日本のロボットは“掃除”から世界へ出られるのか? アイリスオーヤマ初の完全内製DX清掃ロボット「JILBY」が突きつける現実
“ロボットが国家戦略になる時代”に、アイリスオーヤマが出した答え
アイリスオーヤマが、法人向けDX清掃ロボット「JILBY(ジルビー)」を発表した。
特徴は、同社として初めてソフトウェアとハードウェアを完全内製した法人向け清掃ロボットであることだ。ソフトウェアはグループ会社のシンクロボが開発し、ハードウェアは自社工場で製造する。
企画、開発、製造、販売、アフターサービスまでを一気通貫で担う。アイリスオーヤマはこれを、単なる新製品ではなく、ロボティクス事業における「ベンダーからメーカーベンダーへ」の転換点として位置づけている。
JILBYは、床面の集塵清掃を自動で行う業務用ロボットだ。約470×534×722mmの本体に、10インチの大型モニター、LiDARセンサー、3Dカメラ、超音波センサー、段差センサー、センサー搭載バンパーなどを備える。
清掃能力は約500平方メートル/時。ノーマル、パワー、静音の3モードを搭載し、清掃終了後は自動で充電ステーションに戻る。バッテリーは着脱式で、交換すれば充電時間を待たずに連続運用もできる。

スペックだけを見れば、そこまで驚くものではない。業務用清掃ロボットとして必要な機能を、かなり丁寧に盛り込んだ製品という印象だ。だが、今回の発表会で本当に興味深かったのは、JILBYそのものよりも、アイリスオーヤマがロボット事業をどう捉えているかだった。
発表会で示された大きな背景は、労働力不足である。日本の労働人口は今後も減少し、2050年には2024年比で約25%減るとされる。
政府もAIロボットを国家戦略のひとつに位置づけ、フィジカルAIを含むAIロボット分野で2040年に世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目指す方針を掲げている。

つまり、ロボットはもはや一部の先端企業だけの研究テーマではない。国の産業競争力そのものに関わるテーマになりつつある。
その流れの中で、アイリスオーヤマはJILBYを発表した。では、これが日本のロボット産業の勝ち筋になるのか。ここは、少し冷静に見たほうがいい。
中国はヒューマノイドを量産し、米国は“家族のようなロボット”へ進んでいる
いま世界のロボット競争は、明らかに次のフェーズへ進んでいる。
中国では、UnitreeやAgiBot、UBTECHなどを中心に、ヒューマノイドロボットの量産と投資が急速に進んでいる。EV、自動化工場、バッテリー、AI、センサー、サプライチェーンを持つ中国企業群が、フィジカルAIへ一気に雪崩れ込んでいる。
BYDのような巨大EVメーカーまで、ヒューマノイドロボットをショールームやサービス業、さらには家庭領域へ広げようとしている。

米国もまた、別の方向からロボットの意味を変えようとしている。iRobotの共同創業者であり、ルンバの生みの親として知られるコリン・アングル氏は、新たなスタートアップFamiliar Machines & Magicで、掃除のような単一タスクではなく、人と感情的な関係を結ぶ家庭内ロボットを目指している。
ロボットは床を掃除する機械から、生活の中にいる存在、時には家族に近い存在へと変わろうとしている。
そう考えると、日本で「清掃ロボット」や「警備ロボット」が最先端として語られることには、正直な違和感もある。

中国がヒューマノイドを量産し、米国が人間とロボットの関係性そのものを問い直しているなかで、日本はまだ「床を掃除する」「施設を巡回する」という限定タスクにとどまっているようにも見えるからだ。
フィジカルAIの本丸を、汎用ヒューマノイドや家庭内パートナーと定義するなら、アイリスオーヤマがそこで中国や米国に正面から勝つのはかなり難しい。
さらに、家電スペシャリストの立場から率直に言えば、アイリスオーヤマの家電は、企画の目の付けどころは非常に面白い一方で、クオリティや質感、使い込みの完成度という意味では、まだ世界のトップブランドと真正面から戦えるレベルとは言い切れない製品も少なくない。
価格、機能、アイデアで市場を切り開くのは得意だ。だが、プロダクトの思想を極限まで磨き、世界中のユーザーに「これでなければならない」と思わせる力では、ダイソンやミーレ、フィリップス、あるいは中国の新興ハイテク企業の勢いと比べると、まだ課題がある。
もし、その家電の作り方と同じ延長線上でロボットを作るなら、世界は取れないと思う。

それでもJILBYが面白いのは、“導入”ではなく“定着”を見ているからだ
ただし、今回のJILBYを単純に「日本のロボットは遅れている」と切り捨てるのも違う。
発表会で、アイリスオーヤマ ロボティクス事業本部 本部長の吉田豊氏は、非常に重要なことを語っていた。ロボットの導入は進んでいる。ただし、それが使われ続けているか、定着しているかは別問題だというのである。
清掃ロボットや配膳ロボットは、たしかに街中で見かけるようになった。だが、現場では些細なことでロボット運用が止まる。
バッテリーが充電されていない。紙パックがいっぱいになっている。紙パックがうまく取り付けられない。ルート設定が現場に合っていない。誰が管理し、誰が改善するのか決まっていない。
そうすると、せっかくDX化したはずの業務が、あっさり人手に戻ってしまう。

吉田氏は、2.5万台のロボットを社会実装してきた経験から、そこが最大のボトルネックだったと語った。これはかなり本質的な指摘だと思う。
ロボットは、売れば終わりの家電ではない。いや、家電ですら本来は売って終わりではないのだが、ロボットはそれ以上に、現場の業務フローに組み込まれ、毎日使われ続け、トラブルが起きたら改善され、データを蓄積しながら運用が変わっていかなければ価値を発揮できない。

製造業であれば、工場長や生産技術部門がいて、KPIがあり、改善の主体がいる。だが、清掃、警備、介護、ホテル、小売といった非製造業の現場では、DXの主体者が明確でないことが多い。
ロボットを入れたはいいが、誰が責任を持って運用改善するのか。その不在が、サービスロボットの普及を妨げてきた。
アイリスオーヤマが見ているのは、まさにこの領域である。
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