“泊まれるモデルハウス”で北海道暮らしを体験! 小樽「山郷」、165㎡の一棟貸しに海・サウナ・家具まで
165㎡の一棟で、一緒に過ごす時間と、それぞれの時間を分ける
「地 -SIR-」は、延床面積165.62㎡、3LDKの木造2階建てヴィラである。2階には石狩湾を望むリビングがあり、建物の横幅いっぱいにバルコニーが延びる。室内サウナと木製風呂、浴室から出られるテラスも備え、宿泊者だけで使える。

この棟の使い方を考えるうえで、注目したいのが2階リビングという配置だ。敷地を歩く人と同じ高さに生活の中心を置かず、海への眺めとプライバシーを両立させている。みんなで食卓を囲んだり、ソファでくつろいだりする場所を、外の往来から少し離せるつくりである。

内装は、木を全面に押し出した山小屋風とは趣が異なる。三五工務店が住宅でよく用いる無垢フローリングに代えて、この棟のリビングにはタイルを採用。天井には木(道南杉)を張り、異なる素材を組み合わせている。日常の住まいに近い間取りでありながら、普段とは違う空間で休日を過ごせる。

寝室は2室に加え、麻畳の部屋も用意され、バスルームは2つある。リビングには一緒に集まり、休むときや身支度の際には空間を分けることができる。一棟貸しの広さを、単に大きな部屋として使うのではなく、複数家族や友人同士の過ごしやすさにつなげている点がいい。
実際に山郷には、兄弟それぞれの家族や親子の家族、大学時代の友人同士などで泊まる利用もあるという。ホテルで部屋を別々に取る場合とは異なり、集まるためのリビングが自分たちの宿泊空間に含まれる。食後も同じ場所で過ごしたいグループに向いた構成だ。
サウナに入り、料理をつくる。過ごし方を自分たちで選べる
室内サウナから浴室、テラスへと移動できることも、「地 -SIR-」の特徴である。外気に触れて休む場所まで棟内の動線として用意されており、共用施設へ出かける必要がない。サウナを楽しむ人とリビングで休む人が、それぞれのペースで過ごせる。

キッチンにはIHコンロやオーブンレンジ、炊飯器、調理器具、食器類がそろい、パントリーも備える。洗濯機と乾燥機があるため、数日分の着替えを持ち込んで連泊する使い方にも対応する。設備の充実は、食事や洗濯のために外出する回数を減らし、宿での時間を長く取れる点で役立つ。
食事は自分たちでつくることも、敷地内の飲食店を利用することもできる。朝食は標準で付く形ではなく、事前に手配するオプションとして用意されている。地元のパンを使うセットや野菜寿司のセットなどだ。
すべての食事や過ごし方を宿に委ねるというより、どこまで自分たちで用意し、どこから店やサービスを使うかを選ぶ宿である。料理好きの仲間と食材を持ち込む旅にも、食事は外で済ませてリビングでゆっくりする旅にも合わせやすい。
工務店のモデルハウスを「泊まれる場所」にする
山郷が暮らしに近い設備を備える背景には、その成り立ちがある。三五工務店では、以前から保有していたこの土地にモデルハウスを建てる案があった。しかし、コロナ禍で人を集める見学会が難しくなり、宿泊できるモデルハウスという方向へと検討が進んだという。
そこには、社員自身が泊まって自社の建物を知る機会をつくる狙いもあった。若い社員を含め、誰もがすぐに自社で家を建てられるわけではない。社員の別荘、泊まれるモデルハウス、旅行者の宿という役割が、ひとつの場所に重なったのである。

見学するだけでは、夜にリビングで過ごす時間や、翌朝の身支度まで確かめることはできない。泊まることで、設備の数や意匠に加え、生活の中での使い勝手にも目が向く。住宅の設計施工を行う工務店の仕事を、一泊という時間をかけて知ることができるのが、この宿の面白さだ。
素材の選び方にも、同社の住宅づくりが反映されている。三五工務店は2014年に「全棟カラマツ宣言」を掲げ、木造住宅の構造材に北海道産カラマツを使う方針を打ち出してきた。食材と同じように建築でも地元の資源を使うという考えが、柱や梁など見えない部分にも及んでいる。
家具は、インテリアコーディネーターが各棟のコンセプトに合わせて選定。北海道の家具に限らず、敷地内のインテリアショップで扱うブランドも取り入れている。宿で使った家具について、店で詳しく聞ける接点があることは、旅の後の暮らしを考えるきっかけにもなる。

家具とアウトドア用品、地元の食。ヴィラの外にも訪れる理由がある
山郷を選ぶ際には、ヴィラだけでなく、敷地内の店も見ておきたい。商業棟「LARCH(ラーチ)」には、家具や雑貨を扱う「ten to ki」、アウトドアアパレルとクラフトビールの「Trail Side.」などが入る。宿泊者が買い物や食事を楽しめる一方、地域の人も利用できる場所である。

Trail Side.では、「Teton Bros.」や「ALTRA」などのアイテムを扱う。取材によれば、店主はもともと地域に暮らしており、山郷の開業を機に会社員から独立して出店した。アウトドア用品を購入できるだけでなく、この地域で暮らす人が営む店に立ち寄れることも、滞在の楽しみになる。
食では、ジンギスカンの「景勝園」がある。昭和から平成にかけて張碓峠の高台で営業していた店が、山郷で復活したものだ。以前のタレの味を引き継ぎ、生ラムなども提供。今回の滞在でも夕食に訪れ、食事とともに店主から施設について話を聞く機会があった。また、レストラン「Tronc(トロン)」も選択肢になるだろう。東京やフランスで経験を積んだシェフが、北海道の食材を使い尽くし、まだ知られていない可能性を「北海道料理」として発信している。土地の恵みと風土を感じられる一皿を味わえるだろう。
こうした店の構成は、商業棟を建ててから広くテナントを募るだけで生まれたものではない。三五工務店は店舗誘致にも自ら関わり、地域とのつながりや、その場所で続いていくことを重視してきたという。かつての店を受け継ぐ景勝園と、地域に暮らす人が新しく始めたTrail Side.には、その考え方が具体的に表れている。
敷地内のカフェ「HARUKA Coffee & Table」も、当初から同じ姿だったわけではない。取材によれば、もともとは景色を眺めながら休める東屋だったが、足を運ぶ理由を増やすため、カフェへと改めたという。建てて終わりにせず、使われ方を見ながら場所を変えていける点にも、ものづくりを担う工務店の特徴が見える。

山郷は、2023年7月に2棟が先行オープンし、2025年5月には新たなヴィラや商業棟を加えてグランドオープンした。宿泊者と近隣の人が一緒に正月の餅つきを楽しんだという話も聞こえてくる。宿泊する人と地域で暮らす人が、同じ敷地で時間を過ごす機会も生まれているのだ。
海を望む家で仲間と過ごし、サウナに入り、外へ出れば家具やアウトドア用品を見て、地元の食を楽しめる。山郷は、住まい、買い物、食事、外遊びを一緒に考えられる滞在先である。北海道にもう一つの家を持つなら、どんな場所で、どんな一日を過ごしたいか。そんなことを考えながら泊まるのも、このヴィラの楽しみ方だ。
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