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「バイオハザードに出てきそう」とバズったAQUAの冷蔵庫。実は“冷却器を底に移す”大改造で霜つきを抑えていた

「バイオハザードに出てきそう」SNSを騒がせた異色の冷蔵庫

 冷蔵庫のデザインが、これほどまでにSNSで話題になることがあったでしょうか。

 2026年10月、AQUAが発売した新型冷凍冷蔵庫「KURA」シリーズの特別エディション「BRONZE GOLD(ブロンズゴールド)」が、Xで大きな注目を集めました。

 金属が長い年月を経て酸化したような、複雑な色合いを持つその外観。新品の冷蔵庫とは思えない風貌に、「バイオハザードに出てきそう」「サイレントヒルの世界観にぴったり」といった声が上がり、ゲームファンを中心に話題が広がったのです。

 実際に目の前で見てみると、その異様な存在感には思わず足を止めてしまいます。青銅が酸化したような青緑色と、赤褐色や金色が複雑に混ざり合い、光の当たり方によって表情まで変わる。家電量販店に並ぶ一般的な冷蔵庫とは、明らかに異なる佇まいです。

会場に並んだKURAシリーズ。右がブロンズゴールドの特別エディションで、通常モデルと並ぶと外観の個性が際立つ。話題になった表面の表現だけでなく、その内側にある冷却や収納の技術まで掘り下げたくなる並びだ。
会場に並んだKURAシリーズ。右がブロンズゴールドの特別エディションで、通常モデルと並ぶと外観の個性が際立つ。話題になった表面の表現だけでなく、その内側にある冷却や収納の技術まで掘り下げたくなる並びだ。

ホラーゲームではなく「わびさび」だったデザインの原点

 ところが、開発者が目指したのは、ホラーゲームでも廃墟でもありませんでした。

 その着想源は、日本の「わびさび」。時間の経過によって生まれる変化を、単なる劣化ではなく、美しさとして捉える日本独特の美意識だったのです。

 AQUAの製品説明会で、商品企画担当者は、このデザインに込めた思想を説明してくれました。

 冷蔵庫は、食品を冷やすことで鮮度を保ち、時間による変化を遅らせるための家電です。一方、その外観には、時間が積み重なることで生まれる美しさを表現する。

 つまり、内部では時間の進行を遅らせながら、外側では時間の経過を肯定する。その対比こそが、特別エディションのデザインコンセプトなのです。

 もっとも、これだけ大胆なデザインですから、開発段階では社内でも賛否両論があったそうです。試作を何度も繰り返しながら、最終的に商品化へとこぎ着けました。

 ここまでなら、個性的なデザインを採用したメーカーの挑戦という話で終わるでしょう。しかし、今回の取材で私が本当に驚いたのは、むしろその先にありました。

ブロンズゴールドの表面を接写。青緑や褐色、金色が重なり、ひび割れを思わせる模様まで見える。実際に古びた金属ではなく、時間の蓄積を思わせる表情を加飾によってつくり、日本の「わびさび」を外装に映している。
ブロンズゴールドの表面を接写。青緑や褐色、金色が重なり、ひび割れを思わせる模様まで見える。実際に古びた金属ではなく、時間の蓄積を思わせる表情を加飾によってつくり、日本の「わびさび」を外装に映している。

古びた金属の風合いを生む「DVM鋼板技術」の正体

 この独特な外観を実現しているのが、「DVM(Digital Visual Metal)」と呼ばれる新しい鋼板加飾技術です。

 従来、冷蔵庫の外装は単色の塗装や比較的シンプルな加飾が中心でした。複雑な柄を施そうとすれば、大量の鋼板をまとめて加工し、必要な大きさに切り出す必要があります。当然、材料のロスも生じ、少量生産ではコストが合いにくくなります。

 これに対してDVMは、デジタルインクジェット方式によって鋼板に高精細な意匠を施す技術。多色の印刷に加え、光沢のある部分とマットな部分を混在させ、微細な凹凸感まで表現できます。

