ニトリだけじゃない! 家電を巡る“小売の鍔迫り合い(つばぜりあい)”にカインズ参戦 初の発表会で見えた可能性と「惜しさ」【家電で読み解く新時代|Case.54】
カインズには商品がありすぎる。必要なのは「編集」だ
今回、もうひとつ感じたことがあります。
発表会では電子レンジの実演途中に、使用している食器の説明が始まり、リサイクルPETを利用した商品、電子レンジで半熟卵を作れる調理用品、食品用カバーなど、さまざまなカインズ商品へ話が広がりました。

後半では、髪の毛がブラシへ絡みにくい構造を採用したコードレススティッククリーナーの実演も行われています。
これらの商品一つひとつは、実にカインズらしい。掃除機なら「吸引力○○Pa」というスペックだけではなく、「ブラシに髪の毛が絡み、あとでハサミを使って取り除くのが面倒」という不満を出発点にする。食器なら、食器棚できれいに重ねられることや、洗った後に底面へ水が残りにくいところまで考える。
まさに「暮らしの困りごと」を拾う企業だからこその商品開発です。ただし、その豊富さが今回の発表会では逆に情報量の多さにつながりました。記者として途中で考えてしまうのです。

「今日、一番のニュースは何なのだろう」と。1万9800円の電子レンジなのか。カインズが家電へ本格的に注力することなのか。それとも「暮らしの困りごと」を横断的に解決する商品開発なのか。
カインズには伝える材料が少ないのではありません。むしろ多いのです。だから必要なのは、さらに商品の説明を増やすことではなく、“編集”することだと思います。
何を今回のニュースの主役にするのか。主役を証明するために、どのデモを見せるのか。市場のどんな変化を背景として提示するのか。そして、「なぜこの商品はカインズだから生まれたのか」という一本のストーリーへどうつなげるのか。
筆者自身、15年以上モノ雑誌の編集に携わり、現在は起業家として企業のブランドやコミュニケーションにも関わっています。その両方の視点から見ると、今回のカインズには、商品価値を“ニュースとして伝わる価値”へ変換する部分に大きな伸びしろがあるように感じました。
なぜ今、ニトリもカインズも「家電」なのか
そして、ここからが今回の発表会で本当に重要な部分です。
質疑応答で今後の商品開発について尋ねられると、カインズは生活家電だけでなく、暖房器具やハンディファンなど季節家電にも領域を広げていきたいという考えを明らかにしました。

特にエアコンだけでは暑さや寒さを解決しにくい脱衣所やトイレなど、家の中に残されている不便にも着目しています。つまり今回の電子レンジは単発の商品ではなく、カインズがこれから家電を強化していく入口として見るべきでしょう。
実はいま、小売業界では「家電」を巡る境界線が急速に曖昧になっています。
象徴的なのがニトリです。家具やホームファッションを中心に成長してきたニトリは、現在、家電を新たな収益の柱として強化しています。
大型冷蔵庫、テレビ、ドラム式洗濯乾燥機、季節家電など商品領域を拡大し、決算の場でも家電を今後さらに伸ばしていく方向性が語られています。家具を買う店から、家具も家電もまとめて揃える店へ。これはニトリにとって自然な拡張です。
一方、家電量販店側も大きく動いています。ヤマダホールディングスとエディオンは経営統合に向けて動き始めています。しかも家電量販各社は、もはやテレビや冷蔵庫を販売することだけを事業領域としているわけではありません。
住宅、リフォーム、家具、インテリア、金融、エネルギー。家電を入口として「暮らし全体」へと事業領域を拡大しています。つまり今、面白いことが起きているのです。
家電量販店は、家電の外へ出ようとしている。家具店やホームセンターは、家電の中へ入ろうとしている。
反対側にいた企業同士が、「暮らし」という同じ市場へ向かい始めています。これは単なる家電販売競争ではありません。
生活者が家の中で何かを変えたいと思ったとき、「最初にどの企業を思い浮かべるのか」を巡る鍔迫り合いなのです。
カインズは「ニトリ」になる必要はない
そう考えると、カインズが家電へ力を入れる意味も見えてきます。ただし、カインズがニトリの後をそのまま追いかける必要はないでしょう。
ニトリの強さが「部屋」から家電を考えられることだとするならば、カインズには「家事」や「生活動線」から家電を考えられる強さがあります。
DIY、収納、掃除用品、キッチン用品、ペット、園芸、水回り、住宅設備、日用品。人が家の中で感じる困りごとと、カインズは極めて広い領域で接点を持っています。

今回の電子レンジも、その延長線上にあります。電子レンジだけを見るのではない。食品を買い、保存し、冷凍し、解凍し、調理し、食器へ盛りつけ、食べ終わったら洗い、収納する。
カインズなら、その一連の生活動線全体を商品開発の対象にできます。これは大手家電メーカーとも、ニトリとも違う強みです。

今回の電子レンジの初年度販売目標は約5000台だといいます。巨大な家電市場から見れば、まだ小さな一歩でしょう。
しかし重要なのは、このレンジが5000台売れるかどうかだけではありません。数年後に生活者が、「カインズの家電って、ちょっと気が利いているよね」と思うようになるかどうかです。
そのブランドを作れるかどうか。そして、そのためにこれから磨くべきなのは、製品だけではないと思います。その商品がなぜカインズから生まれたのか。既存の家電と何が違うのか。使うことで暮らしがどう変わるのか。それを誰もが一目で理解できるように「見せる力」もまた、これからの家電事業には必要です。
初めての家電発表会だけに、今回は商品の魅力を見せ切れなかった場面もありました。しかし、マグロの実演ひとつをとっても、プレゼンの最初に電子レンジをスタートさせるだけで、発表会のストーリーは大きく変えられます。
冷凍パスタも、2種類を用意することより、1種類を確実に目の前で温め、その結果を来場者自身に確認してもらうほうがはるかに強い。つまり、大掛かりな演出を追加しなければならないわけではありません。
商品の強みを理解し、それが最も伝わる順番に組み直すだけでも、発表会の説得力は大きく変わります。
ニトリが家電を新たな収益の柱へ育て、家電量販店側も「暮らし」へ事業領域を拡大する今、カインズが家電へ踏み出した意味は決して小さくありません。だからこそ次は、商品をもっと信じて見せてほしいと思います。
凍ったマグロなら、目の前で電子レンジへ入れ、実際に動かしたそのマグロを最後まで見せる。冷凍パスタなら、市販の冷凍食品を袋から取り出すところから始め、ボタンを押し、出来上がったものをその場で食べてもらう。それだけでも、「本当にできるんだ」という説得力はまったく違うはずです。
「暮らしの困りごと」を見つける力は、すでにカインズにある。次に必要なのは、その解決策を“伝わる価値”へと編集する力ではないでしょうか。今回の税込1万9800円の電子レンジは、カインズが家電市場で存在感を高めていく、その第一歩なのかもしれません。
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