「最量販モデルを壊せ!」なぜ豊田章男社長は“攻めること”を指示した? レクサス「RX」開発の舞台裏
最量販モデルのRXでも「守るな、壊せ」
先ごろレクサスは、新型「RX」を初披露しました。発売スタートは2022年秋の予定です。
しかし、そんな晴れやかな舞台に立ったチーフエンジニア・大野貴明さんの表情はやや硬く、緊張しているのがこちらにも伝わってきました。

新型RXの企画初期段階において、クルマの方向性を説明しにいった大野さんは、レクサスのマスタードライバーでもある豊田章男社長から次のように声をかけられたといいます。
「RXはレクサスのグローバル・コアモデルだから、開発は大変だよね。けれど守りに入らず、RXを壊して欲しいんだ」
RXはレクサスの最量販モデル。屋台骨を支える重要な車種だけに失敗は許されません。しかし豊田社長はあえて「守りに入るな」とクギをさしたのです。
「その言葉にハッと気づかされました。やはり同じところにとどまっていてはダメだ、一段も二段も上へいかなければ、と。その結果、“変革に挑戦する”という新型RXの商品企画の軸が出来上がりました」(大野さん)
●テクニカルセンター下山での“走りの味みがき活動”
こうして素性のいいクルマづくり、レクサスならではの対話ができる、走って楽しいクルマづくりを推進することになった新型RX。そのベースとなっているのが、レクサスの開発陣が地道に続けている“走りの味みがき活動”です。
かつてアメリカのメディアは、レクサスを「よくできているが、退屈なクルマだ」と評価しました。それを受けた豊田社長は「レクサスは、見ても乗ってもエモーショナルな存在へと変わらなければ」と一念発起。2017年に発売がスタートした「LC」以降の各モデルは、テクノロジーや走りのチューニングなどが格段にレベルアップし、レクサスならではの走り味をアピールできるまでになりました。
そうしたなかでスタートしていたのが、走りの味みがき活動です。すべてのレクサス車のチーフエンジニアや評価ドライバー、デザイナーたちが、開発拠点である新しいテストコース・テクニカルセンター下山に集結。この“下山合宿”で開発中のモデルを乗り比べながら、課題をクリアするとともに、レクサスの味とはなにかを横串で共有していくという手弁当の活動です。

この1年、レクサスは「NX」、「LX」、「RZ」、そして新型RXと、立て続けに4台ものSUVを発表してきました。そのすべてが“下山合宿”を通じて誕生したモデル。いずれも、レクサスらしい味とはなにか? を地道な活動を通じて追い求めることで具現した賜物です。
●マスタードライバーからのダメ出しに“下山合宿”から逆襲
こうして、開発が順調に進んできたかに思えた新型RXですが、実は2021年の秋、大野さんは新たな壁に突き当たります。豊田社長からダメ出しをされてしまったのです。
その日、テクニカルセンター下山では、開発中のモデルに対し、豊田社長がマスタードライバーとして評価を下すことになっていました。しかし、RXプロトタイプのステアリングを握ってコースインした豊田社長は、わずか1周で戻ってきたのです。
通常なら、まず2周ほどステアリングを握った後、確認ポイントなどをスタッフに指示したり、再度、乗り込んでドライブを続けたりするそうですが、わずか1周でクルマを降りたのです。その行動は「もうこれ以上、ドライブする気がしない、評価するレベルにない」というマスタードライバーとしての評価でした。
とはいえ、プロトタイプから降りてきた豊田社長も、はじめは自問自答を繰り返したといいます。「もしかしてRXって、走りを期待するクルマではないのかな? ラグジュアリーSUVのパイオニアとして、おだやかさとか風格とかを求めるべきなのかな?」と。
そういって、いったんその場を離れる豊田社長ですが、すぐに戻ってきてレクサスとしての決意を新たにしたといいます。「やはりRXも、他のレクサス車と同じように対話ができるクルマ、ドライバーが一体感を味わえるクルマにしなければダメだ。RXでもそれは絶対に変えてはいけない。頼んだぞ」と。
それを受けた大野さんたちは、“下山合宿”を繰り返したといいます。その結果、電気自動車のRZ向けに開発されたものとは異なる、ハイブリッド用の4輪駆動システム“DIRECT4”や、新たなトランスミッションを組み合わせた“走りのいい”ハイブリッドメカなどをさらに磨き込み、新型RXの走りを最新のレクサス基準に見合うレベルにまでブラッシュアップさせたのです。
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みずからドライバーとしてレースやラリーにチャレンジし、いまではプロのレーシングドライバーと同レベルのタイムをマークするまでに至った豊田社長。ドライバーとしてのスキルがアップするにつれ、マスタードライバーとしてのレクサス車への期待値も、より高くなっているといいます。
新型RXの発売がスタートするのは、2022年秋ごろの予定。チーフエンジニア大野さんの“変革への挑戦”は、まだまだつづきそうです。
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