 いわば、金属の表面をキャンバスにして、複雑な色彩や質感を描き出すような技術です。

 しかも、これは単に美しい模様を印刷すれば完成するわけではありません。

 冷蔵庫は長期間使用される耐久消費財です。日々の開閉や清掃に耐え、温度変化などによって塗装が割れたり、変色したりしては困ります。開発担当者によれば、通常の冷蔵庫用鋼板と同様の耐久性を確保しながら、特殊な加飾を成立させる点にも難しさがあったといいます。

特別エディションの扉下部。経年変化を思わせる複雑な意匠に、青く光る部分と直線的な扉の構成が重なる。外装の表現を広げる技術と、見えない内部を進化させる技術。その両方が一台に収まったKURAの表情だ。
特別エディションの扉下部。経年変化を思わせる複雑な意匠に、青く光る部分と直線的な扉の構成が重なる。外装の表現を広げる技術と、見えない内部を進化させる技術。その両方が一台に収まったKURAの表情だ。

美しさだけではない、多品種・小ロット生産への挑戦

 そして、この技術の本当の可能性は、外観の自由度だけではありません。

 デジタル印刷とハイアールグループの調達・生産能力を組み合わせることで、従来は大量生産を前提としていた冷蔵庫の外装を、数百台から数千台といった小ロットで展開できる可能性が生まれたのです。

 説明会で担当者が語った将来の理想は、さらに大胆でした。

 究極的には、一人の顧客の要望に合わせた一台の冷蔵庫を届けたいというのです。

多色・高精細な意匠に、光沢/マットや微細な凹凸の表現を組み合わせるDVM鋼板技術。印刷版を使わない方式として紹介され、小ロットへの対応が、冷蔵庫の外観を選ぶ楽しさを広げる可能性につながる。
多色・高精細な意匠に、光沢/マットや微細な凹凸の表現を組み合わせるDVM鋼板技術。印刷版を使わない方式として紹介され、小ロットへの対応が、冷蔵庫の外観を選ぶ楽しさを広げる可能性につながる。

究極は「一人のために一台」。冷蔵庫が変わる未来

 もちろん、現時点で一台単位のフルオーダーを受け付けているわけではありません。それでも、建築家が設計する住宅の内装に合わせたカラーや、インテリアブランドとのコラボレーション、ホテルの空間に合わせた特別仕様など、これまで量産家電では難しかった展開が視野に入ってきます。

 筆者はインテリアスタイリストとともに、家電とインテリアの関係を考える活動も行っていますが、これは非常に興味深い話です。

 これまで冷蔵庫は、用意された数色の中から部屋に合うものを選ぶ存在でした。しかし、DVMが目指す世界では、部屋に合わせて冷蔵庫そのものの表情を変えられるかもしれない。

 SNSでバズった奇抜な冷蔵庫は、実はそんな新しい家電ビジネスの可能性を示す、最初の一台だったのです。

外装だけではなかった。冷却器を底に移す大胆な発想

 しかし、KURAの挑戦は外装だけにとどまりません。

 むしろ家電スペシャリストとして注目したいのは、外からは見えない冷蔵庫内部の構造です。

 新たに採用されたのが、業界初をうたう「ボトムクーリングシステム」。その名の通り、従来は冷凍室の背面に配置されていた冷却器を、底面側へ移動させるという大胆な発想です。

 一般的なファン式冷蔵庫では、冷却器でつくった冷気を庫内へ送り込み、食品を冷やします。しかし、乾燥した冷気が食品に直接当たると、水分が失われ、霜つきや冷凍焼けにつながることがあります。

