ニトリだけじゃない! 家電を巡る“小売の鍔迫り合い(つばぜりあい)”にカインズ参戦 初の発表会で見えた可能性と「惜しさ」【家電で読み解く新時代|Case.54】
「重さを量らない」「W数を見ない」1万9800円のレンジ
今回、カインズが発表会の主役に据えたのが、「解凍」と「冷凍食品のあたため」を得意とする単機能のフラット電子レンジです。消費税込みの価格は1万9800円。
オーブン機能などをあえて搭載せず、「温める」という電子レンジ本来の仕事に機能を絞ることで、価格とのバランスを追求しています。

面白いのは、その開発思想です。例えば、スーパーで買った肉や魚を小分けにして冷凍したとしましょう。数日後、それを電子レンジで解凍しようと思ったとき、「これ何グラムだったっけ?」となった経験はないでしょうか。
冷凍パスタを温める場合も同じです。パッケージの裏側を見て、「500Wなら何分、600Wなら何分」と確認して電子レンジを設定する。一つひとつは大した作業ではありません。しかし、毎日の暮らしでは、こうした小さな面倒が積み重なります。
カインズが目をつけたのは、まさにそこでした。新製品には赤外線センサーと独自の加熱プログラムを採用。「解凍上手」では食材の重量を入力する必要がなく、表面温度を検知しながら出力を細かく制御します。

従来の電子レンジでは、例えば200W相当の弱い加熱をつくる際にも、500Wの出力をオン・オフしながら平均的に200W相当にする方式があります。
カインズの新製品では、それより低い300Wを軸にオン・オフを制御することで、局所的に熱が入りすぎるのを抑えると説明します。

しかも、完全に柔らかくなるまで解凍するのではなく、中心にわずかに凍った芯を残す。刺身の柵なら、そのほうが包丁を入れやすく、切った後に食卓へ並べる頃にはちょうど食べ頃になるというわけです。
もうひとつの「冷食あたため上手」では、冷凍食品の重量やW数、時間を設定することなく、ボタンひとつで温められます。さらに食品パッケージに記載されたW数と時間を設定した後、900Wの高出力を利用して加熱時間を短縮する時短機能も備えました。
派手なAIを前面に出すわけでもなければ、搭載メニュー数を競うわけでもありません。「冷凍した食材の重量なんて覚えていない」「冷凍食品を温めるたびに袋の裏を確認するのが面倒」「解凍で肉や魚を台無しにしたくない」。そんな日常の“小さな我慢”を拾い上げているところに、この製品の面白さがあります。

商品は面白い。だからこそ発表会が「惜しい」
だからこそ、今回の発表会で筆者が最も強く感じたのは「惜しい」ということでした。
象徴的だったのが、「解凍上手」のマグロの実演です。
会場では冷凍されたマグロの柵を電子レンジへ入れ、「解凍上手」をスタートさせました。ところが、実際にそのマグロが解凍されるのを最後まで待つのではなく、時間の都合もあったのでしょう、説明の途中から事前に解凍して用意されていた別のマグロへと切り替わりました。

確かに、あらかじめ用意されたマグロには目立ったドリップもなく、中心に少し凍った部分を残していることも確認できました。しかし家電の発表会で見たいのは、完成品だけではありません。
「いま目の前で電子レンジへ入れた食材が、この製品を使った結果どうなったのか」
そこにこそ、実演の価値があります。しかも、この問題はそれほど難しくなく解決できたはずです。
例えばプレゼンテーションの冒頭、司会者のあいさつを終えた直後に冷凍マグロを取り出し、来場者の目の前で電子レンジへ入れる。「それでは、これからこのマグロを解凍します」と言ってスタートボタンを押す。
そのまま商品開発の背景や市場環境、赤外線センサー、300Wを軸にした出力制御などを説明する。そうしている間に電子レンジはマグロを解凍しているわけです。
数分後、「では先ほど入れたマグロを見てみましょう」と実際に電子レンジから取り出し、その場でドリップを確認して包丁を入れる。

むしろこちらのほうが、プレゼンテーションとしてドラマがあります。来場者は説明を聞きながら、「さっきのマグロ、どうなっているんだろう」と結果を待つことになります。そして技術説明を聞いた直後に、その技術による結果を自分の目で確認できる。
プレゼンテーションの時間と電子レンジの解凍時間を別々に考えるのではなく、解凍している時間そのものをプレゼンに組み込めばいいのです。
料理番組なら「こちらがあらかじめ作っておいたものです」で成立します。しかし家電発表会の場合、目の前で動作させた製品と出来上がったものとの連続性こそが、その商品の説得力になります。
そこまで見せてもらえれば、「300Wを軸にした細かな出力制御」という少し難しい技術説明も、一気に生活者の実感へと変わったはずです。

冷たいパスタを2種類出すより、温かい1種類を確実に
もうひとつ気になったのが「冷食あたため上手」の実演です。

会場では冷凍パスタが用意され、筆者も試食しました。ところが、提供された2種類のパスタには、凍ってはいないものの、まだ冷たさを感じる部分がありました。
もちろん、これだけで製品の性能を断定するつもりはありません。冷凍食品は商品によって形状も内容量も違いますし、保存状態や初期温度、置き方などによって温まり方も変わります。
とはいえ、「冷食あたため上手」を訴求する発表会で、実際に提供された冷凍食品が冷たいという体験は、少なくとも製品にプラスの印象を与えるものではありません。
ここも、もっとシンプルに考えてよかったのではないでしょうか。例えば来場者の目の前で、市販の冷凍パスタを冷凍庫から出す。未開封の商品を見せ、そのまま電子レンジへ入れる。「冷食あたため上手」のボタンを押す。そして出来上がったものを、その場で来場者に食べてもらう。これだけで十分です。

複数の種類を同時に提供しようとすれば、当然ながら複数台の電子レンジを動かす必要があります。電子レンジは消費電力の大きな家電なので、会場側の電源容量や回路の問題も考えなければなりません。
とはいえ、今回の会場はカインズのオフィスです。事前に電源系統を確認し、必要なら複数の回路へ分散させるなど、準備できる余地はあったはずです。
仮にそれが難しいのであれば、無理に2種類を出す必要もありません。冷たいパスタを2種類提供するより、1種類の冷凍食品を目の前で確実に温め、「本当にボタンひとつでここまでできた」と実感してもらうほうが、はるかに商品の印象はよくなります。

発表会とは、試食会ではありません。たくさんの料理を振る舞うことが目的ではなく、その家電によって何ができるのかを最もわかりやすい形で証明する場です。
だからこそ、数を増やすことよりも、「これなら自分の家でも使いたい」と思わせる一度の成功体験を設計することのほうが重要なのです。
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