続しやすい。これはポップインアラジンがプロジェクターの置き場所を新たに要求しなかった発想にも通じる。

スマートバスマットで測定を自動化し、AIが体重変化を分析。増減の記録だけでなく、普段の体重帯へ戻る過程まで見守る
スマートバスマットで測定を自動化し、AIが体重変化を分析。増減の記録だけでなく、普段の体重帯へ戻る過程まで見守る

「自動記録がレベル1、AIの分析と提案がレベル2。その先でAIがプランを決めても、実行するのが人間ならモチベーションの壁が残ります。ここを変えるのが一番難しい」

 助言の後に「実行してください」と人へ返せば、自動運転にはならない。AIの判断を現実の生活へどう反映するかが次の課題になる。

Next「体重は減らすより、増えても戻せることが重要です」
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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