711馬力の“最強911”はロングドライブでも快適? ポルシェ新型「911ターボS」で公道へ サーキットでは見えなかった“万能さ”とは
街中では“ワイドな911”であることを意識させられる
とはいえ、どんなシーンでも高級サルーンのように気楽に乗れる、というわけにはありません。新型は「911カレラ」系よりワイドなボディを持ち、フロントフェンダーはカレラ系より45mm広く、リアもターボらしく大きく張り出したフェンダーを備えています。高速道路では頼もしい安定感につながるそのワイドなスタンスも、狭い市街地や駐車場では意識せざるを得ない場面が出てきます。
一方、そうした場所で助けになるのが“リアアクスルステアリング”。低速域では後輪を前輪と逆方向に操舵して旋回性を高め、高速域では同じ方向へ切ることで安定性を向上させる仕組みで、ハイパフォーマンスを受け止めるための装備でありつつも、日常域では取り回しのよさにも効いてきます。
また、オプションとなる“フロントアクスルリフトシステム”も、スーパースポーツを日常的に使う上ではありがたい装備といえるでしょう。“ehPDCC”と同様に400Vシステムに組み込まれたことで、従来よりも素早くフロントを持ち上げられるようになっています。ポルシェによれば、アプローチアングルも従来のシステムに対して2.4度拡大しているとのこと。その分、駐車場のスロープや大きめの段差も、以前よりストレスなくクリアできます。
こうした装備を見ていると、新型が単に“最速の911”を目指したモデルではないことが分かります。日常的なシーンでは、段差を乗り越えて駐車場へと入り、渋滞にも遭遇する。そんな当たり前の場面まで想定した上でニュルブルクリンクを7分03秒92で駆け抜けるという、このワイドレンジな性能こそ、「911ターボS」というモデルの特殊性といえるでしょう。
●ワインディングでようやく“片鱗”をのぞかせる711psの強心臓
高速道路を降りてカーブが続く道へ入ると、それまでおだやかだったキャラクターが少しずつ変わってきます。もっとも、公道で711psを解放する必要はありませんし、そんなことをすべきでもありません。それでもステアリングを切り、ブレーキペダルを踏み、コーナーを抜けてアクセルを開ける……という一連の操作を繰り返していると、このモデルが紛れもなく「911ターボS」であることを思い出させてくれます。

特に興味深いのは、ハイブリッド化で増えた85kgという車重です。サーキットでは、それをネガティブに感じる場面はほとんどなく、むしろシャシーとパワートレインの進化によって先代を大きく上回る速さにつなげていました。
ところが公道では、絶対的な速度が低い分、別の側面が見えてきます。“リアアクスルステアリング”による旋回性、“ehPDCC”による姿勢制御、“PTM(ポルシェ・トラクション・マネージメント)”による4輪への駆動力配分といった巧みな技術が、85kgのハンデを消してみせるのではなく、大パワー車を自然に動かすために働いていることが伝わってくるのです。
高速道路では安定感につながっていた重厚さが、ステアリングを切ればスポーツカーらしい正確さへと一変する……新型「911ターボS」の魅力は、ひとつの性格だけを強調するのではなく、走るシーンによって必要な表情をきちんと見せてくれる点にあると思うのです。
●サーキットでは分からなかった「ターボS」の価値
長距離を走ってみて改めて感じたのは、新型「911ターボS」を711psという数値だけで評価するのはもったいない、ということです。
サーキットで走らせたときには、85kg重くなりながら、なぜ先代より速く走れるのかという疑問がありました。そこで見えてきたのは、最高出力だけでなく、“Tハイブリッド”、シャシー、電子制御、空力など、クルマ全体を一体的に進化させることで重量増を克服するというポルシェからの回答でした。

しかし、公道で問われるのは、それとは異なる能力です。長時間、高速道路を快適に走れるか。街中で神経をすり減らすことなくつき合えるか。必要ならワインディングを楽しめるか。そして、目的地へ着いたときに「また乗りたい」と思えるか。
「GT3」系の「911」が、純粋にドライビングそのものへと向き合うモデルだとすれば、「ターボS」はもう少し欲張りです。サーキットではとびきり速く、それでいて日常も切り捨てない。711psをいつも使わせるのではなく、その大出力を使わない時間にも価値を持たせる。こうした点こそが、歴代の「911ターボ」が守り続けてきたキャラクターなのでしょう。
新型「911ターボS」は、「911」の量産モデルで史上最もパワフルなモデルです。しかし、ロングドライブを終えてから印象に残るのは、“最強”という肩書きよりも、それほどの性能を抱えながら一般道をフツーに走れる“懐の深さ”でした。サーキットでは見えなかった“万能さ”は、まさにそこから起因するものなのかもしれません。
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