VAGUE(ヴァーグ)

マイクロソフト新「Copilot」は仕事をどこまで減らせる? AI時代の“時短と余裕”を考える【家電で読み解く新時代|Case.60】

2時間の仕事が20分に。それでも忙しいのはなぜ?

 例えば、毎週2時間かけていた報告書が、AIのおかげで確認も含めて20分で完成したとします。これで早く帰れる。そう思ったら、上司から「じゃあ、この資料もお願い」と頼まれました。

 給料も評価もそのまま。さらに同僚からAIの使い方を聞かれ、自分が作った仕組みの不具合にも対応する。仕事は速くなったはずなのに、以前より忙しい。そんな働き方になっては、何のためのAIかわからなくなります。

 「もっとAIを使おう」と言われても、自分にどんなメリットがあるのか見えなければ、気が進まないのも自然です。新しいCopilotの発表を見て、筆者が考えたのも、機能のすごさだけではなく、こうした働く人のリアルでした。

新しいCopilotのキービジュアル。「AI built for work」とあるように、単なる回答生成ではなく、仕事の入口として文書作成や作業の実行まで担う方向性が示された。
新しいCopilotのキービジュアル。「AI built for work」とあるように、単なる回答生成ではなく、仕事の入口として文書作成や作業の実行まで担う方向性が示された。

「文章を書いて」から「この仕事をお願い」へ

 マイクロソフトが2026年9月25日に発表した新しいCopilotは、仕事で使うAIの役割を広げるものです。質問して答えてもらうだけでなく、作業そのものを任せる方向へ進みます。

 柱は3つあります。「Home」は、相談したり、まとまった仕事を頼んだりする入口。「Code」は、「こんな道具が欲しい」と言葉で説明すると、業務用のアプリを作る機能です。「Autopilot」は、目標を与えると、毎回指示しなくても確認や連絡を続ける、いわばAIの同僚です。

 WordやExcel、PowerPointもCopilotの中で扱えるようになります。AIが文書や表、スライドのファイルを直接作成・更新するため、回答をコピーして別のソフトで整え直す手間を減らす狙いです。

 小売業を想定したデモでは、セールまでに在庫をそろえるよう頼まれたAutopilotが、18店舗に影響しそうな配送リスクを見つけ、担当者と対応を進めていました。ただし、これは実演例です。新機能は順次提供される段階で、発表時点ですべてを誰もが使えるわけではありません。

 AIを使い込んでいる人が、いくつかの道具を組み合わせて行ってきたことを、普段の仕事の中で使いやすくする。筆者は今回の発表を、そう受け止めています。

マイクロソフトのCopilot発表イベントの様子。AIが何をできるかだけでなく、働く人が取り戻せる時間をどう扱うかも、今回の記事の大きな論点になる。
マイクロソフトのCopilot発表イベントの様子。AIが何をできるかだけでなく、働く人が取り戻せる時間をどう扱うかも、今回の記事の大きな論点になる。

筆者のAI活用も「同じ手間を減らしたい」から

 筆者もChatGPTと、仕事で使う道具づくりを進めています。きっかけは「最新のAIを使いたい」ではありません。「同じ手間を何度もかけたくない」という気持ちです。

 例えば、Wordで完成させた原稿と写真を、記事を公開するシステム「WordPress」に入れる作業。原稿はもうできているのに、別の画面で配置し直す。この繰り返しが気になり、AIと相談しながら入稿を自動化するツールを作りました。

 ただし、任せきりにはできません。写真と本文が合っているか。読み込みに失敗しないか。使って出てきた問題を直し、公開する判断は人間に残しています。

 もう一つ、自分の会社で省力化したのが、外部スタッフへの毎月の支払い請求です。私は一人法人でありながら、多くの外部スタッフと案件を進めています。従来は月末になると、こちらで請求書のExcelフォーマットを用意して一人ひとりにメールで送り、金額や案件名、経費などに間違いがないか確認してもらい、返送された請求書を再確認する、という作業が発生していました。支払いミスを防ぐためには必要ですが、人数が増えるほど手間も増えます。

