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日本のロボットは“掃除”から世界へ出られるのか? アイリスオーヤマ初の完全内製DX清掃ロボット「JILBY」が突きつける現実

“ロボットが国家戦略になる時代”に、アイリスオーヤマが出した答え

 アイリスオーヤマが、法人向けDX清掃ロボット「JILBY(ジルビー)」を発表した。

 特徴は、同社として初めてソフトウェアとハードウェアを完全内製した法人向け清掃ロボットであることだ。ソフトウェアはグループ会社のシンクロボが開発し、ハードウェアは自社工場で製造する。

 企画、開発、製造、販売、アフターサービスまでを一気通貫で担う。アイリスオーヤマはこれを、単なる新製品ではなく、ロボティクス事業における「ベンダーからメーカーベンダーへ」の転換点として位置づけている。

 JILBYは、床面の集塵清掃を自動で行う業務用ロボットだ。約470×534×722mmの本体に、10インチの大型モニター、LiDARセンサー、3Dカメラ、超音波センサー、段差センサー、センサー搭載バンパーなどを備える。

 清掃能力は約500平方メートル/時。ノーマル、パワー、静音の3モードを搭載し、清掃終了後は自動で充電ステーションに戻る。バッテリーは着脱式で、交換すれば充電時間を待たずに連続運用もできる。

アイリスオーヤマが発表した法人向けDX清掃ロボット「JILBY」。前面の大型モニターには目のような表示が映し出され、業務用機器でありながら威圧感を抑えた外観に仕上げられている。約500㎡/時の清掃能力を備え、自動充電や着脱式バッテリー、ノーマル/パワー/静音の3モードなど、現場運用を前提にした仕様を盛り込んだ
アイリスオーヤマが発表した法人向けDX清掃ロボット「JILBY」。前面の大型モニターには目のような表示が映し出され、業務用機器でありながら威圧感を抑えた外観に仕上げられている。約500㎡/時の清掃能力を備え、自動充電や着脱式バッテリー、ノーマル/パワー/静音の3モードなど、現場運用を前提にした仕様を盛り込んだ

 スペックだけを見れば、そこまで驚くものではない。業務用清掃ロボットとして必要な機能を、かなり丁寧に盛り込んだ製品という印象だ。だが、今回の発表会で本当に興味深かったのは、JILBYそのものよりも、アイリスオーヤマがロボット事業をどう捉えているかだった。

 発表会で示された大きな背景は、労働力不足である。日本の労働人口は今後も減少し、2050年には2024年比で約25%減るとされる。

 政府もAIロボットを国家戦略のひとつに位置づけ、フィジカルAIを含むAIロボット分野で2040年に世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目指す方針を掲げている。

発表会では、労働人口の減少とフィジカルAI時代の到来が、JILBY開発の大きな背景として示された。政府はAIロボット分野を国家戦略のひとつに位置づけ、2040年に世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目指す方針を掲げている。ロボットはもはや研究開発のテーマではなく、産業競争力そのものに関わる存在になりつつある
発表会では、労働人口の減少とフィジカルAI時代の到来が、JILBY開発の大きな背景として示された。政府はAIロボット分野を国家戦略のひとつに位置づけ、2040年に世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目指す方針を掲げている。ロボットはもはや研究開発のテーマではなく、産業競争力そのものに関わる存在になりつつある

 つまり、ロボットはもはや一部の先端企業だけの研究テーマではない。国の産業競争力そのものに関わるテーマになりつつある。

 その流れの中で、アイリスオーヤマはJILBYを発表した。では、これが日本のロボット産業の勝ち筋になるのか。ここは、少し冷静に見たほうがいい。

中国はヒューマノイドを量産し、米国は“家族のようなロボット”へ進んでいる

 いま世界のロボット競争は、明らかに次のフェーズへ進んでいる。

 中国では、UnitreeやAgiBot、UBTECHなどを中心に、ヒューマノイドロボットの量産と投資が急速に進んでいる。EV、自動化工場、バッテリー、AI、センサー、サプライチェーンを持つ中国企業群が、フィジカルAIへ一気に雪崩れ込んでいる。

 BYDのような巨大EVメーカーまで、ヒューマノイドロボットをショールームやサービス業、さらには家庭領域へ広げようとしている。

中国では、Unitreeをはじめとする企業がヒューマノイドロボットの開発と量産を加速させている。EVやバッテリー、AI、センサー、サプライチェーンを持つ中国企業群がフィジカルAIへ一気に投資を進めるなか、日本が清掃や警備といった限定領域からどう世界と戦うのかが問われている
中国では、Unitreeをはじめとする企業がヒューマノイドロボットの開発と量産を加速させている。EVやバッテリー、AI、センサー、サプライチェーンを持つ中国企業群がフィジカルAIへ一気に投資を進めるなか、日本が清掃や警備といった限定領域からどう世界と戦うのかが問われている

 米国もまた、別の方向からロボットの意味を変えようとしている。iRobotの共同創業者であり、ルンバの生みの親として知られるコリン・アングル氏は、新たなスタートアップFamiliar Machines & Magicで、掃除のような単一タスクではなく、人と感情的な関係を結ぶ家庭内ロボットを目指している。

 ロボットは床を掃除する機械から、生活の中にいる存在、時には家族に近い存在へと変わろうとしている。

 そう考えると、日本で「清掃ロボット」や「警備ロボット」が最先端として語られることには、正直な違和感もある。

iRobotの共同創業者であり、ルンバの生みの親として知られるコリン・アングル氏らは、Familiar Machines & Magicで、人と感情的な関係を結ぶ家庭内ロボットを構想している。ロボットが単なるタスク処理の機械から、生活の中にいる存在へ変わろうとする流れは、日本のロボット産業にも大きな問いを投げかける
iRobotの共同創業者であり、ルンバの生みの親として知られるコリン・アングル氏らは、Familiar Machines & Magicで、人と感情的な関係を結ぶ家庭内ロボットを構想している。ロボットが単なるタスク処理の機械から、生活の中にいる存在へ変わろうとする流れは、日本のロボット産業にも大きな問いを投げかける

