一世を風靡した「レイコップ」、あのブームの後に何が起きた? 創業者の健康危機と“スローエイジング”への再挑戦【家電で読み解く新時代】
日本に「ふとんクリーナー」という市場をつくった医師
2010年代前半、レイコップは日本の家電市場で一種の社会現象になった。筆者も当時、新製品発表会を取材し、販売員向け勉強会にも登壇した。「布団に掃除機をかける」という、それまで広く定着していなかった行為を、一つの生活習慣へと変えたブランドだった。
原点は、マイケル氏がかつて医師としてアレルギー患者を診ていた時代にさかのぼる。当時診ていた患者に検査を行うと、35〜40%ほどがハウスダストやダニに反応していたという。
「薬を処方しても、住環境に原因がある限り、アレルギー症状は続いてしまいます。そこで患者さん自身の環境を変えるために、寝具をきれいにする専用機器を探しましたが、当時は見つかりませんでした。だから、自分でつくろうと考えたんです」
医師から家電メーカーの創業者へ。知識も経験もない異分野への転身だったが、「若い今やらなければ後悔する」と会社を立ち上げた。ただし、製品は最初から売れたわけではない。転機となったのが、ジャパネットたかた創業者・髙田明氏との出会いだった。髙田氏から販売現場での助言を受け、要望に合わせて製品や見せ方を素早く改善した。その後、テレビや各種メディアが相次いで取り上げ、人気に火がついたという。
レイコップの強さは、UV照射、たたき、吸引という三つの機能だけではなかった。掃除後のダストボックスを見れば、寝具から吸い取った汚れが目に見える。技術と実演販売が結びつき、「なぜ必要なのか」が一瞬で伝わる商品になったのである。

成功の「選択と集中」が、次の一手を遅らせた
日本で本格販売を始めた2012年2月から約2年で国内累計販売100万台、2015年5月には300万台を突破。2016年12月末には国内累計出荷450万台以上に達したと発表された。文字どおり、存在しなかったふとんクリーナー市場を自ら生み出すほどの成功である。
しかし、大成功には副作用もあった。「レイコップ=ふとんクリーナー」という印象が、あまりにも強くなりすぎたのだ。
「売上も悪くありませんでしたから、危機感がなかったんです。ほかの分野や製品には目もくれず、ふとんクリーナーだけに注力してしまいました」
経営者の視点で見れば、成長市場へ資金と人材を集める「選択と集中」は間違いではない。モデルチェンジを重ね、販売を伸ばしていた当時としては合理的な判断だったはずだ。だが、カテゴリーを代表するほどの成功は、ブランドの意味を一つの商品に固定する。やがてカテゴリーへの話題性が薄れると、会社全体まで止まったように見えてしまった。
水面下では、レイコップは何もしていないわけではなかった。温度や湿度を整える「ふとんコンディショナー」で睡眠環境全体へ領域を広げ、コードレススティッククリーナーや水拭きロボットなどの新製品も投入。失敗を重ねながら、モーターや吸引設計、生産、品質管理の経験を蓄積していったという。
それでも、ふとんクリーナーに続く柱までには育たなかった。筆者には、商品そのものだけでなく、「なぜレイコップがつくるのか」という物語を十分に設計できなかったことも、大きな要因に映る。

「情報が届かなかった10年」は、誰の責任だったのか
筆者が今回もっとも聞きたかったのは、全盛期後の約10年で何が起きていたのか、という点だった。新製品発表会にも足を運んできた筆者にすら、その後の活動はほとんど見えなかった。
その事実を伝えると、マイケル氏は「私のせいだと思います」と即答した。
マイケル氏によれば、製品開発へ時間を振り向ける一方、マーケティングやメディアとの関係づくりを外部の代理店に丸投げし、自ら十分に管理していなかったという。その判断は結果として、社内で続けていたはずの技術開発を外部から見えにくくした。
起業家である筆者にも、この失敗は他人事ではない。専門家へ任せることは必要だが、ブランドが「誰に、何を約束するのか」という根幹まで委ねてはいけない。技術開発と情報発信が分断されれば、製品を出し続けていても、社会からは止まった企業に見えてしまう。
その反省の延長線上に、かつて全盛期のマーケティングを担った三澤郁子氏の復帰がある。マイケル氏は同等の人材を長く探したが見つからず、元社員を介して連絡先を得て約10年ぶりに再会。自身の健康体験と、今後実現したいスローエイジング構想を説明したところ、三澤氏も共鳴し、再び一緒に働くことになった。

