外気温50℃を想定する時代に。10年使うエアコンは何を基準に選ぶ?【家電で読み解く新時代|Case.58】
10年後に、「これを選んでよかった」と思えるか
「10年使う家電」と聞くと、まず耐久性を思い浮かべる。だが、その10年は、使う人が10歳年を重ねる時間でもある。子どもが育ち、家族の暮らし方も変わる。買った日の満足だけで、そのすべてに応えられるだろうか。
2026年9月9日、三菱電機は「霧ヶ峰」の2027年度モデルと、新ブランドコンセプト「長い目で見ても、霧ヶ峰。」を発表した。来年で誕生60周年。会場で多く語られたのは、性能の進化だけでなく、猛暑や住宅環境、施工人材の減少といった社会の変化だった。
発表後、三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部長の松本崇氏に、その狙いを尋ねた。
「やっぱり、次も霧ヶ峰をもう一回買ってもらいたいんです。一緒にいる10年間で、どれだけ霧ヶ峰の良さをわかってもらうか」
新製品の話を聞きに来たはずが、返ってきたのは、買ってもらった後の時間への思いだった。「一緒にいる10年間」という言葉に、このブランドが目指す顧客との距離感が表れている気がした。

値札には表れないところで、信頼はつくられる
国内のエアコン普及率は、二人以上世帯で92.2%。平均保有台数は2.84台に達する。新規普及だけでは大きな成長を期待しにくい市場で、次も選ばれる理由をつくる意味は大きい。
中国メーカーとの競争について、松本氏は価格競争力の強さを率直に認めた。そのうえで、こう続ける。
「『長い目で見ても、霧ヶ峰。』とコンセプトを立て直すことで、競争軸を変えているんですよね」
価格面の努力をやめるわけではない。国内生産、センサーやお掃除機能、利用データ、全国のサービスネットワーク。それらを結びつけ、製品単体では届けられない価値をつくるという。
「全国にあるサービスネットワークのメンバーも含めて、面で戦う」
起業家としても、この考え方は興味深い。顧客との関係を続けるには、買い替え時期にだけ声をかけても足りない。暑い日にちゃんと使えた。手入れしやすかった。困ったときに助かった。そんな日々の経験が、次の購入につながる。
安い家電には、それを必要とする人がいる。一方で、値札だけでは見えない仕事に価値を感じる人もいる。霧ヶ峰が競おうとしているのは、そこなのだ。

大出力より「小さく長く」。住宅が変わればエアコンも変わる
その思想は、技術にも表れる。10月30日発売の2027年度「ZWシリーズ」では、小能力時高効率型コンプレッサーを全機種に搭載。高断熱住宅などで室温が安定した後、大出力ではなく、小さな力で効率よく運転を続けることに磨きをかけた。
外気温50℃で運転可能という特長もある。どんな設置条件でも同じ冷房能力を保証する意味ではないが、メーカーが50℃を想定する時代になったこと自体に、エアコンの役割の変化を感じる。

機械の正解より、人が心地よく使えること
「おやすみサポート」の背景も面白い。説明員によれば、利用データから、就寝中は一度停止し、朝方につけ直す人の行動が見えてきたという。そこで、設定時間に停止し、室温に応じて再運転する使い方を支える。
連続運転と停止のどちらが省エネになるかは条件次第だ。それでも「一度は切りたい」という気持ちを、非合理だと切り捨てない。翌朝の「暑かった」「寒かった」という本人の評価を次回の設定に反映し、連携したスマートデバイスの睡眠データも室温などと並べて確認できるようになる。
暮らしを機械に合わせてもらうのではなく、機械のほうから暮らしに近づく。快適を決めるのは、最後は使う人なのだ。

「長く使ってほしい」を、使う人任せにしない
会場の実演では、従来からの「はずせるボディ」も印象に残った。お掃除メカやフラップを外すと、熱交換器やファン周辺まで手入れのためにアクセスできる。取扱説明書で認められた範囲を自分で掃除し、難しい汚れは専門業者へ。その分担ができる構造だ。
新機能「My家電レポート」は、電気代や運転時間を可視化し、積算運転時間に応じて手入れを促す。掃除できるようにするだけでなく、掃除するきっかけも届ける。
U・Tシリーズの一部機種で継続採用する高さコンパクト室外機も、施工する人を助ける工夫である。取り付ける人の負担は、一見ユーザーから遠い話に思える。しかし、設置されなければ、どんな高性能なエアコンも暮らしを涼しくできない。
故障対応や、繁忙期を避けた買い替え提案まで支える将来像も示された。快適をつくるだけでなく、使い続けられるように守るということだ。

次の一台へ、10年分の経験をつなぐ
松本氏は、将来的には利用データを次の製品へ引き継ぎ、よりその人に合う提案へつなげたいとも話した。
「データを引き継いで、もっとよくなりますよ、という提案のシナリオをつくって、次も霧ヶ峰を買ってもらうような開発を目指していきたい」
まだ構想であり、本人がデータの扱いを選べることも大切だ。それでも、前の一台との10年間が、次の快適さに生かされる。買い替えても関係が途切れないという未来には、心が動く。

