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トヨタ「AE86」を水素エンジン化“名機4A-G”の美点をカーボンニュートラルで楽しめる「水素ハチロク」の可能性とは

ボディサイドの文字がなければ水素エンジン車と気づかない

 ドアに「水素エンジン(実験用)」とあえて記された白/黒ツートーンカラーの3ドア・トレノのエンジンルームに積まれた“4A-GEU”型ユニットは、燃料系が水素インジェクターに変更され、その配管が車両後方に引き回されている以外は、ノーマルとさほど違いはない。

「東京オートサロン2023」のGRブースを飾ったAE86型「スプリンター トレノ」は水素エンジン搭載車。名機“4A-G”型をポート噴射のままで水素エンジン化した
「東京オートサロン2023」のGRブースを飾ったAE86型「スプリンター トレノ」は水素エンジン搭載車。名機“4A-G”型をポート噴射のままで水素エンジン化した

 驚くべきは、スーパー耐久用の“水素カローラ”が積む“G16-GTS”型ユニットの直噴ではなく、ポート噴射のままで水素エンジン化されていること。「できる限りノーマルから変えない」というねらいから、とのことだが、これは間違いなく新たな挑戦である。

 高圧水素タンクはラゲッジスペース後方に積まれている。容量は約2kgだから、「MIRAI」の約3分の1となるが、一方で車両重量はノーマル比55kg増となるもギリギリ1トンを切る995kgと、その約半分に過ぎないから、航続距離はそこまで悲観しなくていいはずだ。

 ノーマルとの違いは、ほぼこれくらい。車体も、その辺のクルマ好きが乗っていそうなライトチューン仕様といった趣であり、ごく自然な仕上がりで、ボディサイドの文字がなかったら水素エンジン車だと分かる人はいないだろう。

 いや、本当はクルマに近づいてよく見ると、バックドアウインドウに貼られた本来は「無鉛」と書かれているべきフューエルコーションステッカーが「水素」になっているので、それで気づく人が居るかも(?)。水素充填口も、本来の給油口の位置にきれいに収められている。

●現状はベース車の約半分というパワーを稼ぐ手段とは

 水素エンジンを搭載するAE86は、テストでもなんの問題も感じさせることなくスムーズにエンジンを始動させ、そして普通に走り出した。エンジン音も高らかにコースを周回するが、正直なところペースはあまり速くはない。

 現状のパワーは「だいたいベース車の半分くらい」と、水素カローラも手がけているGR車両開発部長の高橋智也氏が教えてくれた。ハチロクの4A-GEUはグロスで最高出力130psだから、ネットでおよそ100ps辺りといわれる。その半分ということは約50ps。どおりで速くはないわけだ。

 パワーが出ていないのは、前述のとおり、ポート噴射ということでノウハウがなく、マージンを大きく取っているのが主因。水素は燃焼速度が速いという利点がある一方で、予期せぬところで自己着火(=プレイグニッション)しやすいのが難点。ポート内でプレイグニッションが起きてしまうと厄介なので、かなりマージンを持って水素を吹いているためパワーが出せていないのである。

 ただし、それは水素エンジンの限界ではなく、よちよち歩きのスタート地点だから、というだけの話。今後の開発の余地は大きい。それこそスーパー耐久用の水素カローラは、いまやガソリン車と同等のパワーを出せているのだから。

 ちなみに、高橋氏と、テスト車のステアリングを握った水素カローラでもお馴染みの佐々木雅弘選手は「(“AE92”や“AE101”に搭載されていたスーパーチャージャーつきの)“4A-GZEU”型エンジンを積むのも手かもしれない」とも話しているという。

 なるほど、過給器つきならば混合気をどんどんシリンダー内に押し込めるから、ポート内でのプレイグニッションを回避しやすそう。もちろん、パワーだって容易に出しやすい。チューニング業界を見れば、ハチロクに4A-GZEUだって違和感のある組み合わせではないだけに、これはベターな解決策となりそうだ。

* * *

 ハチロクの水素エンジン化への道はまだまだ課題が山積だが、それは可能性が大きいということでもある。なんといっても“4A-G”エンジンの美点である鼓動、吹け上がり、サウンドを、ほぼカーボンニュートラルで楽しめるとなれば、それだけで夢のような話だ。この先にも期待するしかないだろう。

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