VAGUE(ヴァーグ)

約25万円の「ルンバ モンスター」はなぜ生まれた? 愛犬の足腰とペットの毛に悩んだ社長の答え【家電で読み解く新時代】

約25万円の「モンスター」。やりすぎな性能には理由があった

 ロボット掃除機の進化が止まりません。吸引力の向上はもちろん、水拭き、障害物回避、段差の乗り越えまで、各社が競うように新技術を投入しています。そんな市場に、ロボット掃除機のパイオニアであるアイロボットが、何とも挑戦的な名前の新製品を投入しました。

 その名も「Roomba Monster(ルンバ モンスター)」。10月21日発売、公式オンラインストア価格は24万9800円(税込)。フラッグシップの「Roomba Max」をさらに超える最上級モデルです。

 10月14日に開催された発表会では、ハロウィンにちなんで棺の中から新製品が登場。アイロボットジャパンの山田社長もドラキュラ姿で現れるなど、これまでの家電発表会とはひと味違う演出が繰り広げられました。

ハロウィン仕立ての発表会では、棺を模した展示から新製品が登場。ドラキュラ姿の山田社長と愛犬・一平君も登壇し、「モンスター」という大胆な名称を会場全体で印象づけました。
ハロウィン仕立ての発表会では、棺を模した展示から新製品が登場。ドラキュラ姿の山田社長と愛犬・一平君も登壇し、「モンスター」という大胆な名称を会場全体で印象づけました。

吸引力は最大5倍。温水ミストまで備えた驚きの清掃性能

 同社の経営戦略担当執行役員、山内洋氏は、今回の製品について「やりすぎ」「規格外」「オーバースペック」という言葉を使って説明しました。メーカー自らが過剰とも思える性能を認めてしまうのですから面白いものです。

 実際、搭載されている技術は相当なものです。

 吸引力は従来モデル「Roomba Plus 505」と比較して最大5倍。新開発の「SealForce(シールフォース)」は、カーペットを検知するとブラシユニットを床面に密着させ、空気の漏れを抑えることで、繊維の奥に入り込んだゴミを強力に吸い取ります。ブラシに絡まった髪の毛やペットの毛を、内蔵カッターで切断する機構まで備えています。

 水拭きも徹底しています。約60℃の温水ミストを噴射する「ThermaMist(サーマミスト)」と、大型の加圧ローラーモップを組み合わせました。ローラーの接触面積は従来比1.5倍、回転速度は2.5倍。両者を掛け合わせたスクラブ性能は3.75倍と説明しています。

 ちなみに温水は本体で加熱するのではなく、充電ステーション内のヒーターで生成し、ロボット本体へ供給する方式です。さらにモップはステーションで80℃の温水洗浄と55℃の温風乾燥まで行います。

 これだけでも十分にモンスター級ですが、筆者が興味を持ったのは、こうした性能そのものよりも、なぜここまで突き詰めた製品を作ったのかという点でした。

愛犬・一平君とともにトークセッションに臨んだ山田社長。犬猫の毛やフローリングでの転倒など、自宅で感じた切実な課題が「モンスター」の開発要件につながったと語りました。
愛犬・一平君とともにトークセッションに臨んだ山田社長。犬猫の毛やフローリングでの転倒など、自宅で感じた切実な課題が「モンスター」の開発要件につながったと語りました。

犬1匹、猫2匹。社長自身の悩みが開発の原点だった

 その答えは、山田社長の自宅にありました。

 「我が家には猫が2匹、犬が1匹、それから娘が2人、そして妻が1人いまして、髪の毛も長いんですよね。長毛の生き物がたくさんいるのが山田家なんです」

 山田社長は冗談交じりに、そんな家族構成を紹介しました。当然、床には犬猫の毛や髪の毛が落ちます。そのため掃除のしやすいフローリングにしていたそうですが、そこには別の悩みがありました。愛犬である一平(ゴールデンレトリーバー)と共に、壇上で嬉しそうに話を続ける。