 そこでAQUAが採用したのは、底面側の冷却器でつくった冷気を利用し、食品に冷風を直接当てずに間接的に冷やす仕組みです。

 これによって、冷凍室の一部分だけでなく、冷凍室全体で食品の乾燥や霜つきを抑えることを目指しました。AQUAはこれを「底冷え保湿冷凍」と呼んでいます。

冷凍室を横から見た断面モデル。引き出しの下に「冷凍用エバ(底エバ)」が配置されている。冷却器を背面から底面へ移し、食品に冷風を直接当てにくくする設計は、保存品質と収納スペースの両方を見直す挑戦だ。
冷凍室を横から見た断面モデル。引き出しの下に「冷凍用エバ(底エバ)」が配置されている。冷却器を背面から底面へ移し、食品に冷風を直接当てにくくする設計は、保存品質と収納スペースの両方を見直す挑戦だ。

1か月冷凍したホタテとパンに見えた保存技術の実力

 説明会では、実際に約1か月間冷凍保存した食材を使った比較実演も行われました。

 なかでも印象的だったのがホタテです。従来方式で冷凍したものと、KURAで保存したものを並べると、表面の霜の状態や見た目に違いがありました。解凍後には匂いも比較しましたが、単に冷やすだけでなく、保存中の乾燥をいかに抑えるかが重要なのだと実感できます。

 食パンの試食も行われ、約1か月冷凍したパンをトーストして食感を確かめることができました。もちろん、食品の状態は保存条件や包装方法によっても変わりますが、冷凍技術の違いを身近な食品で確かめられた点は興味深い体験でした。

約1か月冷凍保存した肉やホタテを並べたメーカーの比較実演。左が従来機種、右がKURAのUX51Bで、表面の霜の状態を見比べられる。メーカーが設定した条件での結果であり、食品や包装によって状態は変わる。
約1か月冷凍保存した肉やホタテを並べたメーカーの比較実演。左が従来機種、右がKURAのUX51Bで、表面の霜の状態を見比べられる。メーカーが設定した条件での結果であり、食品や包装によって状態は変わる。

背面の空間を取り戻す、508L・幅65cmの構造改革

 さらに、この構造変更にはもう一つ、大きなメリットがあります。

 冷却器を底面に移したことで、これまで冷凍室の背面に必要だったスペースを収納に使えるようになったのです。

 加えて、本体の断熱構造も徹底的に見直しました。従来モデルと比べて壁の厚さを約20%薄くし、左右の寸法を合わせて約5cm削減。結果として、幅65cm、奥行65cmという日本の住宅に設置しやすい寸法ながら、508Lの大容量を実現しています。

 冷却器の位置を変える。それだけのことに思えるかもしれませんが、実際には冷却性能、断熱、省エネ、収納効率、使い勝手のすべてに関わる大規模な設計変更です。

冷蔵室側の断面モデルでは、側壁に配置された高性能断熱材とウレタンが見える。外形を大きくせず収納量を増やすには、冷却器だけでなく壁の構造も重要になる。幅・奥行65cmで508Lを目指した設計の一端だ。
冷蔵室側の断面モデルでは、側壁に配置された高性能断熱材とウレタンが見える。外形を大きくせず収納量を増やすには、冷却器だけでなく壁の構造も重要になる。幅・奥行65cmで508Lを目指した設計の一端だ。

日本の住まいを見つめた、熊谷R&Dでの技術開発

 しかも、この技術開発の舞台となったのは、埼玉県熊谷市にあるAQUAのR&Dセンターでした。

 商品企画担当者によれば、開発の出発点には、中国の冷蔵庫事業トップによる日本の家庭訪問があったといいます。

 マンションや戸建住宅を実際に訪れ、日本のキッチンに求められる寸法や収納の使い勝手を確認。その結果を踏まえて、今回の商品企画が進められました。

 技術担当者への個別取材では、さらに興味深い話も聞けました。

 底面側に冷却器を置く技術自体は、ハイアールグループが中国向けの上位モデルなどで培ってきたもの。しかし、そのまま日本市場に投入するには、本体サイズや省エネ性能などの課題がありました。

