日本で50台のみ販売された“幻のヨシムラ”がまさかの欧州オークションに登場! 名チューナーが本気で手がけたスペシャルバイク「トルネードS1」とは
名チューナーが世に問うた“市販車の限界”を極めた完成車
バイク界の名チューナーで、レースの世界でも活躍するヨシムラが、“市販車の限界”を極めたコンプリートモデルとして制作した「トルネードS1」が英国のオークションサイトに出品されました。
ヨシムラと聞いて、胸が高鳴るバイク好きは多いことでしょう。マフラーにあのステッカーが貼られているだけで「なんとなく速くなった気がする」という話が交わされるほど、バイク乗りの間で絶大なブランド力を誇るチューニングブランドです。
その歴史は、親しみを込めて“ポップ吉村”や“おやじ”と呼ばれる創業者の吉村秀雄氏が、1954年に福岡で小さなチューニングショップを開いたことに始まります。
戦時中、航空機整備士として培ったエンジンへの深い知識を武器に、米軍基地に駐留するGIたちのバイクの修理やチューニングを手がけたところからスタートしました。
やがてレースの世界へと進出し、「AMAスーパーバイク」シリーズでの優勝や「鈴鹿8時間耐久レース」での活躍を通じて、日米双方にその名をとどろかせることになります。
そんなヨシムラが“市販車の限界”を極めた完成車として世に問うたのが「トルネード」シリーズ。1987年に、スズキ「GSX-R1100」ベースでわずか3台のみが発売された「トルネード1200ボンネビル」に始まり、2000年の「ハヤブサX-1」(100台限定)、2001年の「カタナ1135R」(5台限定)と続いた系譜の最高傑作が、2002年に登場した「トルネードS1」です。

ベースモデルは、当時、最強を誇ったヤマハ「YZF-R1」に初めて本気で対抗できるモデルと絶賛されたスズキの初代「GSX-R1000」。ヨシムラはその優れたベースモデルをほぼ全面的につくり直し、「トルネードS1」を生み出しています。
●日本専用モデルのはずが欧州にも輸出されていた
「トルネードS1」は、988ccの直列4気筒エンジンを搭載。シリンダーヘッドを面研して専用の薄いヘッドガスケットを組み込み、圧縮比を純正の12.0:1から13.2:1へ引き上げています。
ヨシムラ製のST-1カムシャフトとアップグレードされたバルブスプリングにより、レブリミットはベースモデル比で500rpm高い1万2700rpmに達します。
エンジンマネージメントは、純正ECUから専用のヨシムラEMSに換装。ハンドルバーに取りつけられた3ウェイスイッチを使って走行中に燃料マップと点火マップを切り替えられるという、当時としては驚くべき先進機能も備わっていました。
また、クラッチレスでシフトチェンジできるクイックシフターとシフトタイミングライトも装備。排気系は、チタン製の“4-1 Tri-Oval Cycloneシステム”にカーボンファイバー製サイレンサーを組み合わせた専用品となっています。
これらチューニングにより、ヨシムラの発表値では1万2000rpmで170ps以上を発生。これは現代のスーパーバイクと比べても全く遜色のない数値です。
足まわりには、前後にオーリンズ製のサスペンション(ヨシムラ専用セッティング)とステアリングダンパー、ニッシン製の6ポッドキャリパーとラジアルポンプマスターシリンダー、さらに、BBS製の軽量アルミホイールを採用しています。
ボディカウルはすべてカーボンファイバー製で、燃料タンクは24リットルのアルミ製に換装されています。ヘッドライトはハロゲンではなく、当時としては“高級”なHIDプロジェクターヘッドライトとなっています。
当時の新車価格は378万円で、50台すべてを日本で販売。海外には正規輸出されなかった純粋な国内専用モデルです。
そんな日本でしか売られなかった50台限定の1台が、海を越えてイギリスのオークションに登場しました。
2025年に日本から欧州へと輸出された当該車両は、2026年3月にポーランドでオイルやフィルターの交換、さらに細かいメンテナンスを受けたばかり。走行距離は約7000kmと少なく、出品者によれば「オリジナルの状態を保ったコレクターズコンディション」とのことです。
入札は2万1500ユーロ(約400万円)まで集まりましたが、残念ながら売主の設定した最低落札価格には届かなかった模様です。
とはいえ、クルマもバイクも世界的に旧車人気が高まるなか、わずか50台という希少性と“ポップ吉村”の名を冠した出自を考えれば、今後、「トルネードS1」の評価額がさらに上がっていくことは想像に難くありません。
一度は日本を離れた当該車両が、どのような価格で新たな主のもとへと渡るのか? ヨシムラが世に問うた“市販車の限界”の価値は、これからも問われ続けていきそうです。
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