 中国がヒューマノイドを量産し、米国が人間とロボットの関係性そのものを問い直しているなかで、日本はまだ「床を掃除する」「施設を巡回する」という限定タスクにとどまっているようにも見えるからだ。

 フィジカルAIの本丸を、汎用ヒューマノイドや家庭内パートナーと定義するなら、アイリスオーヤマがそこで中国や米国に正面から勝つのはかなり難しい。

 さらに、家電スペシャリストの立場から率直に言えば、アイリスオーヤマの家電は、企画の目の付けどころは非常に面白い一方で、クオリティや質感、使い込みの完成度という意味では、まだ世界のトップブランドと真正面から戦えるレベルとは言い切れない製品も少なくない。

 価格、機能、アイデアで市場を切り開くのは得意だ。だが、プロダクトの思想を極限まで磨き、世界中のユーザーに「これでなければならない」と思わせる力では、ダイソンやミーレ、フィリップス、あるいは中国の新興ハイテク企業の勢いと比べると、まだ課題がある。

 もし、その家電の作り方と同じ延長線上でロボットを作るなら、世界は取れないと思う。

発表会では、アイリスオーヤマが家電で培ってきた「使いやすさ」へのこだわりも紹介された。炊飯器やサーキュレーター、洗濯機、冷凍庫など、毎日使う道具を作ってきた経験を、JILBYの操作性やメンテナンス性に生かしたという。最先端のAIだけでなく、現場で迷わず使えることも、ロボットの社会実装には欠かせない
発表会では、アイリスオーヤマが家電で培ってきた「使いやすさ」へのこだわりも紹介された。炊飯器やサーキュレーター、洗濯機、冷凍庫など、毎日使う道具を作ってきた経験を、JILBYの操作性やメンテナンス性に生かしたという。最先端のAIだけでなく、現場で迷わず使えることも、ロボットの社会実装には欠かせない

それでもJILBYが面白いのは、“導入”ではなく“定着”を見ているからだ

 ただし、今回のJILBYを単純に「日本のロボットは遅れている」と切り捨てるのも違う。

 発表会で、アイリスオーヤマ ロボティクス事業本部 本部長の吉田豊氏は、非常に重要なことを語っていた。ロボットの導入は進んでいる。ただし、それが使われ続けているか、定着しているかは別問題だというのである。

 清掃ロボットや配膳ロボットは、たしかに街中で見かけるようになった。だが、現場では些細なことでロボット運用が止まる。

 バッテリーが充電されていない。紙パックがいっぱいになっている。紙パックがうまく取り付けられない。ルート設定が現場に合っていない。誰が管理し、誰が改善するのか決まっていない。

 そうすると、せっかくDX化したはずの業務が、あっさり人手に戻ってしまう。

アイリスオーヤマ ロボティクス事業本部 本部長の吉田豊氏。発表会では、ロボットの「導入」と「定着」は違うと強調した
アイリスオーヤマ ロボティクス事業本部 本部長の吉田豊氏。発表会では、ロボットの「導入」と「定着」は違うと強調した

 吉田氏は、2.5万台のロボットを社会実装してきた経験から、そこが最大のボトルネックだったと語った。これはかなり本質的な指摘だと思う。

 ロボットは、売れば終わりの家電ではない。いや、家電ですら本来は売って終わりではないのだが、ロボットはそれ以上に、現場の業務フローに組み込まれ、毎日使われ続け、トラブルが起きたら改善され、データを蓄積しながら運用が変わっていかなければ価値を発揮できない。

サービスロボット元年から約20年。清掃や配膳など、ロボットの導入そのものは進んできた一方で、現場で使われ続ける仕組みづくりにはまだ課題が残る。JILBYが問うているのは、ロボットを入れることではなく、日々の業務フローの中で価値を生み出し続けられるかどうか
サービスロボット元年から約20年。清掃や配膳など、ロボットの導入そのものは進んできた一方で、現場で使われ続ける仕組みづくりにはまだ課題が残る。JILBYが問うているのは、ロボットを入れることではなく、日々の業務フローの中で価値を生み出し続けられるかどうか

 製造業であれば、工場長や生産技術部門がいて、KPIがあり、改善の主体がいる。だが、清掃、警備、介護、ホテル、小売といった非製造業の現場では、DXの主体者が明確でないことが多い。

 ロボットを入れたはいいが、誰が責任を持って運用改善するのか。その不在が、サービスロボットの普及を妨げてきた。

 アイリスオーヤマが見ているのは、まさにこの領域である。

Next紙パックを交換しやすいことが、フィジカルAIの入口になる
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滝田勝紀
滝田勝紀
VAGUE家電統括プロデューサー
モノ雑誌の編集に15年以上携わり『デジモノステーション』編集長を歴任。現在は家電スペシャリストとして、国内外の最新テクノロジーを長年取材。All About家電ガイドやMakuakeエバンジェリスト、楽天ROOM公式インフルエンサー(フォロワー56万人超)など幅広く活動する。海外取材経験も豊富で、欧州家電メーカー本社や世界最大級の見本市「IFA」への造詣も深い。また、Z世代向けメディア運営やPR会社経営の傍ら、インテリアスタイリスト窪川勝哉氏とのユニット「𝒾𝓃𝒞𝒶𝒹𝑒𝓃𝓏𝒶」で家電開発も手掛ける。機能とデザインの両面から、心地よい暮らしのあり方を提唱している。

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