 そこで熊谷のR&Dが、日本の住宅事情に適したコンパクトな構造へと再設計したのです。

 世界規模のグループが持つ技術資産と、日本の生活環境を熟知した開発拠点。この両者を組み合わせることで、日本専用ともいえる新しい冷蔵庫が生まれたわけです。

 ここには、グローバル家電メーカーの日本市場攻略を考えるうえでも、重要な示唆があります。

 世界で売れている製品を、そのまま日本へ持ち込むだけでは十分ではありません。一方、日本だけですべてを開発しようとすれば、技術投資や生産コストの負担が大きくなる。

 グローバルな技術を、日本の暮らしに合わせて再構成する。その役割を熊谷R&Dが担っていることに、AQUAの強みがあるのではないでしょうか。

冷却構造や容積効率を解説する製品説明会の一場面。熊谷R&Dでは、グループが持つ技術を日本の住宅事情に合わせて再設計したという。寸法、断熱、保存性能を同時に考える仕事が、新しい内部構造を支えている。
冷却構造や容積効率を解説する製品説明会の一場面。熊谷R&Dでは、グループが持つ技術を日本の住宅事情に合わせて再設計したという。寸法、断熱、保存性能を同時に考える仕事が、新しい内部構造を支えている。

デザインも冷凍も「当たり前」を変える挑戦だった

 そして興味深いことに、この開発思想は、冒頭で紹介した特別エディションの加飾技術とも通じています。

 外装では、誰もが同じ色やデザインから選ぶという量産家電の制約を変えようとしている。内部では、冷却器の配置や断熱構造を見直し、限られた空間でより多くの食品を、より良い状態で保存できるようにしている。

 表面的にはまったく異なる技術ですが、どちらも従来の当たり前を疑い、新しい価値を生み出そうとする挑戦なのです。

 起業家として見れば、DVMによる小ロット加飾は、将来的に新しい顧客や販売チャネルを生み出す可能性があります。そして家電スペシャリストとして見れば、ボトムクーリングと薄壁化の組み合わせは、冷蔵庫の基本性能を左右する設計そのものの進化です。

 もちろん、SNSでの話題性がそのまま販売実績につながるとは限りませんし、一台単位のカスタマイズもまだ将来の構想にすぎません。

 それでも、今回のKURAには、デザインを入り口に家電へ関心を持ってもらい、その奥にある技術の価値まで伝えられる力があります。

 「バイオハザードに出てきそう」と話題になった冷蔵庫。その外観に目を奪われていたら、実は見えないところにこそ、技術者たちの本当の挑戦が隠されていました。

 今回の取材を通して感じたのは、家電の進化は、必ずしも最新機能を一つ増やすことではないということです。

 これまで変えられないと思われていた構造や製造方法を見直し、新しい選択肢を生み出すこと。そんなものづくりの姿勢こそが、これからの家電の価値を変えていくのではないでしょうか。

扉を開けた冷蔵室。棚やドアポケット、下部のチルドルームなど、日々の出し入れを受け持つ部分が一望できる。強い個性を持つ外観に目が向きがちだが、暮らしの道具としての価値は、こうした庫内の使い勝手にも宿る。
扉を開けた冷蔵室。棚やドアポケット、下部のチルドルームなど、日々の出し入れを受け持つ部分が一望できる。強い個性を持つ外観に目が向きがちだが、暮らしの道具としての価値は、こうした庫内の使い勝手にも宿る。

製品概要

「AQUA KURA(クラ)シリーズ 特別エディション」
型番:AQR-DUX51B
発売日:2026年10月15日
価格:オープン価格(想定実売価格:43万7800円前後・税込)
カラー:ブロンズゴールド(ZT)
定格内容積:508L
冷蔵室:253L(うちチルドルーム18L)
野菜室:112L
冷凍室:143L(アイスルーム21L、上段25L、下段97Lの合計)
サイズ:幅650×奥行650×高さ1850mm(奥行はキックプレート除く)
据付必要奥行寸法:659mm
質量:117kg
年間消費電力量:267kWh/年(50/60Hz)
主な機能:ボトムクーリングシステム、底冷え保湿冷凍、DVM鋼板加飾

Gallery 【画像】“バイオハザード風”外装と、冷却器を底に移した内部構造を見る
滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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