 「一平と毎日2時間ぐらい散歩に行くんですけど、帰ってきても遊べってうるさいんです。ところがフローリングで遊ぶと滑って転んじゃう。やっぱり足腰に悪いんですよね」

 獣医師らに相談すると、足腰への負担を減らすためにもカーペットを敷いた方がいいと勧められました。しかし、そこで山田社長は考えました。カーペットを敷いてしまったら、ルンバはきちんと掃除できるのだろうか、と。

 「カーペットを敷くと、ちゃんとルンバで掃除できるのかなという心配があったんです。乗り越えられるのか、毛を吸い取ってくれるのか。だから開発側には、ペットの毛を確実に取れるようにしてほしいとお願いしました」

実機の底面を見ると、存在感のあるローラーモップやブラシ類の配置が分かります。スチームも勢いよく飛び出すなど、カーペットへの対応や毛絡み対策など、細部の機構を積み重ねてペットとの暮らしを支える設計です。
実機の底面を見ると、存在感のあるローラーモップやブラシ類の配置が分かります。スチームも勢いよく飛び出すなど、カーペットへの対応や毛絡み対策など、細部の機構を積み重ねてペットとの暮らしを支える設計です。

カーペットもペットの毛も。愛犬のために磨いた技術

 今回のモンスターには、最大3.5cmの段差乗り越え機構が搭載されています。段差を認識すると前輪を伸ばし、いったん後退して助走をつけながら乗り越えます。また、カーペットではSealForceによって吸引効率を高め、濡れたローラーモップには物理的なカバーをかけることで、カーペットが濡れるのを防ぎます。

 さらに、ペットの排せつ物をAIで認識して回避する機能や、活性炭入りフィルターによるニオイ対策も盛り込みました。

会場に設けられたカーペット清掃のデモエリア。毛足のある敷物への対応は、愛犬が滑りにくい床づくりと掃除を両立したかった山田社長にとって、譲れないポイントの一つでした。
会場に設けられたカーペット清掃のデモエリア。毛足のある敷物への対応は、愛犬が滑りにくい床づくりと掃除を両立したかった山田社長にとって、譲れないポイントの一つでした。

狙いはペットオーナー。生活の悩みを解くN=1の発想

 発表会後の個別インタビューで、山田社長は今回のメインターゲットがペットオーナーであることを明かしました。

 「今回のモンスターは、もうペット用に全部しているんですよ。フィルターにカーボンを入れたり、ペット向けの延長保証を付けたり、ペットユーザー向けの仕様にしています」

 つまり、モンスターは単にあらゆる性能を最大化した製品ではありません。犬猫と快適に暮らしたいという、極めて具体的な生活者の課題から生まれた製品なのです。

 マーケティングには「N=1」という考え方があります。不特定多数の平均的な要望を集めるのではなく、たった一人の切実な悩みを深く掘り下げることで、より普遍的な価値を見いだす手法です。

 今回の場合、その一人が山田社長自身だったというわけです。

 「メーカーに勤める楽しみって、自分が欲しいものを世の中に出せることだと思うんです。やっぱり誰のために、何を、どういう製品として作るのか。それを考えるのが我々マーケティングの仕事ですから」

製品展示スペースには「Roomba Monster」の文字が掲げられていました。型番だけでは伝えにくい最上級モデルの個性を、直感的な呼び名で示すことも日本市場ならではの戦略です。
製品展示スペースには「Roomba Monster」の文字が掲げられていました。型番だけでは伝えにくい最上級モデルの個性を、直感的な呼び名で示すことも日本市場ならではの戦略です。

日本だけの「モンスター」という名前に込められた戦略

 実は今回の取材で、もう一つ興味深い事実が判明しました。

 「モンスター」という名前は、日本市場独自のものだというのです。

 「ペット向けという名前も考えたんですけど、それだと限定されすぎてしまう。モンスターなら一番すごいものという意味で、もっと広く捉えてもらえる。だからモンスターでいこうと」