 そこで、その月に支払う内容をもとに各スタッフ向けのExcel請求書を自動生成し、そのファイルを添付した確認メールまで自動で送信できるツールをAIと一緒に開発しました。スタッフ側は届いた請求書の金額や内容を確認し、必要な部分だけ追記・修正して返せばいい。こちらも毎月同じフォーマットを作って送る作業を減らせます。これは「AIで何かを作りたい」から始まったのではなく、「毎月必ず発生するこの手間を、どうすれば間違いなく、しかも楽にできるか」という課題から生まれた仕組みです。

 CopilotのCodeのデモでも、商品を導入するとどれくらい得になるかをExcelで計算していた作業を、顧客と条件を変えながら使えるアプリに置き換えていました。便利な機能が先ではなく、減らしたい手間が先にあるのです。

ジェイコブ・アンドレウ氏が、新しいCopilotを構成するHome、Code、Autopilotを紹介する場面。入口、道具づくり、自律的な作業支援という役割分担が示された。
ジェイコブ・アンドレウ氏が、新しいCopilotを構成するHome、Code、Autopilotを紹介する場面。入口、道具づくり、自律的な作業支援という役割分担が示された。

最初の一歩は「この作業、またやるの?」でいい

 皆さんにも、メールの内容を別の表へ書き写す、会議のたびに資料の体裁をそろえるなど、「またこれか」と思う作業はないでしょうか。最初から大きな改革を考える必要はありません。

 会社で使ってよいAIと情報の範囲を確かめたうえで、「この作業の、どこを減らせる?」と相談してみる。何を変えるかを見つける段階から、AIを頼ってもいいのです。そのうえで、どこまで任せ、最後に何を自分が確かめるかを決める。凝った指示文を覚えるより、そんな使い方が身近だと思います。

 自分で道具を作るのが難しければ、「この情報を毎回3か所に入力している」と、詳しい同僚に伝えるだけでも出発点になります。課題を見つける人と、解決する仕組みを作る人は、同じでなくてもいいのです。

Autopilotは、目標を与えると確認や連絡を継続するAIの同僚として位置づけられる。記事では、小売業を想定した配送リスク対応のデモにも触れている。
Autopilotは、目標を与えると確認や連絡を継続するAIの同僚として位置づけられる。記事では、小売業を想定した配送リスク対応のデモにも触れている。

調査でも見えてきた「時短」と「余裕」の違い

 国内では、どれくらいAIが使われているのでしょうか。帝国データバンクが2026年3月に1万社以上から回答を得た調査では、生成AIを使う企業は約3社に1社でした。多くの活用企業が効果を実感する一方、回答企業の4割は、どの業務で活用するかを課題に挙げています。AIの性能だけでなく、使い道を考えることも課題なのです。

 使い始めた後にも、落とし穴があります。米カリフォルニア大学バークレー校の研究では、従業員約200人の米国のテクノロジー企業を8カ月間観察したところ、AI利用で仕事の範囲が広がり、休憩中にも作業が入り込む様子が見られました。

 上司に言われなくても、「これもできる」と自分から仕事を増やす例もあったといいます。一社での観察なので、誰にでも当てはまる話ではありません。それでも、便利さがそのまま余裕に変わるとは限らないことを考えさせられます。

仕事が速くなっても、給料が増えるとは限らない

 デンマークで、AIの利用状況と所得・労働時間の記録を照らし合わせた研究もあります。ChatGPT登場から約2年間を調べましたが、AIによって平均的に収入が増えたり、働く時間が減ったりしたとは、はっきり確認できませんでした。今後も変わらないという意味ではありません。

 こうした研究だけで、日本の会社がAIを使わない原因を給料の問題だとはいえません。ただ、「仕事が速くなる」「早く帰れる」「給料が上がる」は別々の話です。そこをつなぐには、会社側の工夫も必要ではないでしょうか。

Codeは、言葉で説明した業務上の困りごとをアプリ化するための機能。筆者自身の入稿ツールや請求書生成ツールの話とも、発想は近い。
Codeは、言葉で説明した業務上の困りごとをアプリ化するための機能。筆者自身の入稿ツールや請求書生成ツールの話とも、発想は近い。

