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渋谷から「世界のTOSHIBA」へ──東芝ライフスタイルが描く“デザイン経営”の未来とは【家電で読み解く新時代|Case.24】

東芝ライフスタイルが描く“デザイン経営”の未来

 起業家であり、家電スペシャリストでもある滝田勝紀氏が、連載「家電で読み解く新時代」と題して、テクノロジーの奥に潜む“時代の空気”を紐解きます。

 今回取り上げるのは、東芝ライフスタイルが2025年8月に渋谷に開設した新拠点「Tokyo Design Center」。都市とカルチャー、そしてテクノロジーが交差するこの場所で、同社が描くのは“グローバル市場に向けたデザイン経営”の進化です。

 デザインセンター長の宮澤卓行氏へのインタビューをもとに、その狙いとビジネス的インパクトを掘り下げます。

女子中高生などがスクールバックに、アクセサリーやキャラクターなどのぬいぐるみを装着するのがトレンド
女子中高生などがスクールバックに、アクセサリーやキャラクターなどのぬいぐるみを装着するのがトレンド

「渋谷」という“場所”がもつブランド力

 東芝ライフスタイルが、渋谷・桜丘の複合施設「Shibuya Sakura Stage」に新たなデザイン拠点を開設した。その名も「Tokyo Design Center(以下、TDC)」。

 渋谷という立地を聞いたとき、筆者は少し驚いた。なぜなら、日本の家電メーカーの多くは、研究開発拠点を郊外に構えるのが通例だからだ。

 利便性は高くても家賃が高く、スペースも限られる渋谷に「デザイン拠点」を置く理由は何なのか──。

 TDCのセンター長を務める宮澤氏は、冒頭から明快だった。

「渋谷を選んだ最大の理由は、“共創”です。渋谷には学生や若いクリエイター、ファッション、音楽、食といったカルチャーが集まる。デザインは技術だけでなく、空気感や社会の流れをどう読み解くかが重要です。渋谷にはその“現場の感覚”がある」

 渋谷は、東京のなかでもとくにカルチャーとテクノロジーの発信地である。東芝ライフスタイルはここを、単なるオフィスではなく 「未来の暮らしを共にデザインするためのハブ」 と位置づけている。

東芝ライフスタイル Tokyo Design Centerディレクター デザインセンター センター長 宮澤卓行氏
東芝ライフスタイル Tokyo Design Centerディレクター デザインセンター センター長 宮澤卓行氏

CMF+P──「色と素材と仕上げ」を超えた戦略設計

 TDCの最大の特徴は、単なるショールームだけでも、R&Dラボだけでもない点にある。それは CMF+P という、家電メーカーとして新しい設計思想が内包されている点だ。

 CMFとはColor(色)/Material(素材)/Finish(仕上げ)の略。インテリア業界ではおなじみの考え方だが、ここにProduction(生産)を加えるのがTDCの肝だ。

「これまで家電のデザインは、造形と機能の領域で議論されることが多かった。しかし“暮らしに馴染む”という感性の領域をどう具体化するかというと、最終的にはCMFと生産の設計力が決め手になる」。

 実際、TDCではCO-CREATION SPACEと呼ばれる空間で、照明・インテリア・配置環境をリアルに再現しながらプロトタイプを検証している。

 会議室ではなく、生活空間の中でデザインを決める。そのプロセスが、製品の「色味」や「素材感」、「光の映え方」までの意思決定をスピードアップさせる。

 東芝ライフスタイルは近年、このCMF+Pの基準を 社内全体の共通言語 として整備してきたという。

 これにより、製品カテゴリーを超えたブランドトーンの統一、開発リードタイムの短縮、そしてグローバル展開時の表現軸の一貫性を狙う。

Tokyo Design Centerのエントランスはグリーンの植物が配置され、中央にはロゴがモダンに輝く
Tokyo Design Centerのエントランスはグリーンの植物が配置され、中央にはロゴがモダンに輝く

“推し活”とデザイン──渋谷発のカルチャーが製品開発を動かす

 今回のTDC開設で特筆すべきは、デザインを「カルチャー」と地続きで考えている点だ。宮澤氏が現在注目しているのは、いま渋谷を中心に広がる“推し活”と“色”の関係性だという。

「推し活文化の根幹には“色”があります。推しカラーは自己表現であり、共感のシンボルです。そこから家電のカラー展開を考えるというアプローチは、従来のプロダクト開発にはなかった視点です」。

 渋谷の街を歩くと、Z世代を中心に自分の「推し色」を身につけた若者たちを多く見かける。それを家電のデザインに落とし込む──。

 一見突飛に思えるが、実は極めてロジカルな考え方だ。多品種少量生産が可能になった今、こうした限定色・先行色の展開は、ブランドの若返りやファンベース形成に直結するからだ。

 TDCでは、年5〜6件の共創プロジェクトを予定。学生やスタートアップ、インテリア業界、ファッションブランドなどと組みながら、柔軟な試作と素早い反応検証を行うという。

NextNEXT:意外な「Tokyo Design Center」の位置づけとは?
Gallery 【画像】東芝ライフスタイルの新たな拠点を画像で見る(10枚)

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