眠れない創業者を襲った、成功の後の健康危機
会社の停滞期、マイケル氏本人の心身にも異変が起きた。本人によれば、市場シェア1位を守るプレッシャーに加え、売上や会社を取り巻く状況が悪化するなか、朝8時から夜10時まで働き、ほぼすべてを自分で決めていた。経営判断への自信が揺らぎ、やがて眠れなくなったという。
睡眠不足で正しい判断ができない。ストレスからピザやハンバーガー、コーラなど、暴飲暴食を繰り返す。自覚症状がないまま代謝の状態が悪化し、糖尿病予備群に相当する数値も表れた。
「当時、自分が死ぬこと以上に、会社のメンバーや家族のことが気になりました。創業者として、会社を誰かにきちんと渡すまで継続する使命があります。そのためには、自分の健康を取り戻さなければならないと考えました」
医師であっても、健康を維持する方法を体系的に学んできたわけではなかったとマイケル氏は話す。少なくとも自身が受けた医学教育では、病気の診断と治療が中心で、健康寿命をどう延ばすかを体系的に学ぶ機会はなかったという。
コロナ禍で家にいる時間が増えると、健康寿命や老化に関する医学文献を読み込んだ。そこで行き着いた基本が、食事、運動、睡眠である。食材を選び直し、散歩に加えて筋力トレーニングを始め、睡眠を整えた。こうして悪循環を好循環へと変えていった。
取材で久しぶりに対面した筆者も、10年ほど前の印象より若々しくなったことに驚いた。三澤氏も再会した際、「私が知っていた社長ではない」と感じたという。ただし、これは“若返り効果”を示す医学的な証拠ではない。生活習慣を立て直した本人に生じた変化を、筆者と三澤氏が「若々しくなった」と受け止めた、という客観的実感である。とはいえ、その実感こそが、次の事業を動かした。

リ・ソンジンが「Dr.マイケル」を名乗る理由
日本でレイコップが急成長していた頃、彼は李誠晋(リ・ソンジン)社長として知られていた。ところが、現在の対外表記は「Dr.マイケル・リー」だ。なぜ代表者としての名前表記を変えたのか。そう尋ねると、本人は「初めて聞かれた質問です」と驚いた。
「マイケルは、もともと私が米国で使っていた名前です。2019年から2020年頃、家族と米国で過ごすようになり、使う機会が増えました」
2025年3月、新しいウェルネスブランド「Dr.MiCHAEL」を立ち上げる際、マイケル氏は自身の名前を入れたいという思いが強かったという。自ら体験し、自ら調べ、自ら責任を負ってつくるサプリメントやスキンケアだからだ。さまざまな候補を検討した結果、耳に残りやすく、医師としての出発点も伝わる「Dr.MiCHAEL」に行き着いた。
家電ブランド「レイコップ」と新しいウェルネス事業「Dr.MiCHAEL」を分けながら、後者には創業者個人の顔と責任を明確に刻む。「レイコップ=ふとんクリーナー」という強すぎる印象に苦しんだ経験を踏まえると、筆者には今度こそ「誰が、なぜつくるのか」を前面に出したブランド設計に映る。

「アンチ」ではなく、「スロー」を選んだ理由
「Dr.MiCHAEL」が掲げるのは、老化を止める「アンチエイジング」ではない。食事、運動、睡眠を整えながら、健やかに年齢を重ねることを目指す「スローエイジング」だ。
人は年齢を重ね、老化を完全に止めることはできない。マイケル氏は医学文献を読み、自身でも生活習慣を改めるなかで、老化と戦うのではなく、日々の習慣を整えながら健やかに年齢を重ねるという考えにたどり着いた。氏がスローエイジングという言葉に込めるのは、そうした発想である。
現在56歳のマイケル氏は、80代、90代まで健康に働ける人が増えれば、社会の創造性を支える力になると考えている。超高齢社会の日本において、働き、考え、自分らしく動ける期間を延ばす意味は大きい。健康寿命を延ばすことは個人の幸福であると同時に、社会の活力にもつながり得る。