AI開発に月5万円。LINEヤフーが用意した時間と対価

 参考になる国内の例もあります。LINEヤフーは2026年6月、AIの機能開発を担う社内公募の拡大を発表しました。活動は通常業務の約20%の時間を目安とし、公募で参加するメンバーに毎月5万円を支給する仕組みを新設しています。

 AIを使う全社員への支給ではなく、特定の開発活動を対象とした制度です。それでも、挑戦する時間と対価を会社が用意する考え方は参考になります。得意な社員に「通常の仕事に加えて、善意でお願い」と頼るだけではないのです。

「もっとAIを使って」の前に、会社が決めたいこと

 筆者の場合、空いた時間で新しい企画を考え、次の仕事につなげられます。その成果は自分にも返ってきます。経営者として社員に同じ積極性を期待するなら、本人にもメリットが必要です。

 まず決めたいのは、減らせた時間をどう使うかです。新しい仕事に挑戦するのか、学ぶ時間にするのか、残業を減らすのか。改善を評価や賞与にどう反映するかも含め、成果が出てから仕事だけを追加せず、試す前から本人と話しておくべきでしょう。

 提案する社員の側も、「AIを導入しましょう」だけでなく、「この転記を減らしたい。確認の手間も含めて、まず小さく試したい」と伝えると、話を具体的にできます。減らせた時間をどう使いたいかまで、一緒に相談したいところです。

Homeは、Copilotに相談し、作業を始めるための入口になる。まず「この作業の、どこを減らせるか」を考えるという記事後半の提案ともつながる画面だ。
Homeは、Copilotに相談し、作業を始めるための入口になる。まず「この作業の、どこを減らせるか」を考えるという記事後半の提案ともつながる画面だ。

評価するのは「使った回数」より「減らせた手間」

 評価するのはAIを使った回数ではなく、ミスを減らした、納期を短くした、ほかの人も使える道具を作ったといった変化です。AIの利用料や、人間が確認・修正する時間も含めて見ます。今回のCopilotも、CodeやAutopilotなどは利用量に応じた課金です。たくさん動かせば得になるわけではありません。

 AIを試す時間や、同僚に教えたり、不具合を直したりする時間も、正式な仕事として数える必要があります。本人の空き時間や残業で埋めないことです。

 そして、AIに任せた仕事を、人間が同じようにやり直す状態をいつまでも続けない。重要な数字や社外への送信は人が確認しつつ、やめてよい作業はやめる。そこまで変えて初めて、人間の仕事が減ります。

サティア・ナデラ氏は、AIツールそのものだけでなく、組織の仕事の進め方を見直す重要性を語った。時間をどう取り戻すかという本稿の結論にも重なる。
サティア・ナデラ氏は、AIツールそのものだけでなく、組織の仕事の進め方を見直す重要性を語った。時間をどう取り戻すかという本稿の結論にも重なる。

AIに任せて空いた時間で、何をしたいですか?

 マイクロソフトのサティア・ナデラ氏も、道具を導入するだけでなく、会社の仕事の進め方を考え直す重要性を語っていました。

 同じ発表で印象に残ったのは、ジェイコブ・アンドレウ氏による、組織で専門性も判断力もありながら、いつも時間が足りないのは誰か、という問いでした。AIを使う意味は、そんな人に、得意な仕事へ集中できる時間を返すことにもあります。

 家電を長く取材してきた筆者には、ロボット掃除機と似て見えます。床をきれいにするだけでなく、掃除に使っていた時間を家族との食事や趣味に回せる。それも道具の価値です。

 AIも同じです。今週「またこれか」と思った仕事を一つ、思い浮かべてみてください。それを減らせたら、何をしたいでしょうか。本当に考えたい仕事に向き合うのか、少し早く帰るのか。その答えから始めるほうが、最新機能の名前を覚えるより、AIはずっと自分の役に立つものになるはずです。

Gallery 【画像】新「Copilot」の3機能と発表会の画像を見る
ロケット級の飛びは本当?新「ZXi RKTドライバー」をアマチュアが本音試打
プロだけじゃない アマチュアこそ試したいスリクソンの新アイアン
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

RECOMMEND