VAGUE(ヴァーグ)

接地面積はハガキ1枚分じゃなく“名刺半枚分”!? 世界最大級のソーラーカーレース「ワールドソーラーチャレンジ2025」で使われたブリヂストンのタイヤ「エンライトン」の思想とは

ソーラーカー用「エンライトン」ってどんなタイヤ?

 2025年8月、オーストラリアで世界最高峰のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ2025」が開催されました。

2025年8月にオーストラリアで開催された、世界最大級のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(BWSC)」の様子
2025年8月にオーストラリアで開催された、世界最大級のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(BWSC)」の様子

 ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ(BWSC)」は、1987年に初開催された歴史あるソーラーカーイベントで、オーストラリア北部の都市ダーウィンから南部のアデレードまでおよそ3000kmを、5日から6日かけて走破する過酷なレースです。

 2年ごとに行われるBWSCは、今回で17回目の開催。世界17の国と地域から34チームがエントリー、日本からも東海大学、工学院大学、和歌山大学、大阪工業大学の4チームが参戦しました。

 おもに2つのクラスに分けられ、最大6平方メートルのソーラーパネルで純粋な太陽光をエネルギーとして走行する「チャレンジャークラス」、およびドライバーを含めて2名以上が搭乗、ソーラーパネルで走行しますが夜間は充電することも認められている「クルーザークラス」があります。

チャレンジャークラスにエントリーした東海大学ソーラーカーチームのマシン#10「Tokai Challenger」。5位入賞だった
チャレンジャークラスにエントリーした東海大学ソーラーカーチームのマシン#10「Tokai Challenger」。5位入賞だった

 日本の4チームはすべてチャレンジャークラスへのエントリーでした。

クルーザークラスのマシン(写真はクルーザークラスで優勝した香港のVTCソーラーカーチームの#25 「SOPHIE 8X(ソフィー8X)」
クルーザークラスのマシン(写真はクルーザークラスで優勝した香港のVTCソーラーカーチームの#25 「SOPHIE 8X(ソフィー8X)」

 ひとことでダーウィンからアデレード間「3000km」走破といっても、じつは相当なもの。仮に北海道・稚内から鹿児島までクルマで自走(函館から青森・大間まではフェリー)したとしても、その距離はおよそ2800km。BWSCでは、それ以上を走行しなければなりません。

 また走行できる時間は、朝8時から夕方17時まで。1日9時間とレギュレーションで決められています。レースの間、チームは砂漠地帯にテントを張り、夜を明かします。赤道近くのダーウィンは日中30度を超える気温でしたが、8月は南半球にあるオーストラリアは冬。南部にあるアデレードに近づくにつれ気温が下がり、「夜は氷点下近くにまで下がるのではないか」といいます。

 基本はオーストラリアを南北に縦断する高速道路「スチュアート・ハイウェイ」を通るルートとなりますが、その過酷さはなかなかイメージしにくいものです。大泉洋さんを世に出したHTBの伝説のTV番組「水曜どうでしょう」のファンなら、はじめての海外ロケ「オーストラリア大陸縦断」企画とほぼ同じルートを走っている、といえば理解できるでしょうか。

オーストラリアの道路。8月は南半球のオーストラリアでは冬の時期。南部に行くと季節柄、雨も多いという
オーストラリアの道路。8月は南半球のオーストラリアでは冬の時期。南部に行くと季節柄、雨も多いという

 大自然の中を走るBWSC、赤い大地の中を南北に通る吹きさらしの道路には、強風による砂埃やバーストしたタイヤなどさまざまなものが道の上に落ちています。今年開催された8月は、南部では雨も多い時期で、実際今回大会は、最終日の6日目には大雨に見舞われたようです。

 それだけではなく対向車の大型トラックとすれ違うときの風圧などにも耐えながら、チャレンジャークラスのソーラーカーは平均時速80km/h以上で走行していきます。パンクなどしようものなら、まちがいなく順位争いから脱落してしまいます。

 そんなソーラーカーを支えるのがタイヤです。2013年にタイトルスポンサーとなったブリヂストンは、タイヤサプライヤーとしてBWSCを支え、今回の2025大会に出場する32チームにタイヤを供給しました。

「ENLITEN」の技術が採用されたソーラーカー用タイヤ
「ENLITEN」の技術が採用されたソーラーカー用タイヤ

 タイヤサイズはすべて「95/80R16」。つまり横幅約100mm、外径約560mmという大きさで、一見するだけではクルマに装着するものには思えない、大きめのフライングディスクのような薄さです。空気圧はだいたい500kPaくらいといいます。

 そのタイヤで、車両重量が150kgから200kgほど、プラスしてドライバーの80kg(レギュレーションで80kgに決まっているそう)というソーラーカーを支えます。ちなみにチャレンジャークラスの近年の流行は3輪、クルーザークラスはほぼ4輪です。

 ブリヂストンは各チームにタイヤを16本提供していますが、、3000kmもの長いレースを1セット(3本ないし4本)のみで走り切るチームも多いようです。

 乗用車用タイヤ1本の接地面積が「ハガキ1枚分」といわれますが、ソーラーカー用のタイヤは「名刺半分サイズ」。それだけ転がり抵抗が少なく、「ソーラーカー自体が軽いっていうのもありますが、指1本でマシンを押すとスーッと転がっていっちゃうんです。驚きますよ」(工学院大学ソーラーチーム顧問、濱根洋人教授)といいます。

また東海大学の学長で、東海大学ソーラーカーチーム監督の木村英樹教授は「ソーラーカー用のタイヤをひとことでいえば、『魔法のじゅうたん』ですね。低転がりで車両の重量をリセットしてくれます。我々のチームはBWSCに1993年から参加していて今回で11回目の出場なんですが、タイヤの進化というのはソーラーカーの開発には欠かせないものです」とコメントしました。

タイヤサイズはすべて「95/80R16」。横幅は100mmと細く、外径はおよそ560mm
タイヤサイズはすべて「95/80R16」。横幅は100mmと細く、外径はおよそ560mm

 ホイールに組む前のタイヤにも触ってみましたが、軽く、薄いのには驚きました。ちなみにこのタイヤには、テイジン・アラミド社の循環型アラミド素材「トワロンネクスト」が採用されているとのことでした。

Nextブリヂストンのモータースポーツ管掌 今井 弘さんに話を聞いた
Gallery 【画像】ブリヂストンの「エンライトン」ってなに? 写真で解説(31枚)
シチズン「プロマスター」新作 “海の男”をうならせた頼れる1本
ネギシマコト
ネギシマコト
VAGUE編集部 副編集長
1970年東京都文京区生まれ。大学卒業後、音楽誌、美術誌(陶芸担当)の編集を経て1995年に自動車雑誌業界に入り、輸入車系月刊誌を中心に、国産車系月刊誌でもクルマのイロハを学ぶ。当初よりタイヤ担当としてほぼすべてのタイヤの試走会に参加し、今年で31年目。 最近のマイブームは鉄道での旅。移動中でもパソコン仕事ができる便利さを今さらながら知り、クルマ業界出身にもかかわらず最近はドライブする機会がめっきり減った。趣味は神社巡り(御朱印帳7冊目)、美術館巡り、落語、演劇鑑賞。大の巨人ファン。

page

  • 1
  • 2

VAGUEからのオススメ

海と向き合い、自らを再起動する――プロセーラーが語る、シチズン「プロマスター」で“限界を超える”意味とは【PR】

海と向き合い、自らを再起動する――プロセーラーが語る、シチズン「プロマスター」で“限界を超える”意味とは【PR】

RECOMMEND