ワケありのランチア「ストラトス」レプリカ絶賛発売中 ヤマハ由来のエンジンが搭載されている理由とは?
数多く存在する「ストラトス」のレプリカやキットカー
今回フォーカスするのは、かつてイタリアのランチアが世に送り出した名マシンのレプリカモデルです。
モチーフとなったのは、WRC(世界ラリー選手権)で勝利することを目的に開発されたホモロゲーションモデル「ストラトスHF(以下、ストラトス)」。漫画『サーキットの狼』で主人公の風吹裕矢がドライブしたマシンとして覚えている昭和世代の方も多いことでしょう。
ランチアは伝統的に、各モデルのデザインをカロッツェリアであるピニンファリーナに委託していました。そんな状況を打開すべく、ランチアに“営業”をかけたのがベルトーネ。ベルトーネは、ランチアが老朽化した「フルビア」の後継マシンとして、ラリー参戦用のベースモデルを欲しがっていることを把握していたのです。
そこでベルトーネは、友人が所有していた「フルビア クーペ」のハードウェアを使い、注目度抜群の「ストラトス・ゼロ」を製作。このコンセプトカー、乗り降りするにはフロントウインドウを開閉しなければなりませんでしたから、あまりにも非現実的なモデルでした。
しかしこの“ハリボテ”が、ランチアへの営業ツールとして絶大な効果を発揮しました。ランチアの工場にあるゲートをくぐると、ランチアの従業員たちから大きな拍手がわき起こった、なんて逸話が残っているほどです。
その後、ランチアとベルトーネは、ベルトーネでデザイナーを務めていたマルチェロ・ガンディーニのアイデアを元に、新たなラリーマシンとしてストラトスを開発することで合意しました。
ストラトスの市販モデルは、1974年に生産がスタートし、翌1975年には生産を終了しました。しかしその後、多くのレプリカやキットカーが誕生しています。
今回の1台も、本物ではなくレプリカです。しかし、単なるレプリカではありません。実は“ワケあり”のモデルなのです。
●本物をも凌駕しそうな装備を持つレーシングカー
ここに紹介するレプリカは、ヒルクライムやスプリントレース、サーキット走行などを楽しむためにつくられた1台。しかし、あくまで公道登録車であり、ヨーロッパでは公道を走れる仕様です。
シャシーとボディは、イギリスに本社を置くホークカーズ社の「HF」というモデル名で製造されたもの。同社が展開するキットカーには、2~3リッターのさまざまなエンジンが用意されていました。それこそ、本物のストラトスの心臓部と同じ、フェラーリ「ディーノ」の2.4リッターV6エンジンの設定もあったようです。
しかし、筆者が当該車両に注目した理由は、フランスのラリー選手権で活躍していた「リベットミニ」と同じエンジンを搭載していることでした。
このエンジンを手がけたサイクロンパワー社(現在は倒産?)は、独自のエンジンブロックを開発。そこに、ヤマハの1リッター4気筒DOHCエンジンのヘッドを2基組み合わせ、2リッターのV8エンジンに仕立てています。
1気筒にひとつのキャブレターを備え、最高出力は1万回転で302psを発生。YouTubeには、そのエンジンを積んだリベットミニがグッドウッドを走っている動画がアップロードされています。その“雄叫び”のような排気音は、誰もが驚くことでしょう。
トランスミッションには、ヒューランド製の“JFR-200”という6速シーケンシャルタイプがおごられています。加えて、APレーシング製の焼結クラッチ(同心円状のスレーブシリンダーつき)、カーボンケブラー製ボディパネル、オーリンズ製のショックアブソーバー、4ポットブレーキキャリパーと2ピースのブレーキローター、ギアポジション表示つきインストルメントクラスター……と、そのままレースに出られそうな雰囲気です。
当該車両はメンテナンスを惜しみなく施した個体とうたわれているだけあって、写真からも金に糸目をつけずに維持されてきたことが伝わってきます。販売価格は「お問合せ」とありますが、単なるレプリカを購入するような予算では収まりそうにありません。
そもそも、レーシングカーとして仕上げられてモデルですし、本物のストラトスをも凌駕するパフォーマンスを秘めていそうな雰囲気が漂っています。なお、“本物”のストラトスの中古取引価格は程度によって上下するものの、日本円で平均6000万円前後といわれています。