次の“新市場”で、創業者自身が試される
現在のレイコップは、家電ブランド「レイコップ」と、サプリメントやスキンケアを扱う「Dr.MiCHAEL」の二軸で走り始めている。家電事業では、吸引式スチームクリーナー「Turbo2」やUV除菌プールレス加湿器「MINAMO」も発売し、同社が掲げる「健康家事家電」の領域へ広がろうとしている。
かつて、知らないカテゴリーを軽視したことを反省しているというマイケル氏は、「生活者の健康寿命に役立つなら、新たな家電領域も積極的に学び、レイコップならではの価値を、できる限り多くの人に手の届く価格で届けたい」と語る。
一方で、ウェルネスは口当たりのよい言葉だけに、科学的根拠と商品価値の境界が曖昧になりやすい。医師の肩書きを掲げる以上、個人の成功体験と、多くの人に当てはまる科学的根拠を丁寧に分けて説明する責任も重くなる。マイケル氏本人の若々しさは、ブランドストーリーとして強い説得力を持つが、それだけで商品の効果を保証するものではない。この緊張感を失わないことが、ブランドへの信頼を強めることにつながるだろう。

再起の先へ――創業者自身も「スローエイジング」の途上にいる
5年後の目標について聞くと、マイケル氏は売上や規模ではなく、「顧客、社員、メディア、専門家、工場など、関わる人から信頼される会社」と答えた。かつてはすべてを自分で決めていたが、いまは仲間に判断を委ね、対話に多くの時間を使う。その変化自体も、彼にとってのスローエイジングなのかもしれない。
ふとんクリーナーで新市場をつくった医師は、会社と自身の栄光と停滞を経験し、いま再起の途上にいる。そして今度は、自らブランドの顔となり、健康寿命という大きなテーマへ挑もうとしている。リ・ソンジンが「Dr.マイケル・リー」を名乗る理由は、過去を捨てるためではない。レイコップを生んだ予防医療への思いを、自身の失敗と回復を通して、もう一度引き受け直すためだったのではないだろうか。
レイコップは、もう一度新しい生活習慣をつくれるのか。今後は、ブランドの次なる挑戦だけでなく、創業者自身の生き方からも目が離せない。

【製品概要】
レイコップ Turbo2(RCC2-100)
価格:税込2万8800円
発売時期:2026年8月26日
カラー:ダークグレー
タイプ:吸引式スチームクリーナー
本体サイズ:約幅320×奥行245×高さ290mm
重量:約4.0kg
吸引力:1万5000Pa
加熱温度:60℃/100℃
起動時間:60℃まで約15秒、100℃まで約30秒
タンク容量:洗浄水 約1250mL/回収 約750mL
定格電圧:AC100V 50/60Hz
定格消費電力:通常時 最大500W/ヒーター動作時 最大1500W
電源コード長:約4m
ホース長:約1.6m
防水性能:IPX4相当
動作音:82dB以下
主な機能:常温水・60℃温水・100℃スチームの3モード、100℃高温スチームと吸引の同時運転、急速加熱、ホースセルフ洗浄、洗浄水・回収タンクの分解清掃
付属品:洗浄ブラシ、アタッチメント2種(ナイロンブラシ・シリコン)、ホース洗浄キャップ、スチームコネクター、スチームノズル、ブラシノズル、噴射口掃除ピン
レイコップ MINAMO(RUH-100)
価格:税込1万9800円
発売時期:2026年9月15日
カラー:ホワイト
タイプ:UV除菌プールレス加湿器
加湿方式:プールレス超音波式
本体サイズ:約幅250×奥行250×高さ218mm
重量:約2.3kg
適用畳数:木造和室 約4畳/プレハブ洋室 約7畳
最大加湿量:約250mL/h
タンク容量:約2.0L
運転モード:オート/マックス/ナイト
ナイトモード:加湿量 約150mL/h/運転音 約24.8dB
タイマー:2時間/4時間/8時間
主な機能:タンク内UV-LED除菌、少パーツのプールレス構造、上部給水、温度・湿度センサーによる自動湿度調整、約3.3μmの微粒子ミスト、静電式タッチパネル
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