 筆者は、この判断に山田体制のマーケティング戦略が表れていると感じました。

 ロボット掃除機は数字やアルファベットを組み合わせた型番が多く、一般の生活者にとって製品ごとの違いが分かりにくいものです。だからこそ、小ささを追求した「mini」、徹底的な清掃性能を追求した「Monster」というように、製品の性格を名前で伝えることに意味があります。

小型モデル「Roomba mini」を手に説明する山田社長。「自宅には大きすぎる」という購入前の心理的な障壁を捉え、従来とは異なる単身者や若い世代にも選択肢を広げました。
小型モデル「Roomba mini」を手に説明する山田社長。「自宅には大きすぎる」という購入前の心理的な障壁を捉え、従来とは異なる単身者や若い世代にも選択肢を広げました。

小ささを武器にした「mini」が切り開いた新市場

 実際、今年投入した小型モデル「Roomba mini」は、日本市場で大きな成果を上げています。

 山田社長によれば、miniは発売後7か月にわたり、単品モデルとして平均約25%の市場シェアを獲得。従来のルンバでは取り込めなかった単身者や学生、シニア層にも購入者が広がったといいます。

 「アイロボットで10年仕事をしてきて、ロボット掃除機市場のブレイクスルーは何なのか、ずっと探求してきました。最後に行き着いたのが大きさだったんです。これがダメだったら、もうダメだなと思ったぐらいです」

 ルンバが欲しくても、自分の家には大きすぎる。その課題を解決したminiが成功し、今度は徹底した清掃性能を求める層にMonsterを投入する。両者は正反対の製品に見えますが、生活者の具体的な課題から出発するという意味では、同じ思想で作られています。

発表会後、実機を前に取材に応じる山田社長。家電量販店の売り場にも自ら立ち、顧客の声を製品企画へ戻すという姿勢からは、経営者でありながら現場に近い人物像がうかがえます。
発表会後、実機を前に取材に応じる山田社長。家電量販店の売り場にも自ら立ち、顧客の声を製品企画へ戻すという姿勢からは、経営者でありながら現場に近い人物像がうかがえます。

売り場に立ち、顧客の声を聞く社長のものづくり

 しかも山田社長は、新製品発売のたびに家電量販店の売り場に立ち、顧客の声を直接聞いているといいます。

 「自分たちの中ではストーリーができていても、お客さんからすると全然どうでもいいことって、いっぱいあるじゃないですか。だから年に何回か店頭に立って、お客さんと直接話すんです。そうすると、いろんなヒントがあるんですよ」

 さらに驚いたのは、ChatGPTを使って自らルンバのコンセプト案を作り、開発側へ提案することもあるという話です。

 社長室で数字だけを見るのではなく、売り場に立ち、自分で使い、自分で企画する。筆者には、山田社長が経営者であると同時に、自社製品に誰よりも惚れ込んだ優秀な営業マンのように映りました。

メインブラシ周辺を間近で確認したカット。ゴミをかき出す部分に工夫が施されており、掃除性能の向上に加えて、日常的な毛絡みのメンテナンス負担を軽くすることも狙っています。
メインブラシ周辺を間近で確認したカット。ゴミをかき出す部分に工夫が施されており、掃除性能の向上に加えて、日常的な毛絡みのメンテナンス負担を軽くすることも狙っています。

家庭のフィジカルAIは、人型ロボットである必要があるのか

 今回、筆者が山田社長にもう一つ聞きたかったのが、フィジカルAIの未来についてです。

 現在、AIが現実の物理空間を認識し、自律的に行動する「フィジカルAI」が注目されています。特に中国などでは人型ロボットの開発が活発ですが、筆者は必ずしも人型こそが家庭用ロボットの最適解だとは考えていません。