「技術で超えたかった」。そのひと言が忘れられない
だからこそ、もう一つ尋ねずにはいられなかった。「霧ヶ峰Style FLシリーズ」のことだ。スクエアな姿と、オニキスブラックやボルドーレッドなどの外観。エアコンを、部屋の中で我慢する存在ではなく、選んで置きたいものにしたモデルである。
松本氏によれば、その形状を保ちながら2027年度の省エネ基準を達成するのは難しかった。熱交換器や室外機を大きくすれば、今度はデザインや価格との両立が難しくなる。量産品としての採算も壁になるという。
「技術で超えたかったんですけど」
悔しさをにじませていた。筆者には、採算の説明だけなら必要のないひと言に思えた。つくれなかった理由だけでなく、本当はつくりたかった気持ちが、そこには残っていた。
家電とインテリアを組み合わせた空間づくりに携わる身として、筆者も惜しい。家具も照明も壁の色も選んだ部屋で、エアコンだけは仕方がないと諦めたくない。長く使うものなら、見るたびに少しうれしくなる姿であってほしい。
その期待は、見た目だけのわがままだろうか。気に入っているから、手入れをして使い続けたい。そんな関係も、「長い目で見ても」の中にあっていいと思う。

少数の「どうしても欲しい」に、応える方法はないか
もちろん、限定生産にしても技術の壁は消えない。ただ、FLの形状をそのまま復活させることと、空間に調和する選択肢を増やすことは、別に考えられる。
例えば、省エネ基準を満たす本体を使った60周年限定カラー。あるいは、安全性や気流への影響を検証した交換式化粧パネル。受注生産やクラウドファンディングで、需要を確かめる方法もある。
タイガー魔法瓶は2025年、量産性より技術や仕上げへのこだわりを優先した炊飯器「TIGERリミテッドモデル」を、120台限定の完全受注生産で打ち出した。通常の旗艦モデルの1.5倍以上の価格にもかかわらず、わずか5日間で完売した。高価格で少量を届ける売り方の成功例だ。
もちろんエアコンでも成立するとは限らない。小ロット製造や補修部品の費用は残る。それでも、大勢が買える価格だけでなく、少数でも「この一台が欲しい」と思う人に応える商売があってもいい。
これは三菱電機の計画ではなく、筆者からの提案だ。外装を替えれば、模様替えした部屋でもまた好きになれる。性能が古くなるから買い替えるだけではない、家電との付き合い方を見てみたい。

海の向こうにも、安心して眠れる夜を
もう一つ期待したいのが、欧州への展開だ。欧州の熱波について話を向けると、松本氏はこう答えた。
「ヨーロッパのルールは、きっと変わると思っています」
設置のあり方が変われば、室内機と室外機を分けたセパレート型エアコンの導入機会は広がる。ただし、冷媒規制などへの対応は必要だとしたうえで、「ヨーロッパは、これからまだまだ伸びる市場だと思っています」と語った。
WMO(世界気象機関)などが欧州を世界で最も温暖化の速い大陸と位置づけるなか、熱波をその年限りの出来事として扱い続けるのは難しい。制度変更が決まったわけではないが、冷房を必要とする暮らしに、社会の側も向き合うことになるだろう。
日本の製品をそのまま運べば済む話ではない。建築や環境の条件に合わせ、設置と修理の体制まで整えて初めて、信頼は現地の暮らしに届く。
今回の小型室外機が欧州向けという説明はない。それでも、小型化や施工性の知見を生かせれば、設置の選択肢を広げられるかもしれない。暑さのために落ち着いて眠れない家に、安心して朝を迎えられる空気を届ける。海外市場の伸びしろとは、そういう一軒一軒の暮らしでもある。

信頼しているから、少しわがままを言いたい
もっと部屋になじむデザインを。量産だけに縛られない売り方を。そして、日本で磨いてきた技術を、必要としている世界の人へ。余計なお世話かもしれないが、今回の取材は、そんな期待を筆者に残した。
筆者はかつて霧ヶ峰の戦略PRに関わり、静岡製作所に足しげく取材に通っていた時期がある。その技術力の高さは、発表資料の数字だけでなく、現場での取材を通じて知ってきた。そこで得た信頼は、いまも筆者の中にある。
その技術力を知っているからといって、何でもできると思っているわけではない。ただ、できなかったことを「技術で超えたかった」と悔しがる松本氏の姿を見ると、こちらも簡単には諦めたくなくなる。まだ次をつくろうとしている人がいる。そのことが、何より心強かった。
「次も霧ヶ峰を買ってもらいたい」。松本氏の言葉に、いまならこう応えたくなる。だったら、次の霧ヶ峰をもっと楽しみにさせてほしい。
10年後、その一台を選ぶ自分の暮らしは、きっと今とは違っている。それでも、やっぱりこのブランドがいいと思えたらうれしい。長く使った安心と、これから使う楽しみ。その両方を感じられる家電に出会いたい。
信頼しているからこそ、まだ見たことのない霧ヶ峰を待ちたくなる。
製品概要
2027年度 三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」ZWシリーズ
・発売時期:2026年10月30日
・価格:オープン価格
・カラー:ピュアホワイト
・タイプ:壁掛けルームエアコン
・ラインアップ:全12機種(定格冷房能力2.2kW~9.0kW/主に6畳~29畳)
・省エネ:全機種2027年度省エネ基準に対応
・月販売台数目標:2万台
主な特徴:小能力時高効率型コンプレッサーを全機種に搭載、外気温50℃でも運転可能、MyMUアプリ連携、生活シーンに合わせた運転設定、おやすみサポート、My家電レポート、エラー通知・修理サポートなど
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