マツダ初代「ロードスター」に息づく“最新モデルにはない個性”とは? スポーティに走らせるには“技量と情熱と工夫”が必要!?【今こそ乗っておきたい名車たち】
“はかなさ”を感じさせるライトウェイトスポーツの金字塔
新車では味わえない中古車ならではの魅力……ビンテージスポーツカーには、メカニズムの進化と引き換えに失われたクルマ本来の魅力や濃密な味わいといったものが息づいています。今回はそんな珠玉の中古車の中から、ライトウェイトスポーツカー界における“世界的金字塔”であるマツダの初代「ロードスター」にフォーカスします。

仮に私(伊達軍曹)が油田を20くらい所有している世界有数の金持ちだったとしましょう。そんな私があるとき「明日は釣りがしてみたいな……」などとつぶやいたなら、執事は即座に、堅牢な釣り船と優秀な船長を手配してくれることでしょう。
そして、優秀な船長がすべての釣具を完璧にセットアップした上で私を最高のポイントまで連れていき、「さあどうぞ、釣り糸をお垂らしください!」といってくれるでしょう。
その結果、その日の私は当然ながら“爆釣”となるはずです。
そんな釣りも、おそらく一度や二度であれば大いに楽しめると思いますが、三度目以降はたぶん無理。なぜなら、人間は「他人がすべてお膳立てしてくれたもの」に対して、心からの歓びを得られるようにはできていないからです。
どんなコトやモノであれ、真の達成感を得るには“立ちはだかる壁を自力で乗り越えたエピソード”が必要であり、真の歓びは“はかなさ=全く同じことはこの世において二度と起こらず、すべての事象はうつろいゆくこと”を通じてしか、感じることはできないからです。
人生における“歓び”という感覚をそのようにとらえたとき、われわれが今、選ぶべきスポーツカーのひとつは、間違いなくマツダの初代「ロードスター」となるはずです。
「ユーノス ロードスター」ことマツダの初代「ロードスター」、について、今さら詳しい説明は必要ないでしょう。1989年から1998年まで製造・販売されたマツダの軽量オープン2シーターで、ライトウェイトスポーツにおける“世界的金字塔”です。
ボディサイズは全長3970mm、全幅1675mm、全高1235mmという可憐なもので、誕生当初のエンジンは、最高出力120psの1.6リッター直列4気筒自然吸気。1993年5月以降は、130psの1.8リッターユニットに変更されています。
2代目以降の「ロードスター」は、“ボディ剛性の強化”や“排気量アップとパワー増強”など、微妙にマッチョ志向の路線を歩んだわけですが、2015年5月に登場した現行型となる4代目は、初代と同様のライトウェイト路線に回帰しています。
ボディサイズと車両重量は初代に近い水準となり、排気量は3代目の2リッターから1.5リッターにダウンサイズ。それに伴い最高出力も、初代の後期型=1.8リッター世代に近い132psに抑えられています。
そのため現行型「ロードスター」は、決して速くはないという“壁”があるゆえ、心からの達成感を得ることができる素晴らしいスポーツカーになりました。けれど、それでもまだ、初代と比べれば足りない部分はあります。
現行型「ロードスター」に足りないもの。それは“はかなさ”です。
もちろん現行「ロードスター」も、他のマッチョなスポーツカーと比べれば十分以上に“はかなさ”を味わえるクルマではあります。それゆえ大いに推奨したい1台ではあるのですが、初代と比べればやはり“現代のクルマ”ではあることは間違いないため、どこかに微妙な“お膳立て感”があります。
現行型の、決してマッチョではないものの十分なボディ剛性を感じるとき、私はお膳立てしてくれた“船長”の気配をかすかに感じるのです。決して電子機器が満載されているわけではありませんが、それなりに現代的な機器が並ぶコックピットに腰を下ろすとき、私は“執事”の心遣いを感じてしまいます。
それらはもちろん非難されるべきものではなく、むしろありがたい、素晴らしいものです。でも、自分が今求めているものが、それらではなく「己の力で壁を乗り越えること」や「はかなさを通じて、もののあはれを知ること」であったなら、それらの要素は――若干ではあるものの――邪魔になってしまうのです。
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