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未来のヘルスケアは“自動運転”へ! 程涛(てい・とう)氏が変える“健康管理はモチベーションに頼る”という常識【家電で読み解く新時代|Case.53】

「体重は減らすより、増えても戻せることが重要です」

 現在ユーザーは16万人を超え、18歳未満と65歳以上もそれぞれ1万人以上いるという。

「発売当初から使っている人を調べると、長く使っている人ほど体重が安定し続けている方がたくさんいますね」

 体重は外食や旅行で一時的に増える。大切なのは増えないことではなく、生活が日常へ戻ったとき、体重も普段の範囲へ戻せることだ。

「人にはそれぞれ安定ゾーンがあります。多少増えても、長く使っている人ほど戻せる力を持っていることが分かってきました」

一人ひとりの“安定ゾーン”をAIが学習。一時的に増えても、戻りやすい範囲にいるかを分かりやすく示す
一人ひとりの“安定ゾーン”をAIが学習。一時的に増えても、戻りやすい範囲にいるかを分かりやすく示す

 程氏も、週末に子どもとジャンクフードを食べるため、月曜日に体重が増えやすいとデータから知った。健康維持モード利用者約1万8000人では、約2kg増えた人の約65%が1週間以内に普段の体重帯へ戻ったという。

「1kg、2kgなら戻しやすい。でも気づかず5kg、10kgと増えれば大きな努力が必要です。問題は減量方法ではなく、その後の維持です」

年齢や現在の体重などから、リバウンドしにくい減量ペースを提示。急激に落とすより、維持できる変化を重視する
年齢や現在の体重などから、リバウンドしにくい減量ペースを提示。急激に落とすより、維持できる変化を重視する

「体重オートケア」は過去の変動を学習し、現在の増減が一時的なものか、注意すべき変化かを判断する。

「ここでグラフを見せるだけでなく、『あなたは今、大丈夫です』と誰もがひと目で分かるようにしたかった」

 着想源はクルマのエコメーターだ。

「表示が見えるから、人は自然と燃費のいい運転へ近づく。同じ考え方を体重管理へ応用しました」

クルマのエコメーターのように現在地を直感表示。細かな数値を読ませず、自然な行動変化につなげる
クルマのエコメーターのように現在地を直感表示。細かな数値を読ませず、自然な行動変化につなげる

 体重オートケアが目指すのは、細かな数値の分析をユーザーへ求めず、見るだけで体重を安定させやすい生活へ導くことだ。

「リングは、まだ完成された形ではないと思っています」

 体重だけで分からない睡眠やストレス、回復状態を補うのが「スマートリカバリーリング」である。心拍、体温、活動量、血中酸素などを測定し、毎朝の回復度を表示する。厚さ2.2mm、約3gで、最大7日間駆動。価格は2万9800円だ。

「最初からリングをつくりたかったわけではありません。ただ、つくるなら自分にしかできないものにしたかった。薄さ2.2mmで納得できる装着感になりましたが、バッテリーや製造は一気に難しくなりました」

厚さ2.2mm、約3gのスマートリカバリーリング。装着負担を抑えながら、睡眠や心拍、活動などを継続計測する
厚さ2.2mm、約3gのスマートリカバリーリング。装着負担を抑えながら、睡眠や心拍、活動などを継続計測する

 auとコラボレーションで生まれた「INFOBARコラボモデル」は仕上げにどうしても手作業も必要となり、工場を変更するほど試行錯誤したという。

「充電を含め、リングにはまだ進化の余地があります。ただ、バスマットとリングがあれば、体重、食事、運動、睡眠、ストレスを一緒に見られる。トータルなオートケアにはデータ連携が必要です」

 複数のデータを横断すれば、体重変化の背景にある睡眠不足やストレス、活動量の低下まで捉えられる可能性がある。

「最終的には、issinだけで実現する世界ではありません」

 程氏が描くオートケアは、体重と睡眠にとどまらない。

「メンタルヘルスや、将来的には認知機能の変化も見ていく必要があります。変化を検知するだけでは意味がありません。実際に何かを変えられるところまで進めたい」

 そこで鍵を握るのが、AIの判断を現実空間で実行する「フィジカルAI」だ。

「睡眠なら、光、音、香り、触覚をその日の状態に合わせて調整できる。フィジカルAIを活用しやすい領域です」

 疲れた日は照明や室温、音、寝具が自動的に整う。複数のアプリを操作せず、機器側が状態に応じて動く世界だ。

「データをハブに、さまざまな企業やサービスとつながり、必要なものが届き、自動的に調整される世界にしたい」

光、音、香り、触覚を体調に合わせて自動調整するホームフィジカルAI。データの判断を現実の環境変化へつなげる構想だ
光、音、香り、触覚を体調に合わせて自動調整するホームフィジカルAI。データの判断を現実の環境変化へつなげる構想だ

 issinはすべてを自社で抱えるのではなく、生活者の状態を理解し、食品、家電、睡眠、運動、医療などのサービスを動かすハブになろうとしている。

「健康を目的にしないことが、健康への近道になる」

 家電の歴史は、人の作業を減らす歴史だった。ところが健康管理には、測定、記録、運動、食事改善という宿題が今も多い。

「ユーザーへ新しいことをさせず、今ある生活の中のものを、その人に合ったものへ自然に置き換える。それなら無理なく続けられます」

 ポップインアラジンは照明に大画面体験を隠し、スマートバスマットは入浴に健康管理を組み込んだ。完全な自動運転にはデータ精度やプライバシーなど課題も多い。それでも出発点は、バスマットへ乗り、リングを着けて眠るという身近な行動だ。

体重オートケアに加え、食事・運動の支援や製品優待を組み合わせたメンバーシップ。製品購入後も健康管理を継続支援する
体重オートケアに加え、食事・運動の支援や製品優待を組み合わせたメンバーシップ。製品購入後も健康管理を継続支援する

 ユーザーが行うのは、普段通りに入浴し、眠ること。裏側でデータが蓄積され、必要なときだけAIが変化を知らせる。

「健康を意識させないことが、結果として健康への近道になるのかもしれません」

 issinが開発しているのは単体の体重計やリングではない。暮らしの側が、その人を健康な方向へ連れていく仕組みである。

「最終的には、ユーザーが何もしなくても健康へ向かっていく世界をつくりたい」

 程涛氏が変えようとしているのは製品の形ではなく、「健康になるには本人が頑張らなければならない」という常識そのものなのだ。

Gallery 【画像】issinが開催したセミナーの様子を写真で見る(30枚)
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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