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夢のトランスミッションとまでいわれた「DCT」はなぜ普及しない? ATが主流の理由とは

DCTにはメリットがあるがデメリットもある

 クルマのトランスミッションには、さまざまな種類がある。

 そんななかで、もっとも古くからあるのが「MT(マニュアル・トランスミッション)」だ。これはアクセル/ブレーキの他に、変速のためのクラッチと、ペダルが3つある。

 そのクラッチペダルを廃して変速を簡便にしたのが、自動変速の代表格となる「AT(オートマチック・トランスミッション)」だ。これは遊星ギヤを使ったトランスミッションで、別に「ステップAT」とも呼ばれる。

 さらに1980年代以降、日本の小排気量車に採用が広まったのが「CVT(Continuously variable transmission)」だ。これはベルトをかけたふたつのプーリーの直径を変化させることで無段階変速を実現するため「ベルト式無段階変速機」とも呼ばれる。

 そして2000年代に入って登場した新顔が「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」だ。

  • DCTの代表格といえば、フォルクスワーゲンの「DSG」だろう。写真はVWモデルに搭載される7速乾式DSG

 これはその名のとおり、ふたつのクラッチを内蔵するトランスミッションで、優れた伝達効率と素早いシフトチェンジを実現した。

 ATにおけるトルクコンバーターやCVTが、構造上避けて通れない「内部伝達でのロス」とは無縁で、かつMTでの「クラッチやシフトの操作」という面倒をなくしたトランスミッションのため、登場当時は「夢のトランスミッション」と高い評価を得ている。

 ところが登場から20年近い時間が経っても、その普及はVW「ゴルフ」や「ポロ」など、アウディ「A3」や「Q2」など、メルセデス・ベンツの「Aクラス」など、欧州車の一部のモデルに留まっている。意外や、採用が広がらなかったのだ。またホンダ「フィット」も先代モデルは7速DCTを採用していたが、現行型ではCVTに戻っている。

  • いまから18年前の2003年に登場したVW「ゴルフIV・R32」が、量産車初のDSG(DCT)搭載モデルだった

 高い評価を得ながらも、このように採用が広がらなかったのは、どういった理由があったのだろうか。

 まず、いえるのはDCTにも弱点があるということだ。

 それはステップATとの違いの部分に起因するものが大きい。ステップATにあってDCTにないものは、トルクコンバーターだ。トルクコンバーターは、変速を滑らかにし、エンジン・トルクを増大させる機能を持つ。そのため、とくに発進時や低速走行での走りが滑らかになる。

 一方、それを備えないDCTは、低速でのストップ&ゴーの動きがギクシャクしがちだ。しかも低速域でのストップ&ゴーはクラッチの負担が大きく、耐久性も不利になる。

 さらにギア比が固定なので、無段階変速のCVTと比べると、エンジンの美味しい部分を使いにくい。エンジン負荷に対してもっとも効率のよいエンジン回転数の分布を、いわゆる“燃費の目玉”と呼ぶ。小排気量エンジンほど、その燃費の目玉が小さいため、燃費をよくするためには、緻密な変速制御が必要となる。

 CVTは、そうした制御がもっとも得意とするところ。つまり、小排気量エンジンなのに好燃費を求められるという条件があるため、日本ではCVTが広く採用されているのだ。

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