「ラムダッシュ」はシェーバーの名前ではなくなる!? 6枚刃パームインに見えたパナソニックの“メンズ美容ブランド”戦略
「ラムダッシュ」がメンズ美容を束ねる名前になる
2026年7月23日、パナソニックは「ラムダッシュ パームインPRO 6枚刃」3機種を発表した。発売は9月上旬で、発表会で案内された市場想定価格は税込5万4000円前後から8万4000円前後となる。
新製品は4枚の「極薄深剃り刃」と、長いくせヒゲをとらえる2枚の「アゴ下トリマー刃」を搭載。毎分約1万4000ストロークの高速リニアモーターと組み合わせ、長いくせヒゲのカット率は5枚刃モデルの約2倍になったという。刃の接触面積が広がるため、肌にかかる圧力も約10%低減する。

ただし、今回の発表で筆者がより注目したのは、製品そのものではなく「ラムダッシュ」の扱いが変わったことだ。
ラムダッシュは2002年に誕生し、20年以上にわたってパナソニックの高性能シェーバーを象徴してきた。ところが同社は、2026年6月に発売したボディトリマーをラムダッシュシリーズへ組み込み、年内にはヘアーカッターもラムダッシュとして刷新する。
さらに2~3年以内をめどに、化粧品やスキンケアといった非家電領域への進出も検討している。

つまり、これまで「ヒゲを剃る家電」のブランドだったラムダッシュが、髪、顔、体を含む男性のセルフケア全体を支える名前へ変わろうとしているのだ。
女性美容の領域で「Panasonic Beauty」が複数の商品カテゴリーを束ねてきたように、男性側ではラムダッシュに同様の役割を担わせる。今回の発表は、そんな“メンズ版Panasonic Beauty”をつくる宣言だったと筆者は捉えている。

好調なパームインが“格上げ”の説得力になった
そのブランド拡張の象徴に選ばれたのが、2023年に発売された「ラムダッシュ パームイン」だ。
パームインシリーズは2026年3月までに国内累計出荷70万台を突破。パナソニックの国内シェーバー販売額も、2025年度には2022年度比143%まで伸びたという。

好調の理由は、単なる小型化ではない。一般的な電気シェーバーから棒状のハンドルをなくし、本体を手のひらで包んで剃る形へ変えたことで、シェーバーの価値そのものを書き換えたからだ。
これまで電気シェーバーの進化は、刃数やモーター速度、ヘッドの動き、深剃り性能を競う方向が中心だった。しかし、どれほど高性能になっても、基本的には洗面所で使う実用品である。
対してパームインは、インテリアのように置いておけるデザインや、出張や旅行へ持ち出せる携帯性、手のひら全体で操作する新しい感覚を打ち出した。
その結果、従来の買い替え層だけでなく、初めて電気シェーバーを購入する若年層、T字カミソリからの乗り換え、2台目需要、女性から男性へのプレゼント需要まで開拓した。

今回、発表会に参加したVAGUE編集長の三宅らも会場で実機を確認した。アルミニウムの塊から1台ずつ削り出した「METAL EDITION」は、約180gの重量と金属ならではの冷たい触感が手のひらへ直接伝わる。
シェーバーを収納して洗浄、加熱乾燥、充電まで行う「パームインポッド」も、蓋を閉じれば従来の洗浄充電器ほど機械的に見えない。

使っているときだけでなく、触れた瞬間や置いている時間まで価値に変える。ここまで来ると、パームインは小型シェーバーというより、腕時計や筆記具に近いパーソナルツールである。
最上位モデルの8万4000円前後という価格は確かに高い。しかし、深剃り性能だけでなく、素材や所有感、生活空間との調和に対価を払う市場をパームイン自身がつくったからこそ、この価格帯が成立したのだろう。

ReFaの躍進が証明した“美容ブランド”の強さ
パナソニックがラムダッシュをメンズ美容ブランドへ広げる背景には、美容市場そのものの変化がある。
象徴的なのが「ReFa」だ。美容ローラーのイメージが強かったReFaは、ドライヤー、ヘアアイロン、シャワーヘッド、シャンプーやトリートメントなどへカテゴリーを拡大した。
ReFaを展開するMTGの2025年9月期売上高は前期比29.5%増となり、ヘアケア商品やシャンプー、トリートメントが成長を牽引している。

消費者は、必ずしも「ドライヤーメーカー」「シャワーヘッドメーカー」といった製品カテゴリーごとにブランドを認識しているわけではない。「ReFaなら美容に関する新しい体験を提案してくれる」という期待が、次の商品購入につながっている。
この構造を経営の視点から見ると、ブランドを横断的に育てるメリットは大きい。新しいカテゴリーへ参入するたびに、知られていないブランドをゼロから説明するには、多額の広告費と長い時間が必要になる。
一方、すでに信頼を得ているブランドであれば、その認知や顧客基盤を別の商品へ生かせる。
しかもシェーバーは数年に一度購入される耐久消費財だが、化粧品やスキンケアは継続的に購入される消耗品だ。シェービングからスキンケアまでつながれば、パナソニックは男性ユーザーと、より長く、深い関係を築けるようになる。
男性美容も、他人から不快に思われないための「身だしなみ」だけではなく、自分の気分やコンディションを整えるセルフケアへ変化している。
パナソニックの調査でも、男性が理・美容へ取り組むことを肯定的に捉える人は男性で約7割、女性で約8割に達した。特に若年層では「自分らしさ」が重視されている。

ラムダッシュを広げる判断は、突発的な多角化ではない。拡大する市場と男性の価値観を見れば、むしろ当然の一手といえる。
「ビストロ」にも見えるパナソニックのブランド整理
パナソニックは近年、商品を機能名や型番だけで売るのではなく、生活者に伝わりやすいブランドの下へまとめる動きを進めている。
調理家電の「ビストロ」が分かりやすい。もともとはスチームオーブンレンジの印象が強かったが、現在はオーブントースター、ホームベーカリー、オートクッカー、炊飯器まで展開。
生成AIを使った「Bistroアシスタント」も加わり、単一の製品名から「期待を超えるおいしさを、おまかせで実現する」という食体験全体のブランドへ進化している。
ラムダッシュの拡張も、その延長線上にあると考えられる。ボディトリマーやヘアーカッターを個別の名称で訴求するより、「ラムダッシュなら高い技術で自分らしく整えられる」と伝えた方が、生活者にとってははるかに分かりやすい。

ただし、知名度の高い名前を付ければ、すべてが成功するわけではない。カテゴリーを広げすぎれば、「ラムダッシュとは何のブランドなのか」が曖昧になる危険もある。
シェーバーで培った確かな技術、使いやすさ、所有したくなるデザインという共通価値を、今後のすべての商品で維持できるかが鍵となる。

今回のニュースは、最高峰の6枚刃が手のひらサイズに収まったことだけではない。そのパームインを旗印に、ラムダッシュが製品ブランドからライフスタイルブランドへ踏み出したことにこそ大きな意味がある。
次に登場するヘアーカッター、さらにその先のスキンケア商品でも、ラムダッシュらしさを感じられるのか。その答えによって、今回の“格上げ”が単なるブランド整理で終わるのか、パナソニックの新たな成長軸になるのかが見えてくるはずだ。
製品概要
ラムダッシュ パームインPRO 6枚刃 ES-P690U
価格:オープン価格(市場想定価格 税込8万4000円前後)
発売時期:2026年9月上旬
カラー:メタルシルバー
タイプ:充電式メンズシェーバー(往復式・6枚刃)
刃:6枚刃システム(極薄深剃り刃4枚+アゴ下トリマー刃2枚)
駆動方式:リニアモーター高速駆動/約1万4000ストローク/分
充電時間:マグネット式充電ケーブル使用時 約2時間、パームインポッド/ワイヤレス充電台使用時 約4時間
使用可能日数:フル充電で約14日間(1日1回約3分使用時)
防水・洗浄:IPX7基準/本体まるごと水洗い対応
本体サイズ:約幅72×奥行49×高さ59mm(キャップを除く)
重量:約180g(キャップを除く)
主な付属品:パームインポッド(全自動洗浄充電器)、ワイヤレス充電台、セミハードケース、マグネット式充電ケーブル、専用洗浄剤1袋、専用オイル、掃除用ブラシ
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