 むしろ掃除機や食洗機など、すでに家庭に存在する家電がそれぞれ高度なロボットへ進化し、連携していく方が現実的ではないでしょうか。

 この考えを山田社長にぶつけると、同氏も同様の未来像を描いていました。

 「おっしゃる通りだと思います。人型ロボットで会話できるようなものは出てくるでしょうけど、実際のタスクをこなすうえで、それが正解だとは思っていません。掃除機があったり、食洗機があったり、そういうものがもっとロボット化して連携していく。それが将来の姿だと思います」

本体側面にも搭載されたLiDAR。周囲の状況を把握し、避けるべき物と清掃すべき場所を判断する技術は、ロボット掃除機を身近なフィジカルAIとして考える手がかりになります。
本体側面にも搭載されたLiDAR。周囲の状況を把握し、避けるべき物と清掃すべき場所を判断する技術は、ロボット掃除機を身近なフィジカルAIとして考える手がかりになります。

300種類以上を認識。掃除に特化したフィジカルAI

 そもそもルンバは、家庭内で自律的に移動し、周囲を認識して掃除するロボットとして、20年以上前から実用化されています。

 今回のモンスターでは、LiDARとカメラを組み合わせ、300種類以上の対象物を認識。清掃すべき汚れと避けるべき障害物を判断しながら走行します。壁際ではモップを伸ばし、段差では車輪の動作を切り替えます。

 まさに、家庭で今すぐ体験できるフィジカルAIの一つといえるでしょう。

 ただし、山田社長が強調していたのは、ロボットに何でもやらせることではありませんでした。

 「よくルンバがしゃべってくれたらいいじゃないかと言われるんですけど、やっぱり一番の目的は掃除なんです。まず掃除をちゃんとできること。それが僕らの考えです」

AutoWash充電ステーションの機能をまとめた説明スライド。ゴミ収集だけでなく、モップの温水洗浄や温風乾燥、洗剤の自動投入まで担い、清掃後に人がする手間の削減を目指します。
AutoWash充電ステーションの機能をまとめた説明スライド。ゴミ収集だけでなく、モップの温水洗浄や温風乾燥、洗剤の自動投入まで担い、清掃後に人がする手間の削減を目指します。

多機能化よりも「掃除」を極める。その先にある未来

 筆者もこの方向性には大いに共感します。ロボットにできることが増えれば増えるほど、技術的には面白くなります。しかし、その機能が生活者にとって必要なのか、価格に見合う価値があるのかは別問題です。

 約25万円のモンスターは、決して誰にでも必要なロボット掃除機ではありません。ですが、ペットの毛やカーペットの掃除に悩み、できるだけ家事から解放されたい人にとっては、その価格にも明確な意味が生まれます。

 「僕が関わるのは、やっぱり明確なお客さんの課題を解決できる製品です。それが我々の使命なんじゃないかなと思います」

 技術が進化したから製品を作るのではなく、解決したい暮らしの課題があるから技術を進化させる。

 かつてロボット掃除機という新市場を切り開いたアイロボットが、再び成長への道を歩み始めています。その原動力は、意外にも最先端のAI技術だけではなく、一人の生活者の切実な悩みに耳を傾けるという、ものづくりの原点にあるのかもしれません。

製品概要

・製品名:Roomba Max 875 Combo ロボット+AutoWash 充電ステーション(ルンバ モンスター)
・発売日:2026年10月21日(水)
・価格:24万9800円(税込・アイロボット公式オンラインストア価格)
・カラー:ブラック
・主な機能:従来モデル比最大5倍の吸引力、SealForce、毛の絡まりを抑えるカッター内蔵ブラシ、約60℃の温水ミスト「ThermaMist」、加圧ローラーモップ、AI障害物認識、最大3.5cmの段差乗り越え
・充電ステーション:自動ゴミ収集、80℃の温水によるモップ洗浄、55℃の温風乾燥、洗剤自動投入

Gallery 【画像】愛犬のために生まれた“やりすぎルンバ”の画像を見る
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

VAGUEからのオススメ

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

前作超え感じさせる“ロケット級”の飛び実現へ! 新スリクソン「ZXi RKT」ドライバー4モデルの実力を試してみた【PR】